上川陽子・外務大臣「トルコなどの首脳と話してきて、日本への期待を感じました」
財界オンライン / 2024年4月10日 11時30分
ウクライナ戦争、イスラエルとハマス等武装勢力との衝突、台湾問題…大きく揺れる世界情勢─。「いま世界は歴史の転換点にあるということを、外交の最前線に立ち日々実感している」と語るのは外務大臣の上川陽子氏。絡み合う国際情勢における日本の在り方について、「日米同盟を基軸にしながら途上国・新興国との連携を高め、そして国連を中心とした多国間主義で世界調和を目指すこと」が日本の基本スタンスであると国内外に強く訴える。世界平和への課題解決に向け日本に信頼と高い期待が寄せられる中、外交のあるべき姿とは─。
今後の日本の外交スタンス
─ 世界はウクライナ、パレスチナにおける2つの戦争で、人々の混乱・分断の最中にあります。経済にも莫大な影響を及ぼしていますが、日本の外交の基本スタンスを聞かせてください。
上川 いま世界は歴史の転換点にあるということを、私は外交の最前線に立ち日々実感をしております。
冷戦終焉以降、グローバル化が進む中、開発途上国を含む国際社会に一定の安定と繁栄がもたらされましたが、まさにロシアによるウクライナの侵略は、これにあからさまな挑戦を突きつけたということであります。このロシアによる暴挙は、ポスト冷戦期の終焉を象徴するものと認識しています。
現下の国際情勢では、欧州・中東の地域、さらに東アジアの3地域のうち2つの地域において戦火が上がっている状況です。現在の国際社会において、この3地域は相互に複雑に絡み合っています。
東アジアの問題が欧州に影響を及ぼすのと同様に、ウクライナや中東の問題は遠く離れた場所での出来事ではなく、日本を含めた東アジアに影響を与える問題であると捉え、外交に臨んでいます。
日本外交が目指すのは、国際社会を協調に導くために、対話と協働を通じて、新たな解決策を共に創り出していくという「共創」です。
日本は、国の体制や価値観を超え、多様な国家が平和の中で共存共栄することができるように、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化を強く世界に訴え「人間の尊厳」を中心にした考えを打ち出しています。
─ 具体的な行動としてはどう考えていますか。
上川 意識的に取り組んでいることは3つです。第1に日米同盟を基軸にしつつ、G7、日米韓、そして日米豪印といった同盟国・同志国との連携を深めていくこと。
第2は「グローバル・サウス」への関与強化。新興国、途上国、これをパートナーとして連携強化をし、国際社会を協調へと導きたいと考えています。オファー型協力などを駆使して、きめ細かな外交を展開し、国際社会の幅広い支持と協力を得ていく必要があると考えています。
第3は、国連を中核に据えた多国間主義の重視です。今回のウクライナ、中東情勢、北朝鮮の問題についても、国連を中心により機能を高め、改革を進めていくことが、日本の外交の方針です。
こうした考え方をもって、1月からの外交をよりギアを上げ取り組んでいる状況です。
─ 11月のG7外相会合では議長をされましたが、手応えはどうでしたか。
上川 私自身これまでもG7や同志国と連携して、今後も強力な対ウクライナ支援の継続を一貫して訴えてきました。
会合でも今後も厳しい対ロ制裁と強力なウクライナ支援に取り組む姿勢は不変であると、G7各国と一致いたしました。
日本はウクライナと共にあるというこの姿勢は決して揺るがないということ。今般のキーウの訪問でもその姿勢を直接ウクライナ側に伝達し、国際社会に対し強いメッセージとして発信しました。
またウクライナ訪問の際には、ブチャの視察をし、女性やお子さんたちと直接話をする中で、WPS(Women, Peace and Security)という視点で取り組みが重要であるという認識を強くしたところです。
─ ウクライナの経済復興に向けては何が望まれますか。
上川 これは民間企業の協力を得ることが極めて重要であると考えます。官民一体となった復旧復興を力強く推進したいと考えています。
同時に、これから開かれる「日・ウクライナ経済復興推進会議」は、支援に関する国際的な機運を盛り上げる機会として、避難民を受け入れたポーランドをはじめとする関係国や国際機関、また両国の関連企業、こういった方たちにも声を掛けて招待を行っていく考えです。
先般のウクライナ訪問時には、同会議の開催に向けて、シュミハリ首相とも具体的な意見交換も行わせていただき、民間セクターが関与する10本以上の協力文書に署名できるように取り組むことを伝達しました。
この会議の成果も踏まえて、引き続きウクライナに公正かつ永続的な平和を実現するべく、各国と連携しつつリーダーシップを発揮したいと考えています。
米との協力体制は…
─ 今年は米選挙も行われますが、ウクライナ内政で米国との提携については?
