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和佐見勝・AZ-COM丸和ホールディングス社長 (丸和運輸機関社長)「会社は人間同士の出会いの場。お互いの力を発揮し合って、良い会社にしていきたい」

財界オンライン / 2024年6月21日 18時0分

和佐見勝・AZ-COM丸和ホールディングス社長

働き手をいかに確保するかが「2024年問題」の大きなテーマになっている。その中で小売業に特化した3PL(物流一括請負)で成長を続けるAZ―COM丸和ホールディングス社長の和佐見勝氏は「当社の教育の魅力を前面に押し出していく」と強調する。同時に、トラック1台で創業した和佐見氏は自らの経験から培った経営思想も社員に教え込む。「徳積み」と呼んでいる同社の生き方・働き方の根幹に据えるものとは何か?

和佐見勝・AZ―COM丸和ホールディングス社長(丸和運輸機関社長)「〝人財育成〟のポイントは響いて育つ、共に育つ、強く育つの3つです」

「陽徳」と「陰徳」

 ─ 物流の2024年問題が始まった中で、和佐見さんは教育や研修などを通じた人づくりでドライバー不足を乗り越えようとしています。和佐見さんの考える人づくりの要諦とは。

 和佐見 当社の人づくりのポイントは「徳積み」です。徳と言っても、人に知られる「陽徳」と人に知られることのない「陰徳」がありますが、人知れずの心で徳を積むことが大事です。それが結果としてお客様の信用・信頼につながるからです。

 ─ 若い世代には、どのように伝えているのですか。

 和佐見 徳をきちんと語る若い人は少ないと感じます。ただ、徳積みは日本独特な感性であり、人間の成長過程の中には徳という要素が必ずあります。当社には「桃太郎文化」というグループ共通の企業理念があります。組織が共有する価値観や信条、伝統、そして経営理念に至るまで、あらゆる企業活動の基盤になっています。私たちの全ての「考働」は、桃太郎文化から始まります。

 ─ 具体的に言うと?

 和佐見 桃太郎文化は相手の成長を助ける文化です。相手とはお客様です。そのお客様の成長を必死で助ける。つまり、桃太郎文化も徳積みなのです。ややもすると、今の若い世代の経営者はデジタルの世界で成功しているケースが多い。そうすると、企業が成長したとしても、それが人間的な成長に結びついているかと言えば、それはまた別の話になったりするのです。

 私の場合は、育ってきた家庭環境の影響もあって、徳積みとしての寄付行為は当たり前だと思って実践してきました。具体的には、私は私財から株式の一部(5億2000万円相当)と2020年に現金10億円、23年に会社設立50周年を記念して現金50億円を社員とパート従業員の皆さんに贈与しました。また、東京大学にも寄付をして千葉県柏市のキャンパスにラグビーの天然芝と人工芝のフィールドを寄付しました。そのほか、寺社への寄付などを含めれば、10回以上、寄付行為を行っています。

 ─ 社員や大学だけでなく、寺社にも寄付行為も行っているのですね。

 和佐見 他にもあります。私は毎年、断食や瞑想、経典の唱え、滝の下での祈りなどを行う修験道のために全国各地の神社仏閣に行きます。比叡山延暦寺などにも行くのですが、最近では長野県佐久市の閼伽流山にある明泉寺というお寺にも行きました。明泉寺は平安時代初頭、慈覚大師によって建立されたと言われています。

 その明泉寺にある観音堂が老朽化によって、大分荒れており、建物自体も大きく痛んでしまっていたのです。ご住職によれば、もう自分の手には負えないとおっしゃっていました。それを聞いた私は「そうであるならば、私の方でご支援申し上げましょう。これもご縁ですから」ということで建て直しの費用を私費でご負担申し上げました。


長野県佐久市のお寺にも寄付

 ─ 人と人のつながりということですね。ところで、和佐見さんと佐久市とのつながりのもとは何ですか。

 和佐見 私にとっては、これも徳積みだと思っています。佐久市とは仕事などでのご縁はありませんでしたが、私にとっては自らを高めるための修験で訪れた場所なのです。近隣での修験と言えば、戸隠や荒船山が有名なのですが、佐久も昔は栄えていたようで、そこまで人が多くなかったこともあり、たまたま選んだ場所だったわけです。

 明泉寺の観音堂には千手観音と不動明王を祀っていましたので、「それでは千手観音の石標を1000本建てましょう」と。これから3年ほどかけて建てていく予定です。一方の本堂はかなり建て直しが進んでおり、全体の約5割は済みました。この後に研修所を建設します。このまま放っておけば、誰も手をかけなかったでしょう。

 ─ そのお寺を訪ねて、そういうご縁ができたのですね。

 和佐見 そうです。偶然にも修験を実践させていただいているご縁ができたわけです。少子高齢化で近隣も寂れてしまっていました。こういったところから手をかけていけば街が生き返ることができるはずです。しかも、住職さんも本当に一生懸命に頑張ろうとされている。その姿を見て思いもお聞きし、お手伝いをしようと思いました。

 ─ お寺や仏像関係の支援は他でもやっているのですか。

 和佐見 地元の埼玉県吉川市では昔からいろいろとご支援申し上げています。和佐見家は真言宗なのですが、私の自宅前にあるお寺は浄土真宗。それでも、私の父・冬太郎はそのお寺の住職さんと昔から懇意にしていました。その住職さんが当時の吉川町長選挙に出馬するときも冬太郎が協力したと聞いています。

