三菱UFJ、明治安田、SIJのトップが語り合う「分断の時代にあって『つなぐ』をキーワードに新しい金融を!」②
財界オンライン / 2024年5月7日 11時30分
三菱UFJフィナンシャル・グループ、明治安田生命保険、SDGs、ESGの専門家が集った金融ベンチャー・SDGインパクトジャパンのトップ3人が社会課題解決に向けた金融の役割について語り合った座談会。前回に続き、具体的な取り組みについて語る。
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サステナビリティ実現へ何に取り組んでいるか
─ サステナビリティの実現に向けた具体的取り組みについて聞かせて下さい。
亀澤 カーボンニュートラルについて言えば大きく3つのポイントがあります。1つ目はお客様とのエンゲージメント、2つ目がファイナンス、3つ目が先ほどもお話した国際的な枠組みづくりです。
エンゲージメントでは我々が融資、投資しているお客様がどういう行動を取り、いかに我々も一緒に頑張るかが大事になります。例えば、我々が出資するスタートアップであるゼロボード社とお客様の排出量を見える化し、排出量削減に向けた取り組みをサポートするという事業を始めています。
ファイナンスではカーボンニュートラルを加速させるために、トランジション(移行)ファイナンスをはじめとしたサステナブルファイナンスの組成を推進しています。
国際的な枠組みづくりは重要です。何をすればカーボンニュートラルに向かうのかについては様々な議論がありますから、正しく分析する必要があります。ゼロかイチかの議論になると、途上国がカーボンニュートラルに向かえなくなってしまいます。
我々はNZBA(温室効果ガス排出量のネットゼロを目指す 民間金融機関のアライアンス)のステアリングコミッティ12社に邦銀で唯一入っており、カーボンニュートラルへの道すじは1つではないことを世界に発信するのがグローバルな金融機関としての責務です。
─ 明治安田生命の取り組みはどうですか。
永島 24年3月末までの前中期経営計画では、ESG投融資を3年で1兆円超実行しました。また、SIJさんとはアジアで初めて、欧州の先進的な枠組みであるSFDR(サステナブルファイナンス開示規則)の9条に準拠したファンドを立ち上げて活動しています。
このファンドでは、投資先に対して社会課題解決の取組みを促し、その取組みを企業価値向上につなげる提案型エンゲージメントを行っています。
また、政府の「資産運用立国実現プラン」の中でEMP(新興資産運用業者への運用資金拠出促進を図るプログラム)が大きな眼目となっています。伝統的大企業の中には、実績のない新興ファンドへの運用委託に慎重な姿勢を見せる場合もありますが、それでは多様な運用スタイルを持つ会社が増えず、投資家の選択肢が狭まってしまいます。
例えばSIJさんも新興ですが、世界のESG投資のリーダー的存在であるサシャ・ベスリックさんという素晴らしいCISO(最高投資戦略責任者) がおられ、サステナビリティにかかる高度なエンゲージメントを武器に、投資先企業の社会的価値・経済的価値を引き上げようとしています。
当社では、過去の実績のみにフォーカスするのではなく、運用する人財や運用哲学・手法など総合的に判断して投資可否を決定しています。
─ SIJさんの具体的取り組みはどうですか。
谷家 自らファンドを組成する他、海外のESG分野で実績のある方々とファンドを組成してもいます。例えばアグリテックでは、シリコンバレーのベンチャーキャピタル・アグファンダー社と合弁を組んでいます。
また、私はニュージーランド在住ですが、実はサステナビリティで最先端を行く国です。当社はニュージーランドで最も大きい、ベンチャーキャピタルと連携してサステナブルテクノロジーに特化した投資を進めています。
例えば、9%しかリサイクルされていないプラスチックゴミを、再利用できる材料に変換するNilo社に投資していますが、この企業にはIKEAさんも投資しています。こうした企業を日本、アジアに持っていくという取り組みも進めたい。
先ほど亀澤さんがお話されたJCMにも積極的に取り組んでいますし、日本のPEファンドであるユニゾン・キャピタルさん、インドのPEファンドと連携して、日本の大企業の省エネ技術をインドで普及させるプロジェクトを進めており、これはグローバルサウスにも貢献できる取り組みだと考えています。
─ 一方で、アメリカでは共和党を中心にESGへの反対論が出るなど、政治と絡んで難しい状況にもなっていますね。
谷家 共和党の反対でアメリカでは「ESG」という言葉が使われなくなるなど逆風が吹いており、資金の流れを変えるのは簡単ではないことを痛感しています。まずは経済的リターンを出せる分野で成果を上げることが大事だと考えています。
逆風とは言いながらアメリカでクリーンテクノロジーのスタートアップに対しては、AIに次いで資金が集まっています。
今後、個人的にはカーボンクレジットのように外部不経済に価格がついて取引される世界になっていくと思っています。そうでなければ資本主義経済自体がもたないと思いますから、政府への働きかけも2社と連携して進めていきたいと思います。
