ビューティーカレンダーCEO・田崎拓己「暦の年齢ではなくそれぞれが持つポテンシャルの年齢で判断されていく時代になる」
財界オンライン / 2024年2月13日 18時0分
「日本のエンターテイメントはまだまだこれからです」─イベント事業を手掛けるビューティーカレンダー社長の田崎氏はこう語る。政府がエンターテイメントを押し出し発展が著しい韓国との違いを挙げ、日本は国もユーザーも意思決定や行動に対し慎重であると指摘。また、美容事業も手掛け「いま肌の美容医療はアンチエイジングよりエイジレスが主流です」と話す同氏のクリニックでは、歳に抗うのではなく歳を感じさせない肌づくりを行う。日本のエンターテイメントの力をどう掘り起こしていくか─。
米・バークリー音楽大学で苦手な英語を克服
─ 田崎さんは現在イベントや美容に関する事業をされていますが、学生時代は米・バークリー音楽大学で音楽を学ばれていますね。
田崎 はい。音楽家を目指していたわけではなく、高校生の時に日本を変えたいと思ったことがありまして。周りに海外で生まれ育っている人がたくさんいて、そういう方がたと話すと、東京生まれのわたしは日本しか知らず、薄っぺらいと感じることが多くありました。
都立の戸山高校に通っていたのですが、周りが早慶などを目指す中で同じようにやっていてもしょうがないと思い、日本から出ようと決めました。自分が一番得意な音楽と、一番苦手な英語を掛け合わせることで、英語が得意になるかもしれないと考えて渡米しました。
─ 専門はどういったことを勉強されたのですか。
田崎 専門は映画音楽です。バークリーが特に力を入れていたのが映画音楽で、映画のBGMなどを学ぶ学校なのです。エアロ・スミスのスティーブン・タイラーに名誉博士号を授与し、ジャズ界の著名な方を多数輩出しています。特に力を入れていたのが映画音楽で、ジョン・ウィリアムスやスティーブン・スピルバークというような方々の講義もたまにあるのです。
わたしはインディー・ジョーンズやスターウォーズの音楽を分析がしたかったのと、超一流の人に教えを乞う機会がある映画音楽を専攻していました。
─ それが帰国後の起業につながってくると。
田崎 はい。映画イベントの演出やプロデュースに活きています。具体的にはハリウッド俳優が日本に来てレッドカーペットイベントで歩く時の演出などをさせていただいています。
─ 音楽、芸術などの美的センスが事業にも役立っているということですね。
田崎 そうですね。結局どのジャンルもエンターテイメントであるというのがわたしの考えです。
音楽だけではなく、アートや映画、食などもすべてエンターテイメントで、そこにはクリエイティブな要素が求められますから、そこで自分の強みを発揮できているかなと。
─ そういう体験があってイベント事業を始めたのですね。イベント事業は今年で16年ですが、やりがいはどのようなところで感じますか。
田崎 当初高校の時に思い描いていた超一流の人たちとの出会いというのが沢山あったことです。イベントをやるときは、その業界の一番トップの方がいらっしゃいます。若い頃は社会性もありませんでしたが、英語ができるということで色々なところに呼んでいただき、大変勉強になりました。
─ 苦手な英語をどうやって克服したのですか。
田崎 価値観が変わったある出来事があります。
アメリカでピザを買ったときに、ピザを売っていた仲の良いイタリア人が、急に「日本人ってバカだよな」と言ってきたんです。どうしてかと聞くと、自分たちは引き算もできなくてお釣りの計算を間違えると。でも日本人は引き算も掛け算も割り算もすごくできるのに、英語ができない。だから、引き算ができない俺らよりバカだよなと。
─ その時どう思いましたか。
田崎 それを聞いて妙に腑に落ちた自分がいたんです。なるほど、こういう引き算ができない人でもできる英語を、自分は難しく考えすぎていたのだと気付きまして。そこからスッと英語が自分の中に入ってくるようになりました。それから必死になって色々な人に話しかけていましたね。
─ 難しいと思い込んでいたと。いまは自分の弱みだった英語が強みになっていると。
田崎 はい。日本で英語ができる方は、英語を使う外資の金融やコンサルなどの企業にどうしても行ってしまいます。ですから、わたしたちのイベントやプロモーションの業界には英語が話せる人があまり残らない業界なので、すごく重宝されました。
今は海外での仕事が多くて、特にフランス企業との仕事が一番多いです。日本で英語を話せて、色々な企業やブランドのプロモーションをやっていて、信用できる人ということで、ほとんど紹介で人脈が広がっています。
日本企業でも海外での記者会見を担当させていただいています。コンビニ、アパレル、ジュエリー、ファッションショー、飲食関係などのVIP向けのパーティーもあります。
まだ未発達の美容医療分野を日本で切り拓く
─ それと美容クリニック事業や美容商材の商社も展開されていますが、田崎さんのクリニックや美容商社ではどういうことに重点を置いていますか。
田崎 はい。うちのクリニックは日本でほとんどないスキンケア外来をしています。医療の観点からクレンジングや化粧品の使い方を薬剤師が担当して指導します。必ずしも高い美容液や化粧品を使わなくとも、クレンジングのやり方一つで肌は変わります。
こういう肌の組織があり、こういう成分があって、これはやってはいけない、これはやっても大丈夫、そういったものを医者、看護師、薬剤師が明確に案内するようにしています。実はこういった正しい知識は案外誰も教えてくれなくて、皆自己流でやってしまっているのです。
