「宇宙事業から宇宙産業へ変えていく」スペースワン・豊田正和の心意気
財界オンライン / 2024年4月1日 18時0分
世界の宇宙開発利用は官から民、大型から小型へ
「皆様の期待にお応えすることができず、深くお詫び申し上げる。しかしながら、われわれはこの結果を前向きに捉えて、次の挑戦に臨みたい」
こう語るのは、スペースワン社長の豊田正和氏。
3月13日、本州最南端の町・和歌山県串本町から打ち上げられた小型ロケット『カイロス』初号機。しかし、発射から約5秒後に飛行中断の処置がとられ、機体は爆発。今回の挑戦は失敗に終わった。
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今回の打ち上げは本来、4日前の3月9日に実施する予定だった。しかし、海上警戒区域内に船舶が入っていたため、打ち上げを延期。満を持しての挑戦であり、多くの関係者にとって残念な結果となった。
カイロス初号機は、全長約18メートル、重さ約23トンの超小型衛星打ち上げ用ロケット。カイロスには、内閣衛星情報センターの小型衛星を搭載。今回の打ち上げが注目されていたのは、日本で初めて民間発射場から発射するロケットであり、衛星搭載の小型ロケットとして軌道投入に成功すれば、これも民間で初だったからだ。
原因究明はこれからだが、経済産業大臣の齋藤健氏は、「宇宙開発は数多くの失敗の上に成功を成し遂げてきた歴史がある。決して諦めることなく、今回の失敗から教訓を得て、次の成功につなげてほしい」とコメントしている。
スペースワンは2018年に、キヤノン電子やIHIエアロスペース、清水建設、日本政策投資銀行の4社が出資して設立。日本初となる超小型衛星打ち上げロケット専用射場『スペースポート紀伊(SPK)』を整備し、民間初の超小型衛星打ち上げ用ロケット『カイロス』を開発してきた。
カイロスとは、ギリシャ神話に登場する時間神カイロスにちなんで名付けられたもの。スペースワンが目指すのは、〝宇宙宅配便〟サービスの提供。契約から打ち上げまで1年、衛星受領から4日で打ち上げという世界最短時間を実現し、2020年代に年間20回の打ち上げを目標にしている。
宇宙工学が専門で、東京大学大学院工学系研究科教授の中須賀真一氏は、「契約から打ち上げまで1年というのは開発サイドから見ると非常に大きな魅力。衛星開発はすでに5~6年ではなく、1~2年という短期になりつつあり、柔軟で迅速な宇宙サービスが展開されることを期待している」と語る。
その上で、「世界の宇宙開発利用は、官から民、大型衛星から小型化という方向に大改革が起こっている。日本の場合、官需がまだまだ多い中、いかに民需を、あるいは外需を掘り起こして産業を強化していくかが大きな課題」と指摘した。
挑戦が無ければ成功も無い
宇宙関連ビジネスは人工衛星の開発や打ち上げだけでなく、通信、衛星画像・位置情報サービスなど、これからの成長が期待される分野だ。
宇宙関連ビジネスは、これまで官需を中心に発展。しかし、近年は技術開発のスピードを速めつつ、コストダウンを図ろうと、各国で民間のスタートアップ企業が台頭。米国や中国、インドなどの企業が登場し、国際競争は激しさを増している。
日本のロケット開発は1955年、〝国産ロケットの父〟糸川英夫氏によるペンシルロケットの発射試験から始まった。そこから約70年、日本は大幅に世界の競争から遅れているのが現状で、豊田氏も「日本のロケット技術は優れたものと定評があるが、宇宙産業が発展しているとはなかなかいいがたい状況」と認める。
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実際、現在はロケット打ち上げのおよそ半分が米国で、なかでも一人勝ち状態と言われているのが、起業家イーロン・マスク氏率いる米スペースX。同社は非上場だが、昨年末には同社の企業評価額が約25兆円規模と報じられて話題になった。
経済産業省の調査によると、現在、ロケットや衛星などの製造による宇宙機器産業の国内市場規模は約3500億円。衛星通信・放送やデータの提供など宇宙利用産業は約7700億円。合計で約1.2兆円と言われる宇宙産業の規模を、政府は「宇宙基本計画」で、2030年代早期に倍増させるという目標を掲げている。
全世界ではすでに宇宙産業で約40兆円の市場がある。2040年には1兆ドル(約150兆円)になるとの試算もあり、日本企業にとっても大きなビジネスチャンスが広がっている。
「日本の宇宙事業は基本的に官主導で、なかなか民主導になっていなかった。カイロスが官主導から民主導に変わるきっかけとなり、宇宙産業を発展させる使い勝手の良いインフラになることができれば。民間主導の宇宙事業に変えていくことで、結果的にそれが宇宙事業から宇宙産業に変えていけるよう期待している」(豊田氏)
世界の民間宇宙ビジネスでは、スペースXが先頭を走る。カイロスの挑戦を受け、イーロン・マスク氏は自身のX(旧ツイッター)で、「Rockets are hard(ロケットは難しい)」と投稿した。今では年間100回近くロケットを打ち上げているスペースXだが、マスク氏自身、当初は失敗の連続だったことを思い出したのかもしれない。
13日の会見で「失敗という言葉は使わない。一つひとつの経験が新しい挑戦に向けての糧になる」と話した豊田氏。
もちろん、挑戦が無ければ成功も無い。前向きに捉えれば、今回の失敗も、今後の成功につながる経験の一つ。スペースワンの挑戦は今後も続く。
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