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和佐見勝・AZ―COM丸和ホールディングス社長(丸和運輸機関社長)「〝人財育成〟のポイントは響いて育つ、共に育つ、強く育つの3つです」

財界オンライン / 2024年6月7日 18時0分

「遣り甲斐や働き甲斐のある会社にしていく」─。小売業に特化した3PL(物流一括請負)でロジスティクス業界をリードするAZ―COM丸和ホールディングス社長の和佐見勝氏は人手不足に拍車がかかる「物流の2024年問題」についての対応策を語る。埼玉県松伏町に一大物流センターを設置するなど、低温食品物流事業やBCP(事業継続計画)を事業化させるBCP物流事業などを成長戦略に据える。和佐見氏が見据える人づくりとは。

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3PL企業ならではの工夫

 ─ 物流の2024年問題が産業界の大きな課題になっています。どう対応しますか。

 和佐見 人の確保がこれまで以上に大きなポイントになってきます。物流業界における2024年問題とは、ドライバーの年間の時間外労働の上限を960時間に規制するということです。これにより労働時間が短くなり、輸送能力が低下することが懸念されています。

 これまでの物流業界ではドライバーが長距離を運転し、荷待ちや付帯作業なども含めて様々な業務を行うことで、長時間労働が当たり前になっていました。年間1200時間を超える時間外労働の実態もある中で、これを960時間にまで制限するということですから、我々の業界にとってはハードルが相当高くなります。

 しかし、これは何としてもクリアしなければなりません。特に長距離ドライバーの負担をいかに軽減していくかが重要になってきます。その点、当社は企業の物流業務を一括して請け負う3PL(サードパーティ・ロジスティクス)企業ですから、全国各地にある物流センターを活用してドライバーの労働時間が長時間にならないようにシフトを組むといったAIによる配車を行っています。

 ─ やはりドライバーの確保はなかなか難しいと。

 和佐見 ええ。コストがかかります。例えば、1人のドライバーの労働時間を1割短縮するためには、これまでドライバーが100人必要だったのが110人以上にしなければ回らないということになりますから、10人分以上のコストが新たに発生します。これは大きいです。人手がないところに人を当てる必要が出てくるということです。

 ─ そのために賃金を上げる企業も出てきています。

 和佐見 はい。2024年問題にしっかり対応していくためには、現在の賃金体系も変えていかなければなりません。そして何よりも重要なことは、自分たちの会社をもっと魅力ある会社にしなければならないということです。

 そこで当社の方針としては、特に教育に力を入れていきたいと思っています。当社ではあえて人材は「人財」と呼んでいるのですが、具体的には当社の人財育成には3段階あります。1段階目は「響いて育つ(響育)」です。人を響かせるようなビジョンや目標を打ち立てないといけないということです。

 2段階目は「共に育つ(共育)」です。ビジョンや目標を共有し、仕事を一緒にやりましょうという気持ちになることが大事です。単に仕事をやっておきなさい、外部の研修に行ってきなさい、というだけでは人は育ちません。一緒に育つことが大切なのです。

 そして3段階目は「強く育つ(強育)」です。1人ひとりが強く育つという意味もありますが、お客様からも評価されるような強さも必要になります。


目標は5年間で5000人を採用

 ─ 教育も人を集めるための重要な要素になりますね。

 和佐見 はい。それから当社には社内大学の「丸和ロジスティクス大学」もあります。新卒の社員も中途社員もこの社内大学で当社の企業文化を学び、そして物流の専門知識やマネジメントを学ぶことができます。

 当社には全国の運送会社からその会社の社長さんの後継者が社員として入社し、この大学で一緒に勉強しています。それだけ当社の教育に魅力を感じていただいているから後継者やお子さんを当社に預けていただいているということだと思います。

 こういった当社の教育の仕組みを様々な人たちに理解していただくことで、AZ―COM丸和グループは遣り甲斐があって働き甲斐がある会社だと感じていただけるようになります。今後もそういう企業づくりを進めていかなければなりません。

 2024年問題を本格的にクリアするためには、これだと思うものを前面に押し出して人を確保する必要があります。当社の場合はそれが教育だということです。

 ─ 具体的な数値などは掲げているのですか。

 和佐見 22年からの5年間で5000人の社員を採用する計画を掲げています。内訳は、新卒採用が3000人、中途採用が2000人です。25年3月期までの中期経営計画では売上高2400億円の目標を掲げているので、ドライバーの確保も含めて人員規模を拡大させていくということになります。

 ─ そういった教育の場を持っていたりするのですか。

 和佐見 例えば、現在建設を進めているのが埼玉県松伏町にできる新しい物流センターです。この物流センターは首都圏の食の「安全」「安心」「安定」を支える食品流通の一大拠点になるのですが、特に特徴的なのは低温物流というコールド・チェーンの拠点にもなるという点です。この低温物流はアジアにも展開していこうと考えています。

 そして、この物流センターは人財育成の機能も持っています。国内外から多くの視察を受け入れると共に、研修の場としても活用します。海外からの人財の受け入れについては、2つの寮を建てる予定です。合計で1000人ほどを受け入れることができます。



