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【政界】国民の信頼回復に向けて岸田首相は行動できるか? 「全容解明」の先に待つ改革への覚悟と課題

財界オンライン / 2024年3月21日 7時0分

イラスト・山田紳

いつまでも続くのか。経済再生に向けた政策はいつ打ち出されるのか……。そんな声が経済人から上がる。1月に召集された通常国会は、自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件の衝撃に揺れ続けている。派閥の解散から政治倫理審査会の開催という異例づくしの展開で、首相・岸田文雄はその対処に追われた。失われた国民の政治への信頼を取り戻すと同時に、国内外の難局を乗り切るためには、岸田の手腕がより一層重要となるのは言うまでもない。そして岸田だけでなく、国政に携わる者全ての覚悟が試されている。

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「室町時代の末期だ」

 自民党幹事長の茂木敏充は、今の党内の混迷を歴史になぞらえた。「室町末期だ。派閥の連合体という封建体制が崩れる状況。まだ織田信長も豊臣秀吉も表に出ていない。ここから群雄割拠の時代に入るのだろう」。安倍派など4派閥が解散を決め、岸田を含む党の次期総裁レースは確かに混沌としている。

 だがそれ以前に、党として「政治とカネ」を巡るこの難局をどう乗り切るのか。自民党という船全体が視界不良の航路を漂流している状態だ。昨年9月に幹事長を続投した茂木と総裁・岸田の隔意も深まっており、政治資金問題への対応を巡って「首相官邸と党幹事長室が連携できていない」との声がしきりに党内から漏れる。

 その代わり岸田がこのところ頼りにしているのが、昨年末の安倍派幹部の一斉辞任により、国会対策委員長に緊急登板した無派閥の浜田靖一である。防衛政策に精通した国防族議員だがタカ派色は薄く、2度目の防衛相を務めた2022年には、元自衛官への性暴力問題を受けて全自衛隊に対する異例の特別防衛監察に踏み切った。

 非自民の細川護熙内閣が誕生するきっかけとなった1993年の衆院選で初当選し、野党・自民党で苦労したせいか、国会では与野党のバランスを重視する調整型の政治家だ。

 1月に始まった通常国会で、裏金事件の批判にさらされた自民党は、野党からの要求に譲歩を重ねた。岸田の施政方針演説よりも先に予算委員会の集中審議を行ったことが象徴的だが、2月も毎週のように集中審議の開催を受け入れた。

 とにかく政府の24年度予算案成立を優先する浜田の低姿勢は、逆風下で他に手立てがないという面もあるが、国民の信頼回復へ「あらゆる機会をとらえて説明責任を果たす」と繰り返す岸田の意向も踏まえたものだった。これまでぎくしゃくしていた官邸と国対の意思疎通も、「浜田さんが着任したことでスムーズになった」と政府・党の双方で評価されている。官邸と幹事長室の広がる溝とは対照的である。

 政治とカネの問題は三つのフェーズが予想される。①国会による「全容解明」②自民党内での規制強化③政治資金規正法の改正、がそれだ。

 予算審議が衆院でヤマ場にさしかかった2月、①の全容解明について、野党は足並みをそろえて政治倫理審査会の開催を要求した。日本維新の会代表・馬場伸幸は、与党に協力する場面も多い同党にしては珍しく、政倫審が開かれなければ予算審議を拒否する可能性も示唆した。

「今回に限って言えば、国民の信がない空虚な予算を成立させても、国家・国民のためにはならない」

 国会の政倫審は、ロッキード事件の反省を踏まえて1985年に設置された機関だ。議員が政治的、道義的に責任があるかどうかを審査する。強制力はなく、偽証罪も適用されないため、疑惑の議員たちが「みそぎ」を済ませるための方便になりかねないと長く批判されてきた。ただ、対象となる議員にとって極めて不名誉な事態であることには違いない。


政倫審のハードル

 2月14日の衆院予算委の集中審議で、安倍派幹部や元幹事長・二階俊博らを政倫審に出席させるかを問われて、岸田は微妙な物言いに終始した。「実態をよく知る本人をはじめとする関係者に、説明責任を果たすよう促している。ただ、政倫審については、国会にお決めいただくことだ」。岸田はもっと踏み込んだ答弁で流れを作りたがったが、安倍派幹部らに出席の意向を確認できていないと周囲から止められた結果だった。

 この答弁と前後して、永田町に「4月の衆院解散・総選挙があり得る」と、やや唐突な噂が流れた。4月28日投開票の衆院3補選(東京15区、島根1区、長崎3区)だけでなく、岸田が解散を決断して国民に信を問うという説だった。自民党関係者の一人は「このままでは選挙が危うい安倍派や二階派の議員たちにプレッシャーをかけて、政倫審に引っ張り出そうと官邸が流したのではないか」と懐疑的に語った。

 そして野党は2月16日、自民党の衆院議員51人を衆院政倫審に出席させるよう、与党に要求を突きつけた。51人とは、その前日に自民党が公表した党内の聞き取り調査結果に基づく。対象になった安倍・二階両派など85人のうち、現職衆院議員を全員呼べという意味だった。

 自民の調査結果は匿名での公表にとどまり、裏金の使途についても「会合費」など15項目が羅列されていた。野党は「非常にいいかげんで、ザル的な調査だ」(立憲代表・泉健太)と訴え、政倫審への大量出席要求を正当化した。

