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石川耕治・損害保険ジャパン社長「『お客さまの立場で考える』という原点に立ち返り、第2創業の覚悟で臨んでいく」

財界オンライン / 2024年7月4日 11時30分

石川耕治・損害保険ジャパン社長

「私が知っている損保ジャパンより、現場と経営の距離が遠くなっていた」─こう話すのは損保ジャパン社長の石川氏。ビッグモーター(現WECARS)問題、価格調整問題など、売上高やシェアを過度に重視する企業風土が要因となった。「お客さまが不在だった面があり猛省したい」と話す。この風土をどう改革するか。現場を回る中で「社員の思いを1つにしたら信頼を取り戻せる」とする石川氏の経営改革の姿とは。

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カルチャーを変えて会社を再生

 ─ 直近はビッグモーター問題、企業向け保険における価格調整問題で損保ジャパン、業界ともに揺れてきました。厳しい環境下での就任ですが、どのように改革を進めていきますか。

 石川 昨年の9月8日、それまで持ち株会社にいた私ですが、指名委員会からの指名で損保ジャパンの副社長として着任しました。当時の状況はビッグモーター問題の報道などもあり、社員のストレス、モチベーションに大きな問題が出つつありました。私のミッションはその時点で損保ジャパンの信頼回復でしたから、着任の段階である程度覚悟はできていました。

 私自身、元々は現場の経験が長いのですが、着任して2週間ほどで気づいたのは現場と経営が、私が知っている損保ジャパンよりも遠くなっているということでした。現場と経営の距離を近づけないと信頼回復はできないのではないかと感じました。

 前社長の白川(儀一氏)が、すでに辞意を表明していましたから、しっかりこの会社を立て直していかなければいけないと自ずと覚悟もできましたし、タウンホールミーティングで全国を回った経験から、この社員の思いを1つにしたら、間違いなく信頼を取り戻すことができるという思いで就任しました。

 ─ ビッグモーター問題では売上高やシェア重視、グループ内での意思疎通の問題など、様々な課題が浮き彫りになりました。どう総括しますか。

 石川 一言で言えばトップライン、マーケットシェアを最優先にした企業風土が原因だと言えます。逆に言うと、そこにはお客さまが不在だった面があり、猛省しなければいけないと思っています。

 トップラインを達成、他社との対比でシェアがアップしていれば白丸、駄目だったら黒丸といった評価で、営業としては黒にならないためにはどうすればいいかということしか考えていませんでした。

 その時に、営業にとっては大きな兼業代理店さんはありがたい存在となります。大きな保険を動かすことができますし、他社と乗り合いですからマーケットシェアという意味でも大きい。そこに対して過剰な本業支援をしたり、品質が至っていないのに工場を紹介する誘引になる。当社はビッグモーターに事故車を1台入庫する見返りに、自賠責保険の契約を得るという取引までしていた。

 ─ まさに営業優先で、そこに顧客は不在だったと。

 石川 ええ。逆に言うと、そのカルチャーをしっかり変えれば損保ジャパンは再生できると思っているんです。そのカルチャーは、「すべてをお客さまの立場で考える保険会社」になろうというシンプルなものです。そういう会社になるためにどうしていくのかが、我々の課題だと思っています。


経営側が現場に情報を取りに行く

 ─ 経営の原点に立ち返るということですね。記者会見で白川さんが「リスク感度が低かった」という反省を述べていたのが印象的です。何か事が起きた時に、それが危機だと感じて動けるかが大事ではないかと。

 石川 おっしゃる通りで「予測する力」が大事だと思います。当社では事象、案件に直面した時に予測する力がなくなっていましたし、予測できなければ対応できず、持ち株会社との連携もできなかった。「大したことはないだろう」と報告もしていなかった。

 冒頭に申し上げた通り、現場が非常に遠い。現場から遠くなった事業会社経営は、現場がわかりませんから予測することができません。ですから経営は現場に情報を取りに行かなくてはなりません。

 ─ 現場と経営が離れてしまった要因をどう考えますか。

 石川 コミュニケーションだと思います。現場を知っていればコミュニケーションは成り立ちますが、知らなければ共有する感度も落ちます。それによってコミュニケーションが劣化していったというのが本質ではないかと。

 今は、タウンホールミーティングや、「どろたまBOX」という仕組みで現場からの情報を得ています。「どろたまBOX」は「泥の付いたタマネギ」の意味で、社員からのネガティブ情報や、アイデアなどの情報を集める仕組みです。これを元に持ち株会社ともダイレクトにコミュニケーションを取ることができる体制にしています。

 ─ 「上にものを言えぬ風土」も課題だと指摘されました。

 石川 もの言えぬというか、言ってきたけど無駄だと諦めてしまったというのが本音だと思います。当社は元々、対話量が多い社風です。ただ、対話量は多くとも仕事の本質的な部分での会話は違ったのかもしれない。

 きっと現場は言い続けていたのだと思いますが、それを経営が引き取って対応するという点が曖昧になっていた。そうすると現場は自分たちで何とかしようとなり、現場と経営が乖離していった面はあると思います。

 極端な例で言えば、ビッグモーターを担当していたアジャスター(専門調査員)は専門性の高い方々ですから「おかしい」ということには気づいているんです。ただ、不芳情報をきちんと上げて会社を変えようというところまで至らなかった。風通しが悪く、現場の実態を共有できなかったのが、今回の大きな真因です。


売上高、シェア重視から品質重視に変える

 ─ 業界では大手損保4社による価格調整問題がありました。要因としては、国内の損害保険事業が災害の激甚化などで保険料の支払いが増えるなど収益が悪化していることもあるのではないかと思いますが。

