【倉本 聰:富良野風話】生物多様性
財界オンライン / 2024年2月5日 15時0分
生物多様性という言葉がある。
【倉本 聰:富良野風話】最後の旦那
人類が地上に存在する、あらゆる生物の生き方に対して、それぞれの特性、環境への適応などを、それぞれの立場から考えてやらねばならぬという、いわばある種の親切、言い方を変えればお節介な感じのする言葉である。
生物多様性というならば、人間もその中に入るべきであり、そう考えると、プーチンさんの考え方、習近平さん、金正恩さん、トランプさん、みんなの考えを認めなくてはならないことになり、そんなこと無茶だ、と思ってしまう。
世界に目を向けるまでもない。
この日本という小さな国の小さな国会の小さな与党の中でさえ、こんなにいくつもの派閥があって、それぞれがそれぞれの目論見を持ち、それぞれがそれぞれの野望を持って、それぞれ必死に生きているとするなら、それこそ生物の多様性は一体どこでどうやってくくれるのか。
政治家になりたい、将来総理大臣になって一国の権威のトップに立ちたいというのは昔から小学生が一度は夢見て作文に書く、いわば定番の理想だった筈だが、今この全てが見透かされた世の中で、果たしてそんな荒唐無稽を堂々と叫ぶ子がいるのだろうか。そう問うたら、いやいるんだよ、そういう奴が。それが生物多様性って奴さと、判ったような判らないような哲学的意見を吐く奴がいて、一同しんと黙ってしまった。
十軒の家族が山奥で住み始める。
一軒は農家、一軒は床屋、一軒はめし屋、一軒は大工、それぞれ職を持っているのだが、さてこの聚落全体のためにやることが段々増えてしまって、誰か悪いけど自分の職を捨て、聚落のための仕事を専従でやってくれる奴はいないか。クジ引きをしたら運悪くめし屋が当たってしまって彼は渋々本業を辞めて村の公僕となる破目となる。
この運悪いめし屋が即ち役人・議員。めし屋が今まで稼いでいた金をみんなが分担して持つべきだから、そこでそれぞれがめし屋に払うのが分担金、即ち税金。もともと村人と役人の関係、村人と税金の関係というものは、そんな所に起源があるように思うのだが、いつの頃からかこの、もともとイヤイヤになっていた公僕の旨味が世に判ってきて、公僕希望者が世の中に増えてくる。
本当に村に尽くさんがために公僕になろうとする志の高いのも中にはいるが、これは楽(らく)して金も権力も自然に集まると邪悪なことを考える不純なのもいて、それを目論むのが職業政治家。こうなると、これが代々の家職となる。
こういう歴史がつみ重なって、そこに生物多様性という不思議な都合良い理屈まで加わって、こういう変てこな社会ができちゃったのではあるまいか。
社会と政治、社会と政党、政党と金の関係を考えると、こんなシナリオが成り立つ気がするのだが、ヒネクレ者の邪推であろうか。
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