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【政界】ピンチになればなるほど動き出す岸田首相は経済再生をどう進めるか?

財界オンライン / 2024年6月3日 7時0分

イラスト:山田紳

4月の3つの衆院補欠選挙で自民党が全敗し、首相・岸田文雄の政権運営が窮地に陥っているかのようにみえる。しかし岸田本人はいたって意気軒高だ。ピンチになればなるほど動き出す岸田の首相在任は2年半を超え、戦後歴代8位となった。6月からは1人当たり計4万円の所得税・住民税の定額減税が始まり、9月の総裁選再選を目指す岸田は追い風としたいところだが、衆院解散・総選挙の時期も含め先行きは見通せていない。

【政界】補選全敗にも「粘り腰」の岸田首相 国のリーダーとして指導力を示す時

首相自ら奔走

 ピンチになるとスイッチが入る岸田の衝動的な行動は補選全敗後にも表れた。自民党派閥パーティーの収入不記載による裏金問題に端を発した政治資金規正法改正案について、陣頭指揮を執り始めたのだ。岸田は地球の裏側のブラジルから5月6日に帰国した直後、首相公邸に実務者を呼び、改正案の早期実現と、不透明と指摘される政策活動費や旧文通費の使途公開に向けた調整を進めるよう指示した。

 パーティー券販売や企業・団体献金の禁止までは至らないが、公開の基準は引き下げる方向にかじを切った。従来、自民党がかたくなに拒んでいたとみられていただけに、一歩前進ではあった。

 注目すべきは、岸田が表に見える形で直接、実務者に指示を出したことだ。公邸に呼んだのは党政治刷新本部の作業部会座長・鈴木馨祐(けいすけ)、同事務局長・大野敬太郎の2人で、面会は約1時間に及んだ。党幹部には寝耳に水だったようで、四役の一人は「何も聞いていなかった」と不快感をあらわにした。

「党幹部飛ばし」の背景にあるのは岸田の不信感だ。特に幹事長の茂木敏充との疎遠な関係は修復不可能とさえ言われる。

 自民党総裁は首相でもあり、党の実務は幹事長が差配する。改正案も本来は幹事長が先頭に立って進める案件だが、昨年11月に裏金問題が大きく報道されてから半年以上経過しても改正案は成立していない。この間、政権への支持は着実に低下していった。

 次期総裁選出馬への意欲を隠さなくなった茂木は一方で、党中堅・若手議員との会合にいそしんでいる。麻生派以外の派閥が解消された状況を踏まえ、幹事長として「選挙は大丈夫か?」といった相談に乗ることを口実としている。

 だが、実態は、派閥中心の総裁選という従来の構図が崩れる中で幅広く党内の支持を広げる活動だとの見方は党内の衆目の一致するところだ。茂木と夜の会食をともにした安倍派の若手議員は「茂木さんは意欲満々だ。派閥解消をチャンスととらえているのだろう」との感想を漏らす。

 組織の結束が見られず、党のガバナンスが崩壊しているような状況だが、その点も含め最終的な責任は党総裁である岸田にある。部下の露骨なサボタージュに業を煮やした岸田が仕方なく動く構図だ。


幹部のサボタージュ

 鈴木らに指示を出した翌日の5月7日、岸田は朝一番で公邸に腹心の党幹事長代理・木原誠二を呼んで40分間面会すると、国会に移動。当選同期の党国対委員長・浜田靖一のもとを突然訪問した。約束のない首相の来訪について、浜田は周囲に「驚いた」と明かす。

 午後には党本部に向かい、総務会長の森山裕、党事務総長の元宿仁と個別に面会した。さらに茂木、元宿と短時間会って官邸に戻った後、再び党本部に赴いて茂木と副総裁の麻生太郎と会談し、その後に政調会長の渡海紀三朗とも面会した。この日は公明党との間で改正案の内容について大筋で合意した日で、首相自らが国会審議の調整なども含めて丁寧に根回しした格好だ。

 これらは本来、幹事長はじめ党幹部が行う仕事だ。岸田は裏金問題に関係した議員の処分を巡る調整が混迷していた4月2日にも国会内で麻生、茂木の部屋と、その他の幹部がいる別の部屋を往来した。首相が党内調整のため国会の廊下を行ったり来たりする「パシリ」のような姿は異様だった。

 自ら汗をかく岸田だが、世論の受け止めは芳しくない。共同通信が13日に公表した世論調査の内閣支持率は24.2%で、前月比0.4ポイントの微増にとどまり、不支持率は62.6%で同0.5ポイント増となった。NHKが同日公表した世論調査結果でも内閣支持率24%(前月比1ポイント増)、不支持率55%(3ポイント減)だった。

 大型連休中の5月4~5日にTBS系のJNNが実施した世論調査では、補選全敗直後にもかかわらず、内閣支持率が7.0ポイントも増えて29.8%になった。自民党内でさえ「そんなはずがない」と懐疑の声が広がった。同じ調査で自公政権の交代を望むとの回答が42%となり、自公政権の継続を求めた32%を上回ったことの方が党内の実感として近い。



立憲民主党も岐路

 一方、補選で全勝した立憲民主党代表の泉健太は興奮冷めやらぬ様子だ。同時に行われた3つ以上の補選で立民の公認候補が全勝したのは、補選が4月と10月の年2回に統一して行われるようになった2000年以降で初めて。前身の民主党や民進党時代にもなかったことだった。

 強気の泉は5月10日の記者会見で「200人の擁立目標が終わったら一息つく話ではない。選挙まで時間がある環境であれば目標の修正もあり得る」と述べ、2月の党大会で決定した次期衆院選で200人の候補者擁立を目指すとの方針を上方修正する意向を示した。さらに裏金事件に関係する議員全ての選挙区に対抗馬を擁立する考えも表明し、「裏金議員を許さないとの意思を示す」と鼻息が荒い。