 しかし、政倫審はあくまで本人の希望に基づく弁明の場であり、審査にかかる時間を考えても、あまりに高いハードルなのは明らかだ。むしろ国民向けのパフォーマンスや、岸田への揺さぶりという面があった。



裏金と確定申告

 自民党の政治資金とともに、領収書などが不要な「政府の裏金」も改めて注目された。官邸が支出する内閣官房報償費(官房機密費)である。

 裏金問題で官房長官を辞任した松野博一が、昨年12月の辞任までの14日間だけで機密費4600万円あまりを支出していたことが発覚した。松野は毎月の初めにその月の分を支出する慣習があったと釈明したが、「辞める閣僚が、短期間になぜそれほど多額の支出が必要なのか。駆け込みで支出された裏金ではないか」と批判が相次いだ。

 官房機密費は政策への非公式な協力の対価、情報収集の謝礼、慶弔費にあてられるとされる。歴代政権が1年に十数億円程度を使っているが、具体的な使途が明らかになるケースはほとんどない。

 かつて元官房長官・野中弘務(故人)は、小渕恵三内閣時代に毎月5000万~7000万円を支出しており、「自民国対委員長に500万円、首相の部屋に1000万円」のほか、党の参院幹事長室や政治評論家らにも配った、と生々しい証言をしたことがある。

 このため、時の政権は「国民のためではなく、政権維持のために巨額のカネを使っているのでは?」と常に疑惑の目を向けられてきた。選挙対策や自民党総裁選で票集めをする見返り、予算案・法案の国会審議を円滑にするために野党を懐柔する費用などである。

 間の悪いことに、裏金問題の衆院審議が白熱した時期は、税金の確定申告(2月16日~3月15日)と重なっていた。厳しい税の取り立てを受ける一般国民が「国会議員の裏金にきちんと課税しないのは不公平だ」と反感を覚えたとしても致し方ないだろう。

 岸田が2021年の党総裁選に勝利して最初に幹事長につけた甘利明は、在任中の35日間に政党から政治家個人に支出される「政策活動費」3億8000万円を受け取っていたことが判明した。裏金や政策活動費は、使い切らなかった残額を政治家個人が保管していれば雑所得とみなされ、所得税法上の課税対象となり得る。

「脱税とならないように当時使い切ったのか。確認してほしい」と追及された岸田は「適正に処理されている」と調査を拒否した。安倍政権時代に幹事長だった二階が党から受け取った政策活動費50億円についても、岸田は「確認するまでもなく、適切に使用されていると認識している」と苦しそうに答弁した。

 その一方で、岸田は確定申告について「法令にのっとり適切に申告、納税を行うようお願いしたい」と国民に呼びかけたため、批判の火に油を注いでしまった。一般人の申告漏れには重い追徴課税をするくせに、議員の政治資金は収支報告書を訂正すればおとがめなしなのか、というわけだ。

 確定申告期間のスタート時に大きなトラブルは起きなかったものの、財務相・鈴木俊一は「国民が不安や怒りを持っていると感じる。税務署職員が大変苦労しているのは申し訳ない」と謝罪せざるを得なかった。

 政治資金ばかりか、沈静化したかに見えた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と政権の関わりまで再浮上した。文部科学相の盛山正仁が、21年衆院選で教団の友好団体から支援を受けていたという問題だ。

 当時の写真も報道されたが、盛山は国会で「記憶にない」を連発した。さらに「団体の推薦確認書にサインしたかもしれない」と言ったかと思えば「推薦書はちょうだいしていないのではないか」と言を左右にした。党内からは「さっさと謝って、今後は付き合わないと反省して見せればいいのに、ごちゃごちゃ言い訳するから事態が悪化するんだ」(中堅議員)と苦言も漏れた。


政策遂行の決意を

 予算案の衆院通過が見えてくると、立憲民主党は盛山の不信任決議案を提出し、予算審議を遅延させる戦術に出た。

 自民党執行部は野党をなだめるべく、急いで衆院政倫審への出席を安倍・二階両派の幹部に打診し、松野や前経済産業相の西村康稔、前国対委員長の高木毅、派閥座長の塩谷立、二階派事務総長の武田良太が出席の意向を示した。ところが、開催に向けた与野党の協議が難航。たまりかねた岸田は、自ら政倫審に出席の意向を表明するという大ばくちに打って出た。

 政治資金パーティー券収入の還流(キックバック)を受けていた中堅・若手の議員からも「有権者に『潔白』をアピールしたい」と政倫審出席を望む声が相次ぐ。参院でも政倫審を開催せざるを得ないだけに、今後も火種は尽きない。

 結局、1~2月の国会は政治とカネの「全容解明」という第1フェーズにおける混乱に終始し、自民党内のルール作りや規正法改正など、次のフェーズに向けた展開はほとんど見られなかった。

 物価高対策をはじめとする日本経済の再生、能登半島地震からの長期復興など、本来、国政が真摯に取り組むべき懸案は多い。ただ、国民の信頼なくしてそれらの政策遂行があり得ないことも、また事実であろう。

 窮地が続くトップリーダー・岸田に求められるのは、時に政権与党の痛みを伴う大ナタを振るってでも、抜本的な信頼回復への道筋をつける大仕事だ。

(敬称略)

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