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自由民主党税制調査会長・宮澤洋一「経済人は守りに入らず、常に新しいことに挑戦を。同じことをやっていては企業は30年しかもたない」

財界オンライン / 2024年2月6日 11時30分

宮澤洋一・自由民主党税制調査会長

「日本の税制は増築・改築を重ねており、微妙なバランスでできている」─自民党税制調査会長の宮澤氏はこう話す。少子化・高齢化の中で日本再生に向けて税制はどうあるべきか。企業の事業承継やM&Aに恩典を与えるなど、様々な工夫が続く。そして何よりも国の予算の3分の1を社会保障費が占める現状にあって「消費税を含めた改革が必要」と訴える。


日本の歴史を背負った税制の姿

 ─ 自民党税制調査会長として、今後の日本の税制のあり方をどう考えていますか。

 宮澤 私自身、理想的な税制は頭の中にいろいろあるのですが、税というのはなかなか難しいものです。

 戦後、「シャウプ勧告」(米コロンビア大学の財政学者・カール・シャウプを団長とする税制調査団がGHQ=連合国軍総司令部に提出した日本の税制建て直しに向けた勧告書)から始まって、日本の税制は、ある意味で増築・改築を重ねてきており、全体の姿として見ると綺麗な形にはなっていません。

 ただ、今の税制は戦後70年以上の日本の歴史を背負っていますから、これをすぐに理想形にするのは革命でもないと難しい。微妙なバランスでできているからです。ですから今後の税制も、今の税制を前提に考えていかなくてはなりません。

 その前提に立つと、やはり消費税のことが一番気になります。それは、日本の予算の3分の1以上が社会保障費という姿になり、今後高齢化が進み、若年層が減る中で、子育てを含めた社会保障は、予算の中でのウエイトが上がっていくことを覚悟しなければなりません。

 そうなると、高いレベルの社会保障を実行している欧州の国などを見ると、平均で20%を超えるような消費税が大きな財源になっています。

 ─ 高レベルの社会保障を維持するための財源として消費税が注目されると。

 宮澤 ええ。ですから社会保障と消費税の関係を、もう一度考えていかなければいけない。「社会保障と税の一体改革」には、私も自民党の代表として参加しましたが、これをもう1回、どのタイミングで実行していくかは非常に大きな要素だろうと思います。

 また法人税では、OECD(経済協力開発機構)を中心とした「BEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクト」によって、世界的な引き下げ競争に歯止めがかかったのは、大変大事なことでした。その中で日本の成長に導くような税制改正をどうやっていくかが課題です。

 所得税に関して言えば、世界の状況から見ると、日本は消費税がGDP(国内総生産)に占める割合が相対的に低いんです。原因はいわゆるサラリーマンの給与所得控除、年金所得向上が世界的に見ても大きいことです。ただ、これを変えるのは政治的に難しいと思っています。

 4年ほど前に、基礎控除を増やし、給与所得控除を減らすという改革を実行しました。収入が1200万円以下の方の税負担は同じですが、基礎控除を増やすことで、いわゆるフリーランスを始めとした働き方の変化に対応したのです。同じ仕事をしている人達が、片方の税負担が軽く、片方が重いという状況を是正することが必要です。


大企業、中小企業の「賃上げ」の現状は?

 ─ 日本再生に向けては民間企業の投資が重要ですが、投資をした企業への優遇をどう考えますか。

 宮澤 日本では15年度以降、段階的に法人税率を引き下げ、実効税率は30%を切る水準まで落とし、法人税率自体も4~5%下げてきています。それは法人税率を下げることで投資が増え、給与も増やしてもらえるだろうと期待したからです。ただ、残念ながら、我々の期待になかなか応えていただけなかったのが現実でした。

 その意味で、先程申し上げたように、法人税の引き下げ競争も収まってきた中で、やはり一般的な税率は今後、少し上げてもいいのではないかと。ただし、おっしゃるように、成長に向けた投資、特に国内投資をしていただく企業を応援する形は考えていかなければいけないと思っています。

 ─ 今、ようやく企業は賃上げに動くところが増えてきました。

 宮澤 そうですね。23年の春闘もそこそこの数字でしたし、24年もそれなりの数字が見込まれます。これまでは欧米主要国との給与格差があまりにも大きくなり過ぎていました。物価自体もそうですが、物価を上回って給与が上がり、「安い日本」と言われない状況をどうつくっていくかが大事だと思います。

 ─ 大企業はかなり給与を上げてきましたが、中小企業はなかなか賃上げができないところも多いのが現状です。

 宮澤 賃上げ税制に関連して言えば、中小企業は赤字のところも多く、その中で賃上げをしても別段、税の恩恵がありません。そこで最大5年間、控除の繰越を延長する措置を取りました。こうした中で前向きな経営を積極的にやっていただくことが、今後の日本の成長の原動力ではないでしょうか。

 ─ その意味では再編、M&A(企業の合併・買収)も考えられますね。

 宮澤 ええ。中小企業がM&Aを実行すると恩典が来る税制はすでにつくってありましたが、それを2社、3社と行ったところに、さらなる恩典が来たり、事業承継に向けてM&Aを活用し、効率化を図っていただいた際にも恩典が来るような体制になっています。


財政健全化を図る方針を常に持たなければ…

 ─ 24年度の予算案が出されましたが、依然として国債依存が3割あります。この状況に対して経済人からは危惧する声が強いわけですが。

 宮澤 我々も全く同じ気持ちなのですが、残念ながら自民党の中にも、数年前に米国で言われた「いくら借金をしてもいいんだ」ということをおっしゃる方がいないわけではありません。