亀澤 谷家さんが指摘されるように、確かにESGへの逆風は吹いていますが、流れ自体は止まらないと思います。アメリカは揺り戻しもありますが、22年に成立した「インフレ抑制法」は補助金を入れ、経済価値と結びつけながら環境問題を解決する仕組みになっています。
当社ではこの4月から新しい中期経営計画が始まりましたが、お客様やMUFGの社会的価値と経済的価値を相乗的に高めていくというのが大きなテーマになっています。
我々はサステナビリティ関連のプロジェクトファイナンスなどを手掛けて利益を出しています。そうした経済的価値を出すことができれば、さらに資金が集まってくるでしょう。
そうして最後には外部不経済の内部化が必要になりますが、そのためにはコストの定量化や市場の形成が求められます。世界の大きな流れの中で、日本の役割は大きいと思います。
永島 ここ数年の世界で起こった様々な出来事や人びとの価値観の変化等を受け、今は人類の歴史の中でも何回目かという大転換点にあると思いますから、多少の揺り戻しはあるとしても大きな流れは変わらないと考えています。
我々は140年以上の歴史の中で保険金、給付金という経済的価値で確かな安心を提供してきましたが、この1月からブランド通称を明治安田生命から「明治安田」に変え、4月から始まった新たな中期経営計画では「生命保険会社の役割を超える」と宣言しました。これには、当社のパーパスに共感し、志を同じくする企業・団体と「共創」することで、健康増進や地域活性化を中心とした社会的価値を含む「多元的な価値」を創造・提供していきたいという思いを込めています。
社会課題を解決できる会社こそが成長するでしょうし、社会的価値の創造は、必ず経済的価値につながります。経済的価値が伴ってはじめて、社会的価値の創造が持続可能なものになりますから、長い時間軸で2つの好循環を回していきたいと考えています。
─ 谷家さんはNPO、NGOなどにも取り組んできましたが、社会的価値と経済的価値の関係をどう捉えていますか。
谷家 NPOやNGO、学校もつくりましたが、やはり経済も一緒に動かないと大きなインパクトを与えるのは難しいということを痛感しています。
一方、長く投資に関わってきた経験上、マクロで伸びる分野に投資しているか、誰と一緒に取り組むかという2つに尽きることを実感しているんです。
マクロで伸びるというのは、すなわち大きな問題を解決できているかにつながりますし、その取り組みは中長期に伸びると考えています。サステナビリティは間違いなく、その中心です。
気候変動や社会の分断などの課題がある中、今のままでは世界はもちません。とはいえ、長い目で見れば、世界は行き過ぎたら少し違う方向に向かうなどして螺旋でよくなっていると思います。この分野で経済的に継続できる事業をやっていけば中長期的には必ず成果が上がると思っています。
社会課題解決へ金融の力の発揮は?
─ 皆さんは金融業界に属していますが、課題解決に向けた金融の役割をどう考えますか。
亀澤 キーワードは「つなぐ」だと思っています。今の時代は分断が進んでいますが、一方で人はつながろうとしているのだと思います。人の活動は相当分散化していますが、デジタルであれば世界の裏側でも一瞬でつながることができる。
投資家と預金者、海外と日本の企業、相続や資産運用による将来世代など、様々なものをつないでいる。なぜそれを金融ができるかというと信頼をいただいているからだと思います。信頼を守り続けることで「つなぐ」存在になることができる。その意味でSDGs、サステナビリティに関して我々の役割は大きいと信じています。
永島 AIの時代になればなるほど、人にしかできないことは何なのかが問われると思います。AIもロボットも死にませんから不安に思うことはない。私は社内で、不安に寄り添い、共感し、解決策を示すことができるのは人間だけだ、「人」の力を信じていると、よく話すのですが、当社の最大の強みはまさに3万6000人の営業職員です。当社では人がつながることを「絆を紡ぐ」という言い方をしていますが、様々なステークホルダーとの絆を紡ぎ、社会課題解決に最も貢献できるのは、その地域で生まれ育ち、仕事をする、我々の3万6000人の営業職員、「MYリンクコーディネーター」だと思っています。
また、責任ある機関投資家としても、引き続きSIJさんにも知見をお借りしながら、取引先への提案型のエンゲージメントを通じて、社会課題解決に貢献したいと思っています。
谷家 金融の力は大きいと思います。歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリも言っていますが、お金は今まで生まれた〝宗教〟の中で一番強いかもしれません。だからこそ、社会がよりよい方向に行くための資金の適正配分という金融の本来の役割を果たさなければ、社会がよくなることはあり得ないと思うんです。
今までは金融が強くなり過ぎて、お金に色がない社会になっていたと思います。しかし今こそ「お金に色がある」と思って、どこに資金を回すべきかを考える必要があります。それによって、これからの社会の色は大きく変わると思います。強い意志を持って、社会をきれいな色にする方向に持っていかなければいけません。それが金融に携わる我々の責任だと思います。
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