第一生命経済研究所 首席エコノミスト・熊野英生の提言「消費は良いのか、悪いのか?」
財界オンライン / 2024年2月10日 11時30分
先日、ある会合で消費は回復しているのか、悪化が続いているのかが、話題になった。メンバーはエコノミストではない面々だ。回復派は政府が公式見解として回復していると発表しているからだと言う。悪化派は物価の重石、さらには住宅取得コストが格段に上がっているから消費が萎縮していると言う。とても面白かったので、発言せずに皆の議論に聞き入っていた。
この「消費はどうなのですか?」という問いに答えるのは、案外難しい。例えば、日銀短観の非製造業は1991年以来の高い景況感をつけている。企業マインドは超好調だ。コロナ禍の2020年のボトムに比べると、大幅に回復して、インバウンドの追い風もある。
反対に、総務省「家計調査」のように世帯ベースで実質消費をとると、2023年中はマイナスが目立つ。それを使って推計したGDP統計の実質個人消費もマイナスが続く。家計サイドは明らかに悪化を示している。
このギャップは価格転嫁で説明できる。企業サイドは、コスト上昇を製品価格に上乗せして、消費者に負担してもらっている。だから、収益悪化を免れられる。家計サイドはその負担に苦しむ。
でも、家計の消費萎縮が進めば、企業サイドも苦しくなるのではないか。もう実質消費のマイナスは相当に長期化している。マイナス効果が企業サイドにネガティブ・フィードバックする恐れは否定できない。
ひとつの打開策は、十分に賃上げができることだ。物価上昇率以上に賃上げが行われると、実質賃金がプラスになる。実質消費もじきにプラス方向に向かう。ただ、問題は待っていれば実質賃金がプラスになるとは限らない点だ。
焦点は、生産性上昇である。1人当たり雇用者の生産物(数量)が向上することだ。実質労働生産性とも言い換えられる。2018年頃に叫ばれた「働き方改革」をもっと実りのあるものにする。現状、日本の生産性は低く、毎年の伸び率も鈍い。それが、実質賃金の低さの背後にあると考えてよい。
その変革のためには、①人手不足への対応、②テクノロジー活用、③投資拡大・業務見直しを大胆に進める必要がある。すでに、店舗ではレジが自動化され、野球場には完全キャッシュレスのところがある。新しい駅に行くとほぼ無人で、コンビニも自分で決済まで行うことになっている。2018年よりも数年を経た現在の方が労働節約型の技術が格段に普及している。
おそらく、人手不足業種は、大胆な労働節約を推進することによって、実質賃金をプラスにするような賃上げができるはずだ。もう一度「働き方改革」に火をつけることで、消費の停滞を抜けて、2024年の個人消費を盛り上げることはできるだろう。企業サイドと家計サイドのWin-Winの関係をつくることが課題である。
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