上川 わが国は力による一方的な現状変更の試みを許さないというスタンスで、一日も早くロシアの侵略を止めるという立場に立っています。
先般、米国を訪問しブリンケン国務長官と会談した際にも、同長官との間でこの強力なウクライナ支援を継続していくという方針で一致をしました。
─ トルコのエルドアン大統領とも会ってこられていますが、パレスチナ問題についてはどのようなスタンスですか。
上川 中東情勢については、日本のスタンスとして取り組んでいることは主に3つです。
1つは人道支援。そしてハマスのテロ攻撃については断固非難をいたします。攻撃から100日以上がたってもなお多数の人質の解放は実現していません。
同時にガザ地区では、連日にわたり多数の子どもたち、女性、高齢者の皆さんが亡くなっている状況です。その危機的な人道状況を深刻に懸念しています。
もう一つは、このガザの紛争が周辺の地域に波及することを絶対に避けなければいけないと考えています。このことについては、発生以来この周辺国あるいはG7と問題意識を共有して取り組んできました。
しかし残念ながら少し事態がそうした方向に傾きつつあることは非常に由々しき事態です。ホーシー派による紅海をはじめとするアラビア半島周辺海域において、航行の権利や自由を妨害する試みを断固非難をしております。
ガザの人道的な危機を一刻も早く終わらせるために何をすべきかについて、各国外相とは真剣に議論をし、共に取り組む決意を確認しています。
一連の訪問の成果も踏まえ、事態の早期沈静化、そして地域の安定化に向けて引き続き粘り強く積極的に取り組んでいきたいと考えています。
─ 今回の訪問で様々な各国トップと対話する中で、各国からの日本への期待というのはかなり感じましたか。
上川 はい。今回そのことを一番強く感じて帰ってきました。日本に寄せる信頼と期待は強いものを感じました。
政治家を目指す原点
─ 上川大臣が政治家を志す原点に米国留学時の経験があると聞いています。
上川 そうですね。米国にいたのは80年代で、日米関係が大摩擦の時でした。日本が『ジャパン・アズ・ナンバーワン』とエズラ・ヴォーゲルが表したあの時代に、日本の顔がなかなか見えにくいという状況を見まして、国益を守る、存在感を示す、発信型で積極的に、ということが課題であると。日本がもっとリーダーシップをとっていくことの重要性をその時にすごく感じたんですね。
また、各国の留学生と交流する中で、将来もしかしたら今まだそういう状況にないアジアの国々の人に、日本が取って代わられるかもしれないなという危機感を非常に強く感じたんです。
─ 実際にGDP3位から4位に落ちていますね。
上川 数字だけではなく、実際にそのような国々のやる気、本気度ということをひしひしと感じ取りました。
日本は戦後、先人たちに頑張っていただいたことを持続する努力を惜しまずやらなければ、その延長線上に幸せや平和はあるものではないと。ですからいい時ほど注意深くやらないといけない。先のことを考えて、日本がどんどんと各国に抜かれていくリスクはやはりあるのではないかというのを緩みの中に見ました。
私自身も含めて戒めながら、しかし前に向かってどんどん攻めてぶつかって、挑戦していきたいなと思っています。
外務大臣として、これまで〝顔の見える日本〟ということを意識して、積極的な発信をきちんと実行してきた点を、各国には支持をいただけたのではないかなと思います。
─ 各国との対話の手応えは感じているということですね。
上川 はい。ものすごく大きな手応えがありました。各国から評価いただいたことを今後も大事にしていかなければいけないと思っています。
官民連携で世界に調和を
