久保利英明の「わたしの一冊」『国産ロケットの父 糸川英夫のイノベーション』
財界オンライン / 2024年3月16日 11時30分
イノベーションの塊・糸川英夫に学ぶ
2024年1月20日午前零時20分、月面着陸実証機「SLIM」が月面への着陸に成功したと宇宙航空研究開発機構(JAXA)が発表した。史上最小100メートル級の位置誤差の「ピンポイント着陸」も達成したとの続報に、日本中が沸き立った。
その宇宙開発のルーツをたどれば、糸川英夫氏に行き着く。1912年生まれで戦争中は中島飛行機で戦闘機の設計に没頭していた糸川は、東大第二工学部教授、生産技術研究所などを経て、戦後は全長23センチのペンシルロケットに取り組む。死後25年が経ち、今や、糸川英夫のことなど、誰も知らない時代となった。本書は異端とイノベーションの塊として86年間を生ききった糸川英夫の評伝である。
本書には随所に糸川とイーロン・マスクの発想の近似性が述べられる。2017年にマスクが公表した「国際都市を30分で移動できる旅客ロケット便」(BFR構想)は糸川が1953年に発表した「太平洋を20分で横断するAVSA構想」と酷似していると著者は言う。
世界各国の観測ロケットは誘導制御が容易で軍事目的に転用しやすい液体燃料であったにもかかわらず、糸川は軍事目的と距離を置き、外国の後は追わないと固形燃料にこだわる反逆精神に満ちていた。ヴァイオリンを弾き、バレエを踊る糸川は平和主義者だったのかもしれない。戦争中の記録を日経の「私の履歴書」からも抹殺したというのなら本物だろう。未来小説として紹介されている2冊も読んでみたくなった。
本書にはこんな一節がある。「糸川さんは、数学の時間を半分にしても、科学を作り上げてきた人の伝記や評伝を教えるべきだという考えを持っていた」と。
筆者はこの発想を「物語共有の法則」としてイノベーションの第三法則と位置づけるが、大切なのは知識ではなく先人イノベーターの思想や哲学を我が物とすることだろう。糸川英夫という稀代のイノベーターの生き方から現代人が学ぶものは少なくない。
【著者に聞く】『ChatGPTの全貌 何がすごくて、何が危険なのか?』中央大学国際情報学部教授、政策文化総合研究所所長・岡嶋裕史
この記事に関連するニュース
-
アメリカの「宇宙政策」がマスク主導で大転換へ 揺れる同盟関係と加速する中国との競争
東洋経済オンライン / 2024年11月30日 10時30分
-
日本の宇宙開発で失敗相次ぐ、技術力と信頼性に揺らぎ 「イプシロンS」の爆発事故
産経ニュース / 2024年11月26日 12時5分
-
マスク氏ロケット打上連発「火星移住」実現するか スペースX「3つのスゴさ」をわかりやすく解説
東洋経済オンライン / 2024年11月23日 12時0分
-
《日本人が月に降り立つ日は間近》月面探査最前線、JAXA「SLIM」とNASA「アルテミス計画」で日本の存在感が増大 インドとの共同計画や一般企業の取り組みも
NEWSポストセブン / 2024年11月23日 7時15分
-
中国の有人月面着陸ミッション、初期プロトタイプ開発段階に
Record China / 2024年11月22日 21時30分
ランキング
-
1ワークマンは「8800円ランドセル」で勝負…「過去最悪の少子化」でも異業種がランドセル市場に続々参入するワケ
プレジデントオンライン / 2024年11月29日 16時15分
-
21億円売れた“宇宙服素材”布団 厚さ「3センチ」で真冬越せる性能 どう開発した?
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年11月30日 8時10分
-
3電気・ガス料金高止まり「風呂キャンセル」「設定温度1℃」で何円変わる? “ちょっとした”節約術をご紹介【Nスタ解説】
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年11月29日 21時59分
-
4行列スキップ「ファストパス」飲食店で拡大!食材費や人件費の補填や、ドタキャン対策にも【Nスタ解説】
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年11月29日 21時30分
-
5高級タワマン老人ホームへ引っ越しました!…慶應卒・78歳同期の元常務から届いた満面の笑みの年賀状。年金月30万円・元部長は即座に画像検索「脅威の入居金額」に悶絶
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月29日 10時45分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください