「ジムに付加価値をつける」─。 RIZAP社長・瀬戸健のコンビニジム化戦略
財界オンライン / 2024年9月11日 15時30分
きっかけはコロナ禍であった。「なかなか収入が上がらない中、心と身体の健康を必要とする人たちのために安価な価格で通えるチョコザップをつくりました」と語るのはRIZAPグループ社長の瀬戸氏。身体を動かす運動だけではなく、心の健康も目指し、あらゆるサービスをジムの