 財政を健全に保つことは大変大事だと思いますし、現段階で日本国債が破綻することはないにしても、放漫財政を続けていると「キャピタルフライト」が起きかねません。

 つまり、日本に投資する投資家、国民含め、日本ではなく海外の金融商品がいいとして、2000兆円と言われる個人金融資産が海外に向かってしまうことが危惧されます。これによって円の信認が失われ、大変な円安になることが一番怖い。ですから、財政の健全化を図るという方針は常に持っていなければいけません。

 このことは、我々が中心になって主張をし続けていくことだろうと思います。自民党税調は人の嫌がることを、大きな「刀」を持ってやらなければいけません。そこが揺らいでは国家の危機につながりかねませんから、しっかりやっていきます。

 ─ 日本はGDPがドイツに抜かれて3位から4位になり、1人当たりGDPでは31位となっています。生産性向上と税の関係をどう考えますか。

 宮澤 正直に申し上げれば、生産性向上は税よりは予算の方が効き目は高いのではないかと思います。

 先程の中小企業に頑張っていただくという話との関連で言えば、企業の最盛期は30年と言われます。いわば同じことをやっていたら30年しかもたないということです。やはり違うことに挑戦するのが企業にとって非常に大事なことだと思います。

 その意味で、中小企業の経営者の平均年齢が60代というのは、やはり高すぎる。デジタル化の時代の中で、経営者の代替わりを促進しようということで18年に「事業承継税制」をつくりました。

 これは財務省的に言えば非常識な税制でしたが、企業経営者を若返らせようという趣旨で設けた10年間の特別措置です。幸い、かなり使っていただいているようです。

 ─ 日本はスタートアップの育成も課題です。

 宮澤 スタートアップが日本の成長の原動力であることは間違いありません。特にサービス業のスタートアップは今後日本を引っ張っていってもらわなければいけない方々ですから、税制改正でも、それなりの手を打ったつもりです。

 ただ、米国の例を見ていると、スタートアップの経営者で成功された方は、社会の格差を助長する恐れがあることに注意する必要があると思います。

 ─ 宮澤さんは経済人との交流も多いと思いますが、何か注文はありますか。

 宮澤 やはり守りに入っている日本の経営者が多いのではないかと感じます。また、米国的な経営を導入し、「モノ言う株主」が出てきたせいもあるでしょうが、配当を多くし過ぎている面があるし、自社株買いも多い。

 また、手持ちの現預金が積み上がっている企業も多いですが、それは次のステップアップを図るために、しっかり投資していただくことが大事になっているのだと思います。


人口減、高齢化の中
いかに成長を図るか?

 ─ 日本は人口減、高齢化の中で経済成長をしなければならないという難しい立ち位置ですが、この問題をどう考えますか。

 宮澤 経済成長に向けては、労働人口が増えるのが大変大事なことです。国内的には女性の社会参加率をさらに高めると同時に、60歳以上の方に労働に参加していただく余地は、まだまだあります。加えて、外国人材の活用も大変大きな要素です。外国の方々にいかに来ていただくかという時には賃金を上げていくのも大事なことではないでしょうか。

 ─ 外国人材を呼び込むには国としての魅力を高めることも大事になりますね。

 宮澤 ええ。これだけ教育水準が高いところで平準化している国は世界にほとんどありません。また、安全という意味でも魅力的ですし、外国人観光客が戻ってきていることでもわかるように、文化や食にも高い魅力があります。しかも、東京に代表されるような公共交通ネットワークを持っている国は、世界に1つもありません。

 ─ 今、外国人観光客は食について「美味しい」と同時に「安い」と言ってくれますが、もっと対価は求めていく必要がありますね。

 宮澤 そう思います。先日、ある酒類メーカーの社長とご一緒した時に、私の方から「働いている方の給与を倍にして、儲かる値段で商品を売って下さい」とお伝えしました。

 ─ その方は何と言っていましたか?

 宮澤 頑張ってみますとおっっしゃっていました(笑)。ただ、それだけ価値のあるものをつくっておられることは間違いありません。

 ─ 東京の都市としての魅力は高いわけですが、一方で「東京一極集中」の問題も言われます。この問題をどう考えますか。

 宮澤 これは本当に大事なことだと思っています。ただ結局、明治維新以来、もっと言えば江戸時代から、日本人は数百年かけて東京、大阪に集まってきたわけですから一朝一夕でできると思ってはいけない話です。

 それこそ100年かけて、一極集中ではない世界をもう一度つくろうという話でなければいけません。いくら各自治体に1億円ずつ配っても、人は戻りはしないのです。

 やはり、お金の話というよりは制度の話として、常に一極集中を解消することを心がける政策を行うことで、10年経ち、20年経って、少しずつ変わってきたということになるのではないかと。5年で地方に人が移るということはあり得ません。

 ─ 時間をかけた取り組みが必要だと。

 宮澤 そうです。ただ、高齢化に伴って年金を受給される方が増えているというのは、実はこの問題を考える上で大事な要素です。

 サラリーマンや公務員の方々が全国で同じ仕事をしていたとしても、東京は物価が高いので給与も高いことが多い。しかし、年金は全国一律なんです。

 ─ ということは、東京で年金で生活している方は、ある意味で金銭的には損をしていると言える?

 宮澤 ええ。本来、合理的に動くのであれば、東京より物価の安い地方で生活した方が正しいとも言えるわけです。そうした選択をしていただけるような環境をどうつくっていくかが課題です。ただ、これも焦ってやってしまっては実現しませんから、時間をかけて取り組む必要があります。

 ─ 様々な課題はありますが、日本再生の可能性はあるということですね。

 宮澤 間違いなく、再生の可能性はあります。

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