久保利英明の「わたしの一冊」『新 弁護士読本 弁護士十年一人前論』
財界オンライン / 2024年5月18日 11時30分
元最高裁判事一推しの『愛嬌』とは
最近、多くの元最高裁判事などが自伝や随想を出版されている。しかし、本書は趣を異にしている。5年弱にわたり最高裁判事を経験した稀代の倒産法弁護士が人生経験を吐露した若き弁護士に対する人生指南書である。
まず、本書に登場する人物がユニークである。血盟団に連座し、15年の懲役刑を受け、恩赦により出所してから歴代首相の指南役を務めた四元義隆氏、東条英機に逆らい、翼賛選挙無効判決を下した吉田久大審院判事、倒産弁護士のボスから地裁の裁判官に任官し、最後は東京高裁裁判長を務めた高木新二郎弁護士など、戦中から現代に至る著名人がきら星のごとく並んでいる。著者自身の最高裁判事としての違憲判断について「一票の格差事件」についての違憲少数意見や、在外邦人選挙権違憲判決にも触れている。
そんな成功者である著者が意外なことに、弁護士には「愛嬌」が必要と断じ、「愛敬とは人のためになることをしようという気持のあらわれ」と言う。
著者と私は偶々、平成元年度に東京弁護士会と第二東京弁護士会の副会長だった。任期があけてもこの3弁護士会と大阪、名古屋の役員達は「元年会」と称する会合を維持してきた。
元年会のゴルフコンペでは、著者は素振りもせずにティーショットを打ち、すぐにカメラを抱えて、他の人の姿を撮影するサービスぶりである。撮影した写真は引き延ばして焼き付けし、全員に毛筆の手紙付きで郵送するという気配りの人である。最高裁判事に就任してもこの行動パターンは変わらなかった。
「人生論」や「成功談」を出版する弁護士は大勢居るが、本気で愛嬌を何十年も振りまき続ける人気者を私は他に知らない。愛嬌こそ、弁護士やプロフェッションばかりではなく、ビジネスマンすべての成功の要諦かもしれない。その陰に隠れた不断の努力については本書をお読みいただきたい。
ビジネスマンの秘伝書として本書を推薦したい。
*なお、著者の才口千晴先生が4月17日に逝去されました。謹んで哀悼の意を表します。
冨山和彦の「わたしの一冊」『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』
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