 裏金が発覚した自民党議員は離党した議員も含め50人を超えるが、立民が対抗馬を用意していない空白の選挙区は約3割に上る。西村康稔や高木毅ら強力な地盤を持つ議員が多い。そんな現実をよそに、高揚した泉はとどまるところを知らない。

 記者会見後に母校の立命館大学で行った講演では、次期衆院選に立民が勝利して与党第一党になれば、自身の首相就任が「視野に入る」とまで言及した。

 9月に岸田の任期が満了する自民党総裁選の行方が注目されているが、泉の代表任期も9月に満了し、代表選が行われる予定だ。補選で実績を残した泉の再選は確実かというと、決してそうでもない。

 そもそも補選の結果は、自民党の裏金問題という敵失が大きな要因だった。泉は2017年の衆院選で敗北した枝野幸男の代表辞任を受けて就任し、すでに2年半が過ぎた。この間、目立った成果は、先の補選を除いて見当たらない。政権交代の実現を訴えはするが、具体的な政権構想は不明で、世論に浸透していない。

 選挙における共産党との関係もあいまいなままだ。野党第二党の日本維新の会と対立する立民は、同じく連合を最大の支持母体とする国民民主党とも密接に連携していると言い難い。野党共闘を行う場合、最も頼りになりうるのは、全国に一定の組織を持つ共産党となる。泉は共産党と政権を共にする考えはないとしつつ、選挙では協力したいというご都合主義ともいえる態度に終始する。

 共産党の力は3つの補選でも如実に表れた。共産党はいずれも候補者を擁立せず、立民候補を事実上支援した。特に東京15区補選では密接に連携した。

 選挙期間中の4月26日、立民の保守系を代表する元首相の野田佳彦までもが、共産党書記局長の小池晃と一緒に立民候補を応援した。この模様は共産党機関紙「しんぶん赤旗」に写真入りで掲載され、野田が「市民と野党が共闘し金権腐敗政治を許さない覚悟をもったチームの一員でないといけない」と訴えたと紹介された。

 東京15区補選の結果は立民公認の酒井菜摘が4万9476票を獲得し、2位の無所属・須藤元気(2万9669票)に大差で勝利した。ただ、過去の東京15区の共産党票の動向をみると、共産党候補が出馬した場合は3万票前後を獲得していた。

 票数は選挙の構図によって変動し、また立民、共産両党の共闘を忌避した立民支持者らも一定数いただろうが、今回共産党が独自候補を擁立していれば、少なくとも立民候補の圧勝はなかったと推察できる。

 補選の結果は、「立憲共産党」とも称される両党の一体化に拍車をかける可能性がある。選挙協力に限定した連携だとしても、共産党の力なしには立民が伸長しにくい状況を露呈した。そんな中、立民内では「首相の器」としての泉の訴求力の低さを指摘する声が多く、復権を狙う野田、虎視眈々と再起をはかる枝野への期待がじわじわと広がっている。


解散巡る攻防

 野党第一党の不安定さ、そして相変わらず衆目の一致する「ポスト岸田」候補の不在にも救われ、岸田は政権運営に自信を深めている。「常人には理解しがたい鈍感力」(野党幹部)のなせる業で、外交にも引き続き力を入れる考えだ。

 4月に国賓待遇の訪米を終えた岸田は大型連休中にパリと南米を訪問。5月には4年半ぶりとなる韓国での日中韓首脳会談、6月にはイタリアでのG7サミット(先進7カ国首脳会議)、7月には米首都ワシントンでのNATO(北大西洋条約機構)首脳会議への出席が予定されている。8月にはカザフスタンで日本と旧ソ連の中央アジア5カ国による初の首脳会談も調整されている。

 外交日程と並行して注目されるのが、衆院解散・総選挙の時期だ。永田町では、最速で通常国会が事実上の会期末を迎える金曜日の6月21日に解散し、7月9日公示・同21日投開票との日程がささやかれる。立民などの野党が会期末に内閣不信任案を提出するのは確実で、それをきっかけに岸田が国民に信を問うとのシナリオだ。

 7月16日公示・28日投開票の日程も候補に挙がるが、岸田がこのタイミングでの解散を見送れば、自民党総裁選後の10月以降となる見通しだ。来年は参院選に加え、連立与党の公明党が力を入れる東京都議選もあることを考えると、解散・総選挙が年内に行われることはほぼ既定路線となっている。

 そこで岸田が総裁選前の解散に踏み切れるか否か。自民党内の大勢は「いま選挙をしたら政権交代が起きる」であり、茂木は周囲に「体を張ってでも解散をさせない」と話す。そうなると、解散前の内閣改造・党役員人事の断行も想定される。

 自民党の役員任期は1年で、連続3回までと決まっている。麻生が該当し、茂木も11月まで務めれば丸3年で、いずれにせよ2人は同じポストのままでいることができなくなる。早晩人事の断行は必要で、岸田がそれを早めるとの観測だ。

「岸田降ろし」が吹かないこと自体が自民党の活力低下を象徴するが、岸田が総裁選再選を目指して求心力を維持する有効な手立てが人事の断行になる。

 過去の例にならえば総裁選の日程は8月下旬には確定する。総裁選の前倒しは過去に例がなく、現職の総裁が敗れたのは1978年の福田赳夫しかいない。大平正芳に想定外の敗戦を喫した福田の「天の声もたまには変な声がある」との弁は有名だが、秋に向け永田町には、どのような声が響くか。(敬称略)

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