─ 台湾総統選が1月に決まりましたが、中国は隣国として経済では切っても切れない関係、最大の貿易相手国です。外交を含め、今後の日中関係はどうあるべきだと考えますか。
上川 13日に行われた台湾総統選挙では頼清徳氏が選出をされました。私から、民主的な選挙が円滑に実施されたこと、そして頼氏の当選に対しまして祝意を表する談話を発表しました。
台湾はわが国にとって、基本的な価値を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人であります。
政府としては、台湾との関係を非政府間の実務関係として維持していくとの立場を踏まえつつ、日台間の協力と交流のさらなる深化を図っていく考えです。
台湾をめぐる問題につきましては、対話により平和的に解決をされること、また地域の平和と安全に寄与することを期待するというのが、わが国の従来からの一貫した立場です。今後とも米国等の関係国とも緊密に意思疎通しつつ、状況の推移を注視してまいりたいと考えています。
日中関係については、日中両国間には様々な可能性と共に、数多くの課題や懸案があります。
わが国としては、「戦略的互恵関係」を包括的に推進すると共に、「建設的かつ安定的な関係」の構築を双方の努力で進めていく。この方針の下で引き続き中国との間で、あらゆるレベルで緊密に意思疎通を図っていきたいと考えています。
─ ウクライナ支援の中で民間企業との協力について触れていただいたが、企業へのメッセージはありますか。
上川 これまで、ウクライナ問題や開発途上国に対してODAを通じて、とりわけ企業の皆さんがそれぞれの地域で、例えばインフラ整備などを進んでやっていただいてきました。その中で、人材を養成しその国、地域、自らが自立することができるような支援をずっと続けてきたところであります。
そして、地球温暖化などの課題に対しても新しいエネルギーの開発、太陽光や風力、あるいは水素を使った社会システムの開発、温室効果ガス排出ネット・ゼロの組織をつくってゼロの運動が動いています。そこをやっていくためには、企業の力は不可欠であります。
DX・GXについては途上国も大変重要であると考えていますし、どの国も今それをめぐって科学技術の力をうまく生かして、これからの時代を切り開いていこうというところですので、ウクライナ・中東においても、新しい可能性とフロンティアがあることから、そういうものを一緒に取り組むことによって、平和と安定、繁栄がなし得ると強く思っています。
企業の皆さん、アカデミアも含めて積極的に持てる力を発揮していただいて、官民学連携で、新しい技術開発を一緒にするなど、様々なダイナミズムを興していくということが必要だと非常に強く感じています。
─ 企業側も経済安全保障という概念をもって、経営をグローバル化しなければ存続できない時代ですので、官民一体というのは非常に大事ですね。最後に、上川大臣の座右の銘を聞かせてください。
上川 国会議員当選以来、「鵬程万里」という言葉を座右の銘としています。鳳は飛び立つと万里に向かってずっと飛び続けていく。高い理想を掲げて遠くを見つめるという事であります。
私は日々の外交活動において、日本外交への信頼や期待は非常に高いと実感しており、これに応えるため精力的に外交を率いてきました。
今年は3月に国連安保理議長として重要な責務も控えています。鵬程万里という言葉が示すとおり、自由で開かれた国際秩序を守り、平和を実現していくという高い理想を掲げ、様々な方面に目を配りながら指揮を執っていきたいと考えております。
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