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名古屋市立大学理事長・郡健二郎に直撃! 医療人材の育成や産後ケアなどの日本再生につながる「なごや医療モデル」とは?

財界オンライン / 2024年3月29日 7時0分

郡健二郎・名古屋市立大学理事長

2023年、名古屋市立大学に5つの附属病院群が誕生。高度急性期から慢性期医療までの一気通貫した医療体制を構築し、名古屋市などと連携して「なごや医療モデル」を展開している名市大。有事を想定した「救急・災害医療センター」の25年完成を予定する中、地域医療のあるべき姿、医療人の育成、産後ケアなど、日本再生に向けた道筋を理事長の郡健二郎氏は語った。

帝京大学医学部附属病院・上妻謙副院長兼循環器センター長「働き方改革を実行したら今の医療現場が破綻する可能性は十分にある。国、行政、医療機関、国民が危機意識の共有を」


教育・研究も担う大学病院

 ─ 名古屋市の地域医療について、どんなスタンスで取り組んでいますか。

 郡 名古屋市の地域医療のベースとして高度急性期医療から慢性期医療、回復リハビリ医療、在宅医療までをシームレスな体制でやっていくことが必要です。

 その中で本学にとって重要なのは教育・人財育成です。例えば、本学は十数年前から1年生時に医薬看の3学部の学生が一体となって、介護施設や独居老人が住んでおられる団地を訪問するなど現場で人と接する教育をしてきました。大学という教育機関として、そういう取り組みが必要だと考えています。

 ─ 名市大には5つの附属病院群がありますね。

 郡 はい。さらに2025年には6つ目の大学病院ができます。本学は21年に各500床の2つの市医療センターを再編統合して大学病院をつくり、23年には約200床の2つの病院を大学病院にし、25年にはリハビリセンターを大学病院にします。

 そうすると、急性期医療の病床は約1900床弱、慢性期医療が約200床、そして、回復リハビリテーション100床余りも合わせて先ほど申し上げたように、連続性のある医療と教育、あるいは研究ができるようになります。

 また、別の観点で言うと、公的な病院は特に医師不足と収益性という面で苦しんでいると思います。しかし、私は医療の基本は、優秀な医師や看護師がいれば大きな赤字は出ないという考え方です。大きな黒字も出ないけれども、大きな赤字が出ないという考え方ですね。

 よく医師不足だから収益性が悪くなると言われますが、本学では「東部医療センター」と「西部医療センター」を大学病院にしたところ、それまでは名古屋市から医療収入の約2~3割の補助金が出ていましたが、それが今では半分以下の交付金になっています。

 その大きな理由は、両医療センターの医師が漸増されたからです。


優秀な医師が集まれば収益も改善する

 ─ つまり、優秀な医師が担当するようになったからだと。

 郡 その通りです。3年前までは500床のベッドに対し、医師数は100人未満でしたが、今は140人ほどに増えています。よく勘違いされるのですが、これは私たちの関連病院から医師を回したということではありません。全国からも医師が集まってきているのです。

 ─ その中で診療報酬の問題がありますね。産業界では賃上げ気運が高まっていますが、どう分析していますか。

 郡 まずは我々のような病院を経営する立場の者たちは医療だけに目を向けていてはいけないと思います。病院の経営は社会の成長の中にあります。社会が成長していかないと、受診する人も病院にかかる人もいなくなる。他方で保険料はもっと高くなるでしょう。ですから、社会が伸びないと医療も伸びないのです。

 その中で、この4月から診療報酬が改定されます。この大きな目的は医療に携わる人たちへの待遇改善です。しかし、世の中の動きから見ると、少し遅れています。ですから、それに対する手当を正当に与えるべきだと。私もそう思います。

 その点、私たちは収益面で僅かながらも黒字を確保していますから、現場で働いている人たちに還元するという姿勢で、医師や看護師たちと相談してやっています。ただ、一定の昇給にまでは至っておらず、一時金しか払えていないのが現状です。

 ─ 医師になりたいという若い人の気持ちにつながる課題です。

 郡 今年4月から医療現場でも働き方改革が始まります。これによって医師の収入は若干減ると思います。働く時間が制限されるわけですからね。ですから単価を上げないと、現場で働く人たちのモチベーションは下がるでしょう。これは医療全体で考えていかねばなりません。

 ─ 日本の弱さとも言えますね。コロナ危機に続き、能登半島地震がありましたが、危機時の教訓をどう考えますか。

 郡 本学ではコロナ禍について、ささやかな記録集を残し、後世に役立てていただこうとしています。先日、関係者が集まった座談会を開催しました。その座談会では様々な角度からいろいろな話があったのですが、コロナ禍の時には、私は名市大の学長も兼務していたので、学生に対する思い、それから病院の管理と社会への貢献など、全ての面で正直言って苦労の連続でした。この年齢にして、初めて経験することばかりでしたからね。

 その中で、うまくいった、成功したなと思うことがいくつかありました。その1つが先ほどの「東部医療センター」の活躍です。同センターは感染症の指定病院になっていました。そして、20年1月に感染症病棟も完成していたのです。その直後にパンデミックが起きたと。

