〈トラック運転手不足〉「5年後には今と同じ運び方は不可能」ヤマトHDが乗り出す共同輸送ビジネス
財界オンライン / 2024年6月18日 18時0分
「このままではドライバーが主役の物流業界は成り立たない」─。ヤマト運輸グリーン物流事業推進部長の高野茂幸氏は強調する。宅配便最大手のヤマトホールディングス(HD)が共同輸送を促す新会社を設立した。従来まで荷物を奪い合っていた他社と手を結ぶ協業に軸足を移す。2024年問題でトラック運転手不足が深刻化する中、1976年の誕生から半世紀近くが経つ「宅急便」で培った経営資源を活用し、物流業界の再構築を進める考えだ。
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荷主や物流会社が自由に参加
「持続可能なサプライチェーン構築へ多種多様なパートナーと新たな物流・新たな価値を創造していきたい」─。ヤマト運輸執行役員(グリーンイノベーション開発、サステナビリティ推進統括)の福田靖氏は話す。
ヤマトHDがトラックの空きスペースと荷主をマッチングさせて配送を効率化させる取り組みに本腰を入れる。同社は新会社「Sustainable Shared Transport(SST)株式会社」を設立。荷主の出荷計画や荷物の個数などの情報に加えて、ヤマト運輸を含めた物流企業の運行情報をつなぐ共同配送のオープンプラットフォームを富士通と構築し、今年の冬から運用を開始する。
これまで荷物を取り合うために運賃などで激しい〝競争〟を繰り広げてきた物流業界だったが、ヤマトHDの取り組みは互いの経営資源を持ち寄って補完し合う〝協業〟へとステージが変わっていることを示している。
背景にあるのはトラック運転手不足が深刻化する「2024年問題」だ。4月からトラック運転手の残業時間の上限規制が強化され、年間960時間以下に制限された。このことは今まで1人のドライバーが1日で運べていた長距離輸送が不可能になることを意味する。
SST社長でヤマト運輸グリーン物流事業推進部長の高野茂幸氏も「人手が少なくなり、5年後には今と同じ運び方ができなくなる」と強調。実際、24年にトラックの輸送力が約14%、30年には約34%不足すると試算されている。この予測などを受け、徐々に荷主や物流会社が対策を打ち始めていたのは事実。
関東・関西間で大型トラック輸送や倉庫業などを展開する遠州トラック社長の金原秀樹氏は足元の物流業界の現状を次のように語る。「荷待ち時間への対応を考えてくれる荷主や人件費などの上昇分を運賃に反映してくれる荷主も出てきてはいる。しかし、荷待ち時間の短縮の浸透にはまだまだ時間がかかり、運賃の値上げも我々の要望レベルまでには至っていない」。
荷待ちとは、荷主や物流施設の都合によってドライバー側が待機している時間を指す。これには荷物の積み下ろし待ちや指示待ちの時間も含まれており、たとえ3時間以上待たされても文句を言えない環境にある。
また、B to B輸送の積載率は約40%と低い積載率の貸切輸送が常態化。往復輸送のうち片道は「空気を運んでいる」(関係者)状況だ。そこでSSTではこの領域に対し、ヤマトグループが宅配便事業で培った約160万社の法人顧客、4000社以上の物流事業者とのパートナーシップ、さらには輸配送のネットワークのオペレーション構築のノウハウを生かし、安定した輸送力の確保と環境に配慮した輸送網の構築を目指す。
SSTは24年度内に第三者割当増資を行い、パートナーとの連携を深める。ある物流会社関係者からは「自前主義の傾向が強かったヤマトHDからすれば覚悟を感じる取り組み」との声が上がる。SSTが構築する共同配送のシステム基盤は参加したい荷主や物流会社が自由に参加できる。24年度は東京・名古屋・大阪間で1日40便の運行を予定しており、これを来年度には80便にする目標を掲げる。積載率も70%以上を目指す。
宅急便の荷物も9割が法人発
高野氏は「荷主企業の出荷計画や荷物量の情報と物流事業者の運行計画の情報を統一化させ、需要と供給に合わせた積載量のマッチングを支援する。マッチング後に、中継地点を介した短・中距離リレー輸送や標準化されたパレットを活用した複数社による混載輸送、さらに定時運行を行うことでドライバーの負担を軽減しながら稼働率や積載量の向上が可能となる」と話す。
肝心のコストはどうなるのか。高野氏は「ケースバイケースだ」とした上で「トラック1台で16パレットを積載でき、8~10パレット分の積載量しかない場合は、他社との乗り合わせが可能になるため安くなると考えられる。ただし、1社で16パレット分全てを使用する場合は、短・中距離リレー輸送を行う関係で高くなると考えられる」とした。
それでもヤマトHDが共同配送に乗り出すのは、宅配業界最大手としての〝危機感〟がある。「(個人向けで始まった)宅急便も現在はECを含めた法人発の荷物が9割。個人発の荷物を運ぶ供給網はある程度磨き上げてきた。このノウハウと経験を法人発の領域でも駆使しなければドライバーが主役の物流業界は成り立たない」(同)。
同業他社でも日本郵便と西濃運輸が長距離輸送で協業を開始。積載率の低い区間での共同輸送に取り組む。また、日本通運は中小の運送会社と共同利用する物流拠点を整備し、荷物を別の車両に積み替える中継拠点を整備していく方針だ。これらの取り組みについても、高野氏は「SSTはオープンでありたい。一緒にやるという話になるかもしれない」と協業は否定しない。
物流業界は1990年の規制緩和で新規参入が増え、供給過多の状態が続き、それに伴って運賃も買い叩かれてきた。その結果、「荷主の言うことは何でも聞くのが当たり前」(トラック会社首脳)という商習慣が続いてきた。つまり、「自分たちで業界を変えようという機運が生まれなかった」(同)わけだ。
しかし、潮目は変わりつつある。競争と協業を両立させるためには自社に〝相手から選ばれる魅力〟がなければならない。ヤマトHDの取り組みはその試金石になりそうだ。
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