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中山哲也・トラスコ中山社長「誰もが思いつき、誰もが進む方向に成功の文字は無い」

財界オンライン / 2024年3月29日 18時0分

中山哲也・トラスコ中山社長

自分なりのロードマップをつくっておくことが大事

 ─ これまで在庫を持たないのが常識だったのに、在庫を持つ経営で成長を続けてきたのがトラスコ中山です。中山さんが1994年に社長になってから、今年でちょうど30年になるんですが、この30年の手応えをどのように感じていますか。

 中山 わたしが社長に就任したのは35歳の鼻たれ小僧の時でしたから、あっと言う間の30年でした。われわれ機械工具の卸売業というのは、世間から注目されたり、脚光を浴びたりするような業界ではないですが、やはり何事にも徹底的に取り組むことで、何か成長できるドアが見えてくるような気がします。

 30歳を過ぎた頃だったと思いますが、当時、顧問弁護士だった先生から言われたことがあって、それは「自分なりのロードマップをつくっておけよ」ということでした。例えば、いつ社長交代をするかとか、いつ上場するかといった計画を書いておけと言うんです。

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 ─ 人生設計をきちんと考えろと。

 中山 ええ。これは本当に大事なことを教えていただきました。当社ではお客様や仕入れ先様の社長のお子さんをお預かりすることがあります。彼らは将来的に実家に戻って、社長になっていくと思うんですが、きちんと彼らにも、会社に戻るタイミングや社長交代するタイミングを自分なりに考えておけよと伝えています。

 そういう意識が無いとズルズルするだけですし、本人の自覚も出てきません。例えば、創業何周年の時に自分が会社を引き継ぐから、あと5年間で自分は何を学び、何をしなければならないかということですね。わたしだって実力も何もありませんでしたが、当時、先生から言われたロードマップづくりの話はとても印象に残っています。



知識は有限、知恵は無限

 ─ 中山さんは社長就任当時から、在庫を持つ経営を目指そうと考えていたんですか。

 中山 いや、わたしが考えたのは、業界の中では後発組ですから、どうやったら後発の会社が成長できるかということです。

 業界の常識からすると、わたしは間違いなくクレイジーなんですよ。先人たちが在庫を減らすことはいいことだ、少ない方がいいんだと言い続けてきたのに、当社はどんどん在庫を増やしてきました。これはわれわれが最後発だから、同じことをしていても勝ち目がないということです。

 だから、物流を整えないといけない、ITを導入しなければならないということで、お金をかけて東京本社内にデータセンターや物流センターを設立していったわけです。この業界でそんなにお金をかけている会社は無いんです。その結果、どんどん当社にチャンスが巡ってきた。これは自分の実力というよりラッキーだったと思います。

 ─ 常識を疑ったことで新たな成長が見えてきたと。

 中山 はい。「もっともらしく聞こえる話には気を付けろ」という教訓があるんです。

 もちろん、世間では在庫は少なければいいというデマがまかり通っていますが、これは売り手の理論なんですね。買い手の理論からすると、品揃えも在庫も多ければ、多いほどいい。お客様本位と言うのであれば、在庫はしっかり揃えるべきだと思います。

 わたしは教科書通りで上手くいくなら、世の中は成功者であふれ返っていると思うんです。しかし、現実は思いがけない発想こそが世の中に革新をもたらしていますし、現実を突き抜ける発想力をいかにして生み出していくかが今後の成長のカギになると思います。

 ─ なるほど。教科書に頼らない経営ですね。

 中山 やはり、知識は有限、知恵は無限です。だから、教科書ばかりに頼らず、独創力を鍛えて企業に革新をもたらすべきですよね。わたしは独創力こそ成長のエネルギー。誰もが思いつき、誰もが進む方向に成功の文字は無いと考えています。

 在庫を多く持っているというメリットは非常に大きいです。世の中や他社で欠品が続いたとしても、在庫があることで売上の拡大やお客様の信頼につながると思っています。

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