 1月の完成時には、こんな多くの感染症ベッドをつくってどうするのかと冗談で言ったこともありましたが、その1カ月後には、患者さんが続々と入ってきたわけです。本学が名古屋市内で最も多くの患者さんを診る原動力になったのは、この感染症ベッドがあったからです。

 もしパンデミックがなく、長年にわたって使われなかったら無駄なお金だとみんなが思うのでしょうが、公的な責務として平時から準備することがどうしても必要になるのではないでしょうか。

 ─ 平時に準備する。

 郡 おっしゃる通りです。無駄かどうかは誰もはかることはできません。ただ、もしも危機が起きたとしても耐えられるようなシミュレーションは、いつも行っておく必要があるように思います。

 将来起こり得るパンデミック時に備えて、どういうことを教訓とし、次にどういうことを準備しておくか。そこをいろいろな過程の中で考えておかないといけないと思います。

 これはパンデミックだけではありません。万が一、他国から何かが飛んできた場合には、我々は医療面でどんなことができるのか、平時からどのようなことをしておかないといけないのか。みんなが勉強しておく必要があると思います。また、大地震などの災害もあるでしょう。

 これに対し、本学では25年8月に「救急・災害医療センター」をオープンさせる予定です。日本最大規模の免震構造の施設で、大震災時でも手術や透析、出産が可能になります。


診療できる看護師の養成

 ─ 有事の際の駆け込み寺のような存在になり得ますね。

 郡 ええ。同センターには常時、救急車の一種であるドクターカーが、呼ばれたら医師が乗って現場に駆けつけます。そして、患者さんを診ながら病院までお連れするようなシステムです。また、救急隊員も常駐していますし、電気や水、薬も常時備蓄しており、停電などが起こっても1週間くらいは自活できるようになっています。

 さらに災害時には「診療看護師」という医師と看護師の間のような診療に携わることができる看護師さんを養成したり、看護師のサポートをしてくれる補助員も雇用も重要です。

 ─ 診療看護師とは?

 郡 診療ができる看護師です。そのためには看護師が大学院に行かないといけないのですが、本学では日本で最初に医学部の中に診療看護師の養成をするコースを始めています。医師の数も限られますし、看護師は医療行為に携わることができませんので、医師に近い診療を実際にできる診療看護師は大きな力になります。

 ─ こういった自治体との連携モデルが広がっていくと良いですね。

 郡 ええ。私たちは附属病院群として有する約2200床の病床数を活かしながら高度急性期から慢性期までの幅広い医療を提供することを目指しています。加えて、健康長寿に資する効果的な治療方法の開発などの研究成果の還元や地域包括ケアシステムの推進、さらには優れた医療人の育成などを名古屋市と連携するこの取り組みを「なごや医療モデル(仮称)」と呼んでいます。



大学病院群と名古屋が連携する「なごや医療モデル」

 ─ 平時から、なごや医療モデルを展開していることが有事のときには司令塔として機能することになりますか。

 郡 名市大の責任者としてパンデミックを経験してきて感じるのは、まずはみんなの協力が必要不可欠であるということです。そのためには、司令塔に正しい情報が集まり、それを受けた司令塔が迅速かつ的確に発信する情報が共有されなければいけません。

 ─ リーダーには決断が求められるということですね。

 郡 そう思います。これが司令塔とは言いませんが、やはり平時から準備しておくことが大事ではないでしょうか。平時からたくさんの情報をお互いが共有しているかどうかが一番重要な気がします。何でも気さくに言ってきてくれる関係ですね。

 そして、本当に苦しいときもあるかもしれませんが、リーダーはやるときはやるしかありません。ご批判もいっぱい受けるでしょう。それでも、やるしかない。いつまでも決められないようなことではいけないと思います。

 ─ 最後に、人口減、少子高齢化の中で、産前産後の母子をケアする「産後ケア」にはどう取り組みますか。

 郡 本学では子どもが生まれない不妊症の治療ができる「生殖医療センター」を西部医療センター内に立ち上げました。女性はもちろん、男性の治療も行っています。また、妊娠しても流産を繰り返す「不育症」の治療にも対応できるようになっています。不育症に関しては、本学は国内でもトップランナーだと思います。

 また、お産をされても、核家族のためということもあってか、親からお産に対するアドバイスなどを十分に聞くことができない人が増えています。産後のいろいろな精神的な悩みやストレスに苦しむ方が非常に多いのです。それに対しても、本学の産婦人科の先生方が産後ケアには、すごく力を入れてやっておられます。地域と連携しているところもポイントです。

 産後ケアに関しては、以前から政府の理解が少ないと思います。お産も今までは自費でした。しかし、お産に関しても保険適用をもう少し突っ込んで考えても良いと思います。あるいは産後ケアに関しても、もっと母子を診てあげる仕組みを整備しなければなりません。

 もう一度子どもを産もうという気持ちを持たせてあげないといけないと思います。政府がもっと公費を使ってあげても良いのではないかと思いますね。

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