美容商社でも、クリニック常駐の医師や薬剤師による成分チェックや治験をしたうえで、日本に持ってくるかどうかを判断しています。国が違うと法律も違うので、日本で正しく販売できるもの、効果がちゃんと出るものかどうかの検査は必須になります。とりわけ弊社で扱っているものはオーガニックのものが多く、世界的にも成分規制が増えているので、弊社としては、自信と安心を持って提供できる商材を扱うように心がけております。
─ 正しい知識を、ということが売りになっているわけですね。今後経営していく上でどういったビジョンを掲げますか。
田崎 美容医療で肌に関しては、アンチエイジングよりエイジレスだと。歳に抗うのではなく、歳を感じさせない肌というのが最近の美容皮膚科学会などのテーマになっています。
それ以外でも、たとえば内臓年齢や膣年齢、色々なところにも年齢という言葉がついた箇所があります。
その人の暦の年齢ではない身体の年齢が、これからの高齢化社会に一つの大きいコンテンツとして可能性を感じています。例えば、どの歳でもそうですけども、わたしは今40歳になりましたが、今の40歳と、10年前の40歳と、10年後の40歳と、時代も感覚も全然違うと思うんですよね。
美容というのはただ綺麗にするだけではなくて、こういう高齢化社会に対して、違う視点で人をセグメントして、次の時代につなげていけるというので、大きなポテンシャルを感じています。
─ その人のポテンシャルを掘り起こすと。
田崎 はい。一定の数字で判断される時代ではなくて、それぞれが持つポテンシャルによって判断されていく時代になっていくと思っています。それに対し美容医療は大きな影響力を与えられるのかなと思います。
─ この業界で先頭を走っている国というのはどこになるのでしょうか。
田崎 美容医療は韓国、タイ、ドイツでとても進んでいます。日本は美容に関しては先進国ではなくて、少し遅れているような感じです。アメリカもまだそこまでではないですね。韓国には日本から美容ツアーで行くぐらいですから、隣国の韓国が世界の最先端です。
逆にベトナムなどのアジアでは、美容医療が遅れている国も多くあります。美容外科はあるのですが、美容皮膚科・化粧品もという部分はまだそんなに発達していません。
ですから今後のプランとしては、日本の美容というものを海外に持っていく。そうすることによって、日本の美容医療も発展していくと考えています。
─ 田崎さんのように日本と海外の美容医療をつなげようとしている企業はありますか。
田崎 多くはないです。実際に美容医療の展示会が韓国でよく開かれていて、昨年も3月に行ってきたのですが、飛行機で2時間で行けるのに、その展示会に日本人はほとんどいません。日本の美容医療に関わっているドクター、インフルエンサーの方たちも、その展示会を知らないことが多いんです。SNSを使えば開催することは分かるはずですが、意識が外に向いていないので見ているものがすごく限られているんですね。
─ 最先端の情報を取りにいっていないと。
田崎 はい。韓国の大きな展示会に行くと、日本でようやく最近入ってきたものが、実はもう何年前にもできていて、さらに新しくなっている状況です。
ただそういったものを日本へ持ってきたとしても、今度は世の中がついていかないので、やはりその順序が大事だと思います。
韓国では最先端のものを一般的に使っていますが、それを日本に持ってきても、日本のユーザーがなかなかそれに対して反応しにくいのです。
─ それはなぜですか?
田崎 国民性と文化が大きいと思います。日本は日本国内で完結してしまう国ですので、外から来たものに対して敏感ですが、定着にすごく時間がかかります。
例えば、日本の総人口は1億2千何百万に減っている中でそのうちの300万人が海外から来た在日の方ですが、毎年そこまで増えていません。それは社会のシステムが整っていないですし、日本に住むメリットを諸外国に与えられていない。そうすると日本人だけの文化がまた形成されてしまうので、美容、医療というのも日本人の価値観で決まってしまいます。
韓国のようにトップが法律を変えましょうとなった時に、パッと動くバイタリティが日本にはありません。
─ そこが異なる点だと。
田崎 ええ。ソウルの国際空港に行っても海外客が溢れていますね。ソウルや釜山の街中も外国人ばかりです。世界が韓国に魅力を感じていて、いろいろなイベントも開催されます。
映画業界でも、昔はジャパンプレミアという映画の一大イベントを日本でやっていました。なぜかというとハリウッドの俳優も日本が好きなので日本でやりたいと。それが今は韓国でやりたい、中国、上海でやりたいとなっていて、日本はついでという立ち位置になっています。今までと逆転してしまっているのです。市場も韓国や中国の方が大きくなっています。
─ 映画市場も韓国の存在が大きいのは、政府がエンターテイメントに力を入れていることも大きいですね。
田崎 はい。日本は公平性を大事にしてアイドルなども押し出さない。そこが差ですね。
先ほどお伝えしたように美容はエンターテイメントだと思っていますし、エンターテイメントでないと人はそこにコミットしません。
ですから、入り口としては美容が楽しいと思う世界を作って、そこには楽しい以外に、日本人としての自信や誇りを持てるようにしていきたいです。
─ 今後、日本が美容医療の先進国になるにはどうしたら良いと考えますか。
田崎 メイドインジャパンがこんなに世界でも受け入れられているという成功事例を作ることがその業界を盛り上げる一つのトリガーになると思います。
大谷翔平選手がその最たるものだと思います。
海外で活躍しているから海外に目を向けるようになる。そうすると次の大谷翔平を目指して国内でも盛り上がって力を入れる。そういったものが美容医療やエンターテイメントでもできればと思っています。
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