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一般財団法人こどもたちと共に歩む会代表理事(KDDI共同創業者)・千本倖生「高い志を持ち、世の中のためになることを考えたら、直ちに行動すること!」

財界オンライン / 2024年6月5日 15時0分

「一般財団法人こどもたちと共に歩む会」と自治体(北海道・東川町)が連携し、ふるさと納税による寄付受付の仕組みを構築

「年間20万人を超える児童虐待があるが、日本はそこの救済に世界一お金を使わない先進国。これではいけない」とKDDIの共同創業者でレノバ前会長の千本倖生氏。千本氏は昨年3月に児童虐待被害の子どもたちを救う「財団法人こどもたちと共に歩む会」を政官財トップメンバーと立ち上げた。現状寄付が難しい日本において、北海道・東川町と提携して寄付の仕組み化を考案。自身の母校であるフロリダ大学にNVIDIA(エヌビディア)の創業者クリス・マラコウスキー氏が多額の寄付をしたように、「日本でもその寄付文化をつくっていかなければ」と強調する。


「失われた30年」はもう抜けた

 ─ 千本さんは今も世界中を飛び回っていますが、最近活気があると感じた国はどこでしたか。

 千本 アジアの中で可能性を感じているのは3つの国です。いま一番強いのは間違いなくベトナムです。それからカンボジア、台湾です。アジアの他の国々ではまだ賄賂がある国もありますよね。そういう意味では、日本は賄賂がないのでやはり素晴らしいと思います。シンガポールも同様にクリーンです。あの国は強権で、横断歩道の上を渡らず斜めに渡ったら100ドルの罰金など、行政の取り締まりが非常に厳しいです。

 日本は「失われた30年」で今もまだ駄目だとよく言われますよね。少数意見ではありますが、わたしはそれは違うと言っています。

 つまり、日本は2022年が底で、2023年からリカバリーに入った、30年の凋落の時間は過ぎたというのがわたしの見方です。

 ─ 世界に行ってそう感じるわけですか。

 千本 はい。わたしは世界を一番見てきているひとりだと自負しています。世界の地に自分の足で行って、経営者としてそこに立って感じたことを大事にしています。経営者が本当にいい指導者になるためには、やはり自分の足で現地に行き、自分の手で触り、自分の肌で感じ、自分自身で匂いを嗅ぐ、ということが必要です。そういうことをしない限り、本当の経営の情報は集まらないと思うんです。いくら丸の内にいようが、霞ヶ関にいようが、そこからのコントロールでは絶対駄目だと。わたしはレノバでも社員には絶対自分で見に行けといって海外に行かせていました。


賢すぎる今の若者へ〝失敗していい〟

 ─ 千本さんの著書『千に一つの奇跡をつかめ!』でもトップが現場を知ることの重要性を書かれていますよね。今の若者に対してかけるメッセージはありますか。

 千本 「とにかく挑戦してリスクを取れ」ということですね。要するに、今の若者はみんな賢すぎて、いろいろ分析して、リスク分析をして、結局いいと思ったことでも考える。でも考えている間に、チャンスは過ぎ去ってしまいます。

 これはハーバードのビジネススクールでも教えられることですが、チャンスの窓というのは非常に少しの間しか開かず、すぐ閉まってしまうのです。どんなビジネスだとしても開いている期間は6カ月なんです。そのときを逃すと、幸運の女神はもう二度と訪れない。わたしもKDDI(第二電電)をつくったときにまさにそう思いましたから。

 ─ KDDIの前身・DDI(第二電電)は当時京セラの稲盛和夫さんに千本さんが設立を働きかけて創業した会社ですね。設立までに何カ月かかりましたか。

 千本 4カ月ぐらいです。わたしはその時、「稲盛さん、今つくらないと駄目ですよ」と強く訴えて、稲盛さんが決断を下していただき創業することができました。ですから大事なことは、これはいいと思ったら「すぐやる」ことです。

 それをみんな逡巡して、99%の人はもう少しよく考えようと、もう少し待とう、もう少し分析しよう、とこうなるんです。でもその間にチャンスがなくなってしまう。ほとんどのベンチャー企業がつぶれるのはそれが最大の理由なのです。

 いいものでなければ駄目ですが、これが世の中のためになる、高い志のものを描けたら、すぐやれというのが私の理論なんです。それで、すぐやって失敗することも多い。これは構わない。

 というのは、わたし自身は10個プロジェクトをやって、7つ失敗しています。7つ失敗したら、えらい失敗だと思うけれど、野球の選手だって3割打者ってすごいじゃない。

 ─ そういうスポーツ選手でも7割も打てませんからね。

 千本 はい。ですから失敗することは決して悪いことではなくて、まずやることが大事で、やって失敗したら、どうして失敗したかということを冷静に分析して反省し、そして大事なことは「素直に謝る」ことなんです。ごめんなさいと。

 それで、ごめんなさいと謝ったら、気持ちを切り替えて、ゼロからまたやる。ベンチャー経営者、中小企業の経営者で大事なことはそれなのです。

 ─ そこのところがなかなかできないですよね。

 千本 そうなんです。みんな素直に謝れないことで、グチャグチャ言い訳をする。

 ─ 千本さんは自分が失敗したときは、どういうふうな謝り方をしたんですか。

 千本 パブリックに対して、わたしはこんなことで失敗しました。実は、こういうことに対して資金調達をちゃんとできていませんでしたとね。それから、やはりお客さんの見方が、法人のほうが主だと思っていたのが、実は個人でしたとか。そういうマーケットの見方とか、失敗した要因を素直に、パブリックに謝ることですよ。

