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「食を通じた人間関係で日本全国をかき混ぜる!」 雨風太陽社長・高橋博之の地方活性化戦略

財界オンライン / 2024年6月10日 7時0分

高橋博之・雨風太陽社長

「日本を元気にする唯一の道は、都市と地方をかき混ぜるしかない」─。日本全国の生産者と消費者をつなぐ食のプラットフォーム「ポケットマルシェ」を運営する雨風太陽社長・高橋博之氏はこう語る。高度経済成長期以降、都市に人は流出し地方は過疎化。生産者の後継ぎ不足は深刻化し、日本の食料自給率は38%で海外輸入に頼る状況。高橋氏はこの問題に対し、「都会と地方のコミュニケーションを増やし、双方が影響を受け合う社会にしていくことが日本再生の道」と強調する。同氏が提唱する「関係人口」を増やす構想とは─。


都市と地方の分断を食でつなぐ

「お母さん、今日の波の高さは3メートルだから漁師の○○さんはきっと海に出られないね」

 雨風太陽が運営する生産者と消費者をつなぐプラットフォーム『ポケットマルシェ』(以下ポケマル)から食材を購入している東京都在住の家庭では、こういった会話が日常的に交わされる。日本海の蟹を漁師から直接購入するようになってから、毎日子どもが波の高さを気にするようになったという。

 ポケマルは生産者と消費者をつなぐ日本最大級のプラットフォームで、現在生産者の数は8100人を超え全国市町村の9割弱をカバーし、登録ユーザーは73万人超。ここでは毎日全国津々浦々、生産者と消費者の活発なコミュニケーションが行われている。

 同社の売上高は9.5億円(2023年12月期)で、昨年東京証券取引所グロース市場に上場。コロナ禍の巣ごもり需要で食材宅配サービス業界は伸長したのは言うまでもない。緊急事態宣言が出てからは注文が殺到して新規会員の制限をする企業もあった中、同社は倉庫を持たないため青天井で会員数を延ばし、売上は2カ月で15倍に急伸した。

 ビジネスモデルとしてはメルカリの食材版のようなもので、一次生産者が同社のプラットフォームに出店し、消費者は生産者と直接取引を行う。最大の特徴は生産者とユーザー両者が直接コミュニケーションすることにある。それにより人間関係が生まれ、そのリアルな交流が都市と地方の分断をつないでいる。

 農協や漁協に加入している一次生産者は、市場価格に沿った価格決定を行わなくてはならないため、自ら自由に価格を決められないという構造がある。ここでは生産者が価格を自由に決められる。

「弊社のシステムはわれわれが間に極力入らずクレーム等も本人同士で解決をしてもらうことになるので、生産者から冷たいと言われることもあります。でもこの問題は、例えば発展途上国に魚を渡すか、魚の捕り方を教えるかと似ていて、後者でなければ生産者はいつまでも自立ができません。マーケティングはお客様の声を聴くことが基本。耳を防ぎたい厳しい声にも向き合うことで必ず成長し豊かさにもつながる」と高橋氏。

 生産者にとって生産物を直接消費者に届けるというのは、言ってみれば手塩にかけて育てた娘を嫁に出すということ。これまで食品卸やスーパーなどを通じて消費者に届けたとしても、生産者に消費者の反応は見えなかった。しかし、消費者との直接のやりとりを通じて感謝の声や喜びを受け取れるようになり、仕事のやりがいに大きくつながっているという。

 自然と日々対峙する生産者の苦労が伝わって、消費者に優しさが芽生えます。不思議と生産者を育てよう、支えようという気持ちが湧き上がる。ですから人間関係を築くことが鍵です」と高橋氏。

 ある時、水産物が捕れた場合に購入成立するという顧客が、なかなか商品が届かないと生産者に連絡したところ、荒波の海の動画を添えて1カ月のうち4日しか漁に出られていないという返事がきた。仕事をしたくてもできない漁師の状況を理解し、都市に住む者が本当の意味で生産物に〝価値〟を感じ、生産者へのリスペクトが生まれた瞬間。と同時に、都市に住む者が命がけで漁をする漁師とその食材を通じて〝命〟というものに向き合うきっかけとなった。「見えないものに人は価値を感じませんし、価値を感じなければお金も払わない。価値を見える化するためには、当人同士の直接のコミュニケーションが一番だと考えます」(高橋氏)

 ポケマルでは一度の購入で平均2.58回のコミュニケーションが発生する。これこそが同社が提供するサービスの価値である。


人が生命力を取り戻すきっかけにもなる

 都市では効率と合理化のために機械化で人手を省くのが当たり前の生活の中、ポケマルを通じた生産者との人間的なコミュニケーションは新鮮に映る。都会の子どもたちが魚の絵を切り身で描くというが、共働きで家庭料理が時短化され食材の原型を知る機会が失われていることも影響があるのか?

 厚労省の調査によると、年々増え続ける日本における小中高生の自殺者数は令和5年に過去最高の515人となり、都道府県別にみると都市部が目立つ。自然と触れ合う機会が少ない都市では、生活の中で命に直接向き合う機会が少ないことも関係しているのかもしれない。食の問題を考えることは命を考えることに直結する。

 仕事が都市部に集中しているため地方への移住はハードルが高い。だが、少しの関わりを持ちたいという人の需要は高い。高橋氏はこの関わり合いを「関係人口」と呼び、これを増やしていくことが地方創生の課題解決につながると提唱している。

「都市の活力は異質なものと既成概念との混ざり合いから生まれる。都市の人が地方に行き自然の中で五感を解放し、現地の人と交流して混ざることで、都市に帰ったときにまた新しい視座やアイディアが生まれる。それが都会の活力を生む源泉ともなる。そのきっかけをつくりたい」と高橋氏。関係人口を増やす移動手段としてJALとの提携もしながら人の移動を活性化させる仕組み化を推進中。日本の食を支える地方と都市の交流に可能性を見出し、見えない価値の見える化に向け、全国を飛び回る高橋氏の挑戦は続く。

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