【倉本 聰:富良野風話】森林環境税
財界オンライン / 2024年6月27日 11時30分
本年6月から、国は全ての国民から1人一律1000円の森林環境税を徴収することとなった。大変結構なことである。大変結構なことではあるが、総務省の出したこの創設の経緯を読むと、オヤ、と思うような大切なことが抜けている。
【倉本 聰:富良野風話】インフレ
「森林には、国土の保全、水源の維持、地球温暖化の防止、生物多様性の保全など様々な機能があり、」という一文、最も肝腎な「酸素の供給」という一項が書かれていない。
我々は生まれ落ちた時から、1分間に17~18回、酸素を呼吸して生きている。だがこのことは誰に教わったでもなく余りにも当たり前にやっていることだから、当たり前すぎて忘れてしまっている。
地球上の酸素濃度は現在のところ21%。これを生産しているのは、海中林を含む森である。森の葉っぱが、動物の出すCO2を、光合成によって酸素に変えてくれ、それを吸うことで我々は生きているのである。
ところが人類は森を見るとき、古今東西、木材になる幹にばかり目を向け、最も重要な木の葉を見ることを忘れていた、ばかりかむしろ邪魔物として扱ってきた。
僕はいま富良野で、閉鎖されたゴルフ場の半分34ヘクタールを預かって森に還す事業とその森を使って学生たちに環境教育を実践する講座を行っているが、その目的は木材を採ることではなく葉っぱの重要性を啓蒙することである。既に18年、7万7000本の木を植えた。
この事業には人手が要る。森から種を採り、苗に育て、土に穴を掘り、肥料と水を加え、苗が着根して3~4メートルに育ったら、良いものを残して間伐せねばならぬ。5人のスタッフでやっているが、行政が出してくれる補助金は全てで年間150万円である。これではとても間に合わないからSMBCグループに助けてもらっている。だが、それもいつまで続くか心細い。
僕がいま祈るように願っているのは、今回スタートした森林環境税の行方である。
行政は徴収には熱を入れるが、その配分には熱を注がないように見える。現にいま聞こえてくるその使途には木材を使ったオモチャの開発とか建築材料の不足の解消とか、凡そ森林の真の意味からかけはなれたものが多すぎる。
森林の真の意味をもういちど真剣に考えてみて欲しい。
文明の前に森林があり、文明の後には砂漠が残る、という、西欧に残るこの言葉の原点には、只、木の幹という可視的なもののみを言っているのではなく、その奥に拡がる酸素・水というもっと奥深い哲学的意味がこめられていたにちがいない。
総務省の〝創設の経緯〟なる文にこの重大な2つが抜け落ちているのが、単にうっかり入れ忘れたのなら良いが、もしそうでないなら折角徴収した環境税が変なところに配られてしまう。
汗水たらしている僕ら現場の人間にとって、それは耐えられないことなのである。
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