 ─ 千本さんは失敗したことがあるというイメージがあまりないですが。

 千本 いや、もう失敗だらけです。みんなはわたしのことを大成功したと言っているけれど、実は失敗の山の上にやっと少しの成功があるんです。失敗からしかリーダーは学びません。成功から学ぶものはほとんどありません。

 そういうプロセスにおける小さな成功というのは、経営者、リーダーを誤らせる。ちょっと成功すると、わたし含めて人間はすぐ天狗になり威張る。いろいろなところで自慢を言い散らす。これによって、謙遜さを忘れだすと、天は必ずその人からツキをとって、ツキが離れるのです。

 つまり、実は成功するというのはものすごくハイリスクなんです。失敗したら、その人は謙虚になるじゃないですか。まずかった、俺が失敗したと。そうすると謙虚になって、謙虚になった人には必ず天からの良い運が巡って来るんですよ。

 ─ この道理は、世の東西を問わず同じことですね。

 千本 ええ。どんなベンチャー、中小企業、零細企業だってそうです。ある組織のリーダーが考えるべきことは、ともかくまずやることが大事。やらないことが最大のリスクですよね。

 失敗したら素直に謝って、楽観的に次をトライしなければ駄目。わたしの挑戦は100やって99失敗しているわけです。わずかこのひとつの成功のうえに次の新しいことをやってみて、また100のうち99失敗してまたひとつだけ残る。

 このことは稲盛さんと一緒に歩いて、稲盛さんに指導してもらったことです。このわずかひとつのあい路を抜けて、時価総額何千億円、何兆円のKDDI、イー・アクセス、イー・モバイルができてきた。

 とにかく社会的に意義のあること、世の中のためになるというプロジェクトに出会えば、すぐにアクションを取ることが大事です。


50億円の寄付

 ─ 千本さんは、虐待されている子どもたちのためにつくられた財団(財団法人こどもたちと共に歩む会)に50億円寄付されましたよね。

 千本 元通商産業事務次官の小長啓一さんとわたしが代表理事になって、理事にICUの元学長・日比谷潤子さんや、日本IBMの社長・山口明夫さんになってもらって。彼ら各政財界のリーダー達も、虐待児のためだったらやると言ってくれたんです。

 日本は虐待児に対する予算が先進国で最低で、特に重度の虐待児に対しては更に酷い状況です。しかし、他の先進国はそういうことに一番お金を使っているのです。

 ですから、経済人として、民間人としてできることはなにかといったら、まずはそういう人たちに1円でも寄付をしてあげることだと考えています。

 ─ 日本において寄付を仕組み化するのは難しい現状がありますね。

 千本 はい。特に私の回りのリッチなリーダー達は、ふるさと納税の仕組みをうまく使ってもらっています。

 今回わたしが仕組み化したのはどういうことかというと、地方税の9割をこの虐待児のために払えるようにしたと。

 これは北海道の東川町が大変な努力をしてくださり仕組み化をいたしました。ふるさと納税の返礼品をもらっては駄目なんです。返礼品はもらわない。そのかわりに地方税の大半の使い道を変えるのです。

 払う側はもともと自分の払う300万円の使い道が変わるだけですので、懐は痛まないわけです。この仕組みをつくるのは本当に大変でした。世田谷区で最初にやろうと思ったら、3年かかると言われました(笑)。東川町は町長が素晴らしい方で、町長が先頭に立ってこのプロジェクトに賛同するといって、全力で動いてくださったのでこの仕組み化が実現しました。

 ─ なぜ東川町と提携を?

 千本 それはやはり、町自体が日本で最も優れた町であるからです。今、東川町は日本で一番QOLの高い町で、わたしも引っ越そうかと思うぐらい素晴らしいところで、東京からも移住者がすごく多い町です。大雪山の麓にある実に素敵な町ですよ。


アメリカでの留学 NVIDIA共同創業者とのやりとり

 ─ 千本さんは米・フロリダ大学にも留学していましたね。

 千本 はい。電子工学の権威のチルダー先生という名教授がフロリダ大学にいたので、そのためにそちらの大学院に行ったんです。

 フロリダ大学の卒業生で、わたしと同じ電子工学科の卒業生にクリスという若者がいて、彼はなんのことはない、今、世界の企業のNVIDIA(エヌビディア)共同創業者のクリス・マラコウスキー氏です。

 彼が2年前に「おい千本、フロリダ大学は今、全米でランキングで十数番目の大学だけど、われわれの手で母校をもっとよくしようよ」と言ってきたのです。「なにをどうするんだ」といったら、自分はNVIDIAの株を持っているから、全米の大学で最大のスーパーコンピューターをフロリダ大学に寄付しようと思うけどどうかと。それでわたしが「それはいい。どんどんやれやれ。私も寄付しますから」と言いましてね(笑)。

 そうしたら、300億円の巨大なスーパーコンピューターが、フロリダ大学のキャンパスにバンッとできたのです。するとそこに優秀な研究者は集まる、いい学生は集まる、研究論文が激増する、となりましてね。去年公立大学では5番のトップ大学になりました。これはまさにドネーション(寄付)の力です。

 ─ そこがアメリカのダイナミズムですね。

 千本 そうですね。政府の予算に頼らず、卒業生の寄付で大学がよくなるという良い例だと思います。日本もそういうドネーションの文化と良い環境を早急に作るべきですね。

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