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「われわれの狙いは産業競争力の強化」産業革新投資機構・横尾敬介の『日本再生論』

財界オンライン / 2024年3月15日 7時0分

半導体関連2社を巨額買収
「半導体の競争は世界的にすごくし烈な戦いになっている。半導体材料において、日系企業の合計で世界シェアの8割、9割を占めており、世界的に見ても強い工程がいくつかあるが、個々の企業規模や事業規模が小さい。そうした分野を強化するのが大事だということで、日本の産業競争力をさらに高めていくことができれば」

 こう語るのは、産業革新投資機構(JIC)社長CEO(最高経営責任者)の横尾敬介氏。

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 昨年6月、半導体素材大手JSRの買収を決めたJIC。JSRは半導体材料のフォトレジスト(感光剤)で世界トップシェア企業。フォトレジストではJSRの他、東京応化工業や信越化学工業、住友化学、富士フイルムの上位5社で世界シェアの9割を占める。

 ただ、わずか数千億円規模の小さな市場に技術力のある日本企業がひしめきあっていることから、以前から再編などによって、国際競争力を強化する必要性が指摘されていた。

 買収額は約9040億円で、TOB(株式公開買い付け)が成立すればJSRは上場廃止となる見通し。当初は23年末にはTOBを開始する予定だったが、中国当局の審査が長引いており、TOB開始は24年2月以降になる予定だ。

 また、昨年12月には、富士通の子会社で、半導体パッケージ用基板を手掛ける新光電気工業の買収を発表。新光電気は、フリップチップタイプパッケージやプラスチックBGA基板など、電子機器などに欠かせない半導体パッケージの総合メーカー。国内ではイビデンと並ぶ半導体パッケージの有力企業だ。

 ただ、新光電気の売上高は2863億円(2022年度)。前述したJSRも22年度の売上高は4088億円しかなく、経済安全保障の観点から、海外企業などからの買収を危惧する声も出ていた。

 JICは子会社のJICキャピタルが八十二インベストメントからの出資も受け入れ、大日本印刷(DNP)、三井化学とコンソーシアムを組み、TOBで、富士通保有以外の全株式の取得を目指す。その上で、富士通が保有する株式は、TOB後にコンソーシアムから提供された資金を用いて、新光電気が自社株買いし、最終的にはコンソーシアムが新光電気の全株式を取得することになる。

 買収総額は約6850億円となる見通しで、出資比率はJICキャピタル(八十二インベストメントが間接的に保有する分を含む)が80%、DNPが15%、三井化学が5%となる。

「新光電気はパッケージの世界で非常に競争力を持っている会社。今後、AI(人工知能)がますます進化し、2030年以降の実用化を目指す〝(信号処理を電気ではなく光のまま実現する)光電融合〟が実用化された時に不可欠な技術で、その時に1番バッターでいたいという狙いがある」(横尾氏)




経済安保は出口が無いが投資ファンドには出口がある

 JSR、新光電気の相次ぐ買収によって、一気に半導体再編のキーマンとなったJIC。それでも、横尾氏は再編が目的ではないという。

「あくまでも再編が目的でなく、再編は手段。目的は業界の産業競争力を世界的なトップレベルに持っていくことであり、一部メディアに出ているように、JSRと新光電気を一緒にしようという考えはない」(横尾氏)

 近年は米中対立などもあり、岸田文雄政権は「新しい資本主義」政策の中で、半導体を経済安全保障上の重要物資と位置付け、国内投資の拡大とサプライチェーン(供給網)の強靱化を打ち出した。

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 現在は世界中が、戦略的物資である半導体の確保や先端技術の獲得にしのぎを削り、さながら投資合戦・有力企業の誘致合戦といった様相を呈している。

 そうした中、日本もすでに台湾積体電路製造(TSMC)の誘致や次世代半導体の国産化を目指すラピダスの支援を打ち出しており、JICによる一連の買収もその一環。

 ただ、横尾氏は経済安全保障という観点だけで買収を決めたわけではないと強調する。

「経済安保は出口が無いから、一度お金を入れると、補助金や助成金という形でずっと投じ続けなければならない。しかし、投資ファンドはあくまでも出口があり、必ずリターンを出す必要がある。だから、結果的に経済安保につながる投資になるかもしれないけど、安全保障だから投資してくれというのは筋が違う。われわれとしては、あくまでも民間の力を活用して、出口があって、リターンが出るかどうかが大事」(横尾氏)




経営統合や成長投資を通じて産業競争力の強化へ貢献

 横尾氏は旧日本興業銀行(現みずほ銀行)出身。大学時代に「天下国家を議論するのが好きで、日本を動かす仕事がしたい」と考え、当初は政治家を目指していた。ところが、両親が大反対したため、日本経済や産業を支える中心的な役割を果たしていた興銀に入行した。

 その後は、みずほ証券社長や経済同友会の専務理事をつとめ、19年にJIC社長に就任。数回断ったそうだが、「天下国家とか、お国のためと言われると弱い(笑)」性格も相まって、社長職を引き受けることになった。

「社長をお引き受けする際、責任を明確にするために、わたしが最初に言ったことは、当然、国家の産業政策に沿った投資を行うが、JICの独立性が保たれないと、民間の活力は引き出せませんということ」(横尾氏)

 産業革新投資機構(JIC)は2018年、産業競争力強化法に基づき、産業競争力の強化と民間投資の拡大という政策目的の実現に寄与するべく発足した投資会社。民間だけでは投資対象になりにくい分野に、民間資金の呼び水となって、傘下のファンドや民間ファンドへの投資を通じて、政策的に意義のある事業分野へリスクマネーを供給。国際競争力向上に寄与することを目指している。

 政府は今国会にも、産業競争力強化法を改正し、JICの運用期限を現在の2034年から2050年まで伸ばす方向で検討している。期限が伸びることで、JICにはエネルギーや宇宙など、より長期的な観点での投資が期待されている。

 また、政府は22年に「スタートアップ育成5カ年計画」を策定。現在、1兆円規模のスタートアップ投資額を27年度に10兆円に増やす方針で、JIC傘下のJIC VGI(ベンチャー・グロース)は累計64件に投資(昨年12月時点)。ここから上場企業が4社生まれている。

「オープンイノベーションの領域に視野を置き、スタートアップを増やしていくことは、日本の活性化において大事なこと。やはり、民間がなかなか投資できない足の長いプロジェクトにコミット(関与)できるのが官民ファンドの役割だと思う。民間がやれるものは民間がやり、われわれの仕事は民間の活力を引き出すことにある」と語る横尾氏。

 産業競争力の強化に向け、官と民、それぞれの役割が問われている。

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