 石川 価格調整問題の裏側にはトップライン、マーケットシェアという当社の企業体質と有機的に連動してしまうのですが、現場としてその契約、お客さまを失いたくないという動機があったのだと思います。

 ─ この件でも企業風土見直しが必要だということですね。

 石川 損保ジャパンという会社を、もう一度新しくつくり直す覚悟がなければいけないと思います。第2創業の覚悟で、しがらみも含めて変えていかないといけないと思っています。

 ビッグモーター問題、価格調整問題の要因はいずれも、損保ジャパンの営業優先のカルチャーが1つ、もう1つは業界の商慣習があります。

 他社とは健全な競争環境、ルールの中でやっていくことが大事ですから、そこは日本損害保険協会さんがしっかり中心になってやって下さっていると思いますし、私達としても粛々と対応していきます。

 特に私達は今回、最も反省すべき会社ですから、むしろ業界を牽引していくくらいの覚悟でやっていきたいですね。

 実は、ビッグモーター問題の再発防止計画を提出した3月15日の午後に部店長会議を開催しました。そこで伝えたのは、正しく実行するのであれば、短期的に数字が落ちることは問題ないということです。これは社内に大きなインパクトを与えたようで、翌日に「あれは本気で言っていますか」ということを聞いてくる役員、部長が複数いたくらいです。

 ─ 社内の人事評価制度も、その考えに沿って変えていく?

 石川 はい。これまではトップライン、マーケットシェアでプラス評価にしていましたが、そこではなく、品質などの要素が強くなりますし、短期的な視点ではいけないと思っています。

 どういうビジネスチャンスや仕組みをつくったか、ネタを仕込んできたかをしっかり見ていこうと思っています。また、社員だけでなく、お客さまと接点を持つ代理店さんの評価も品質に対する要素を多くしようと思っています。

 代理店もボリュームと契約の増率で評価していました。お客さまに支持された結果、数字が増えているのだという解釈をしてしまっていたのです。では実際ビッグモーターがどうだったかというと、すごい増率だったけれどもお客さまのための品質になっていなかった。そうしたことが発生しないような評価制度は、社員にも代理店さんにも徹底していきます。


現場との直接対話を経営に反映させる

 ─ この間、SOMPOグループ全体で社員が苦しんだ面がありました。再生にあたっては、彼らのモチベーションをどう上げていきますか。

 石川 社長に就任して、まず思ったのは社員に申し訳ないということでした。

 その時にもう1つ思ったのは、ご指摘のようにモチベーションが落ちていく面と、「私達はしっかりやっているのに」という「他責思考」を強く感じたんです。

 実際に多くの人はお客さま最優先でしっかりやっているんです。けれども一部に問題があり、経営が判断ミスをしたのではないかという思いが強く、社内に一体感がないというのも深刻な問題でした。そうではなく、自分事として捉えていく方向に変えていくのは苦労をしました。

 大きかったのはタウンホールミーティングです。しかも、大きな会場で開催するのではなく、15人くらいでインタラクティブにできる場所に、私1人とかで行って、意見交換をしました。

 もう1つ、自分に課しているのは、社内のネットワーク放送に2週間に1回出ることです。再発防止計画を提出した時や、社内ルールを変更した際には当然出るのですが、そうした話題がなくとも必ず出て、会社の現状、目指す方向性について発信をしています。歴代社長の中で最も放送に出ている状況です。

 ─ 手応えは感じますか。

 石川 アンケートも最初は無記名でやっていて、1回の放送で最大3000通ほど来ていました。内容を見て、どの層のモチベーションが落ちているかなど状況を分析し、ネットワーク放送の内容にも生かしています。徐々に徐々にですが、社員のモチベーションが高まってきました。

 また、今はアンケートを記名式に変えました。それによってさらにインタラクティブな交流ができ、内容を経営に反映できるようになってきました。昨年度末までの12回の放送で、延べ1万1000件以上の意見が寄せられました。一方通行で本社が決めたものを打ち出すだけでなく、時間差なく意見を把握できるようになったのはよかったと思います。それが私が求めていた現場に近い本社だと思うんです。

 ─ 反省の上で、今後損保ジャパンはどういう会社として成長していこうと考えますか。

 石川 SOMPOグループは新たな中期経営計画をスタートしていますが、当社はグループで最大の事業会社です。そこが信頼を失っているということは、グループ全体の信頼に影響が出ているということです。まずは損保ジャパンが信頼を回復することが大前提です。

 そして最大のお客さま、データを保有している事業会社ですから、当社を起点として生命保険事業、介護事業などグループ全体の安心・安全・健康のプラットフォームになることが重要です。我々がしっかりしないと、グループ全体で目指している「ウェルビーイング」に行き着きません。それが最も大事な土台になります。

 今、全社員に言っているのは先程申し上げた「すべてをお客さまの立場で考える」ということです。このことがお客さまや代理店さんに伝われば、介護などのウェルビーイングは損保ジャパンに任せようと思っていただけるのではないかと。その信頼、ブランドを取り戻すことが我々にとって重要なことです。

 ─ これまでの仕事の中で、厳しかった経験を振り返ると何がありますか。

 石川 東日本大震災の時に、現地の対策本部に入って、お客さまへのお支払いのための実地調査に行っていました。すごい状況でしたが、お客さまの被害状況確認に行くと、皆さんが「自分のところはいいから、あそこが大変だから行って下さい」などと言って下さる。

 また、「よく来てくれた」、「頑張って下さい」などと言っていただけて、社会的任務を担う損害保険会社の役割を強く実感した貴重な経験でした。

 逆にその分、今回は社会性を欠いた保険会社と評価されたことには忸怩たる思いがありますし、社員も同じだと思います。改めて、社会にいて欲しい、いないと困るという保険会社になりたいと思っています。

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