 ─ もともと和佐見家にはそういった思想・信条が根付いていたということですね。その意味では両親の存在は大きかったと言えそうですね。

 和佐見 そうですね。やはり私の思想に一番の影響を与えたのは両親の教えだったと思います。私は農家の生まれでしたが、いま申し上げたように、父はとにかく人の面倒を見る人でした。若い頃から他人の面倒見の良い人だったので、幼い頃の私から見ても「家のことをやらずに一体何をやっているのだろう?」と思っていました。

 それでよくよく聞いてみると、父は家のことはやらずに、人の世話ばかりやっている。ただ、私も成長し、年齢を重ねていくにつれて「ああ、父のやっていたことは、世のため、人のためということだったのだな」と感じるようになりました。

 さらに、私の母・すみ子は私が小さかった頃から病弱で、私が小学生のときには入院していました。もともと8人きょうだいで、私はそのうち4人いる男兄弟の末っ子になるのですが、とにかく病弱の母の力になりたいと思っていました。



考え方や思想の違う会社や人とどう接していくか?

 ─ 母親に対する思慕の念もあったと聞いていますが。

 和佐見 そうですね。それから、こういった家庭環境にあったため、私自身は進学していません。ですから、人からいろいろなことを教えていただかなければ成長することができませんでした。だからこそ、人様に対する感謝の念が強いのかもしれません。その思いから僅かでも寄付行為をしていくと。それがまさに徳積みにつながるのではないかと思っています。

 例えば、企業同士の連携でも、提携することによるシナジーとは、まさにお互いの力を発揮し合って、いま以上に良い会社にすることです。会社と言っても結局は人間同士であり、人間同士の出会いです。もちろん、中には「和佐見さんと我々とでは考え方が違います」という意見を持っている人もいるでしょう。

 私はそれで良いと思います。むしろ、そういう人とコミュニケーションをとることで、私にとっても私とは異なる考え方を学ぶことができます。その人と何が違うのか、それを聞き出すことができれば私も「なるほど」と思いますからね。さらに業種が違えば、当然、考え方も違ってきます。製造業と私たちのようなサービス業では、考え方に違いがあるのは当然です。

 ─ 考え方が違っていたとしても突き放すのではなく、学ぶところはあるとして対話を継続していくということですね。

 和佐見 そうです。対話することによって「この人もこういうことで、ご苦労なさっているんだな」と知ることができるわけですからね。相手の話を聞かない限り、それは分かりません。ですから、若い人たちにはもっと表へ出て、たくさんの人たちと対話し、違いを感じてもらいたいと思いますね。

 ただ、やはり正義は勝つと思うのです。何事にも正義を貫けば敗北はしない。もちろん、自分の正義を貫いたとしても、相手からは「違う」というケースも出てきます。それはそれで良いのです。それぞれに個性があるから当然です。しかし、私の場合の正義は「人に迷惑をかけない」こと。何事も正道を歩むことが大切だと思っています。

 ─ この経営哲学を事業にどう落とし込んでいますか。

 和佐見 当社には3つのドメイン(EC物流、低温食品物流、医薬・医療物流)がありますが、その次にくるBCP(事業継続計画)に関する物流は世のため、人のための物流であり、専門的知識や実践知が求められる事業になります。BCP物流は我々の主力事業である3PL(物流一括請負)よりも難しい。経験している人が少ないからです。

 当社が中心となって展開しているトラック運送事業者ネットワーク「AZ―COM丸和・支援ネットワーク」が23年6月に災害対策基本法に基づく指定公共機関に指定され、当時の内閣府特命担当大臣の谷公一大臣から指定通知書の交付を受けました。現在、25都道府県45市区町村と協定締結が完了しています。


阪神・淡路大震災が「BCP物流事業」のきっかけに

 ─ そもそも和佐見さんがBCP物流の必要性を感じたきっかけを聞かせてください。

 和佐見 1995年の阪神・淡路大震災です。このときに支援活動を行った経験が大きいですね。当時、私たちは大手清掃用品レンタル会社の物流改革を担当していまして、同年1月17日に震災が発生したときは、同社の阪神エリアの皆さんに救援物資などを運ばなければならなくなりました。

 支援物資と言っても多岐にわたります。ブルーシートをはじめ、食料品や水、下着・肌着、充電器、ガスコンロ、生理用品などを関東エリアでかき集め、それを関西エリアへと運んだのです。救援物資を生産する企業のトップにも直談判しました。

 当時の経験から震災が起こったときには、被災地ではどんな物資が必要になるのかを肌で感じたわけです。ですから、2011年の東日本大震災や今年元日の能登半島地震でも、震災が発生した翌日には救援物資を輸送する体制を整備することができました。BCPも誰かがやらなければならないことなのです。有事、不測の事態が起きても迅速に対応できるように、手はずを整えておくことが重要です。

 ─ AZ―COM丸和グループの経営の根幹には、こういった徳積みの思想があると。

 和佐見 はい。そのためには人づくりが欠かせません。私は人材ではなく「人財」とあえて言っているのですが、人財を育てれば、売り上げや利益につながるだけではなく、〝社格〟も上がると思うのです。ですから社員には日頃から「徳を積むことが大事だ。お客様に徳積みをしなさい」と言っています。世のため、人のためということですね。これはM&Aをした会社にも浸透しており、今では「桃太郎文化」の実践に努めて成果を出してくれています。現在建設中の埼玉県松伏町にできる〝食の流通プラットフォーム構築〟、そして大型の低温食品物流センターの建設は人財育成の機能も持っており、研修の場としても活用します。

 こういった場でも当社がこれまで半世紀に及んで学び、作り上げてきた桃太郎文化を次の世代に受け継いでいって欲しいと思っています。(了)

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