低温物流でアジア展開も

 ─ コールド・チェーンの仕組みも現場で学べると。

 和佐見 そうです。低温物流といった技術・技能は、まだアジアでは進んでいない国もあります。ですから、我々にとってもこの技術・技能を武器にしてアジアに進出していきたいと思っています。それと当時に、アジアの方々をご招待し、ぜひ一度、日本のロジスティクスやコールド・チェーンの仕組みを見ていただこうというのが狙いです。

 ─ 学ぶ場というだけでなく交流の場でもあるのですね。

 和佐見 はい。基本的には隣国の中国から始まっていくと思いますが、その後はアジア各国の人たちともお互いに提携し合っていきたいと。場合によっては、当社が資本参加するケースもあるでしょうし、社員を派遣するケースもあるでしょうね。

 ─ 最近ではインドネシアが有望だと話す経営者が増えてきているように感じます。

 和佐見 私もそう思います。実は今年7月には流通小売業共通の課題解決に取り組む「日本小売業協会」と3PL事業者の抱える様々な課題を共有して実践的な解決を図る「日本3PL協会」、そして中小トラック運送事業者の利益向上と人財育成を応援する全国ネットの団体である「AZ―COM丸和・支援ネットワーク(略称=AZ―COMネット)」の3団体でインドネシア、シンガポール、マレーシアに視察に行く予定です。

 ─ アジアとの関係を深めながら人財も確保していくということですね。このAZ―COMネットは和佐見さんが業界の底上げを目的に立ち上げた団体ですが、今後はどのような戦略で臨んでいくのですか。

 和佐見 私が考えているのは、BCP(事業継続計画)に関する物流です。このBCP物流は当社の3つのドメイン(EC物流、低温食品物流、医薬・医療物流)の次にくるものであり、今後大きく拡大させる事業です。

 BCPとは、自然災害や緊急事態に遭遇した際、その被害を最小限にしつつ、事業を継続し、早期復旧を図るために平時から緊急時の事業継続のための方法や手段を用意しておくものですが、このときに自治体などに救援物資を運ぶトラックや人の手配などの物流面での支援を行うのがBCP物流事業になります。

 ─ ここにAZ―COMネットも絡むということですか。

 和佐見 そうです。AZ―COMネットの会員企業にもBCP物流に取り組んでもらおうと進めています。具体的には備蓄倉庫の管理です。備蓄倉庫の管理は平時でも必要になります。今では25都府県、45市町村の計70自治体とBCP協定を結んでいます。これをもっと本格的に展開していき、最終的には500の自治体と協定を結びたいと思っています。


BCPの専門家の下に社員を派遣

 ─ 災害が頻発しているだけに、今後も需要が増えますね。

 和佐見 ええ。例えば、元日の能登半島地震でも当社のBCP物流事業が機能しました。AZ―COMネットを含めて物流事業者8社が災害時の緊急物資の運送などを任される「指定公共機関」に指定されていたのですが、我々AZ―COMネットは発災当日に要請を受けて、いち早く支援体制を整えることができました。

 なぜなら、当社は既にコンビニのセブン-イレブンさんと大規模災害時における支援活動に関する協定を結んでいましたから、24時間365日、要望があればすぐに全国の店舗へ物資を運べる体制づくりを進めていました。ですから、能登半島地震のときも支援物資供給のため、1月2日には輸送支援を開始しました。その後、担当責任者以下100名以上が現地に入って対応しました。

 ─ 災害時の対応に緊急対応の本質を衝いたノウハウや知識が求められます。

 和佐見 その通りです。ですから当社は専門家の先生方の下に社員を派遣しています。もともと当社はBCPを考える中で、事業として動かしながら社会貢献ができる仕組みをつくりたいと思っていました。そこで私はAZ―COMネットに「BCP諮問委員会」という委員会をつくり、防災研究の専門家の先生方にも加わっていただいたのです。

 その委員会の委員長に就いていただいたのが東北大学の教授でBCPの専門家である丸谷浩明先生でした。また、この事業化型の社会救済の仕組みをつくり出そうとしたときに相談に乗っていただいたのが東京大学大学院教授の目黒公郎先生でした。

 丸谷教授の下では、当社の若手社員2人が2年間にわたって共同研究員として学び、BCPに関する専門的な知識についてご指導いただいています。また、目黒教授の研究室でも3年間にわたって3人が研究に取り組み、BCPの専門知識を身につけています。最終的には丸谷教授の下で合計6年間で6名、目黒教授の下では合計9年で9名を輩出したいと考えています。

 ─ BCPの専門知識を得た人財の育成だと。

 和佐見 はい。BCPをやろうと思っても、スペシャリストを育てないと何も始まりませんからね。BCPはいざというときに動けないといけません。一方で毎日のように大きな災害が起きるわけではありませんから、そもそも専門的な知識を持っている人が少ないのです。

 しかし、当社はBCPに関する専門的な知識を身につけた人財を育てておくことで、いざというときに対応できるように教育しているということです。その意味では、まさに実践知です。今は当社のBCP物流事業もかなり注目されています。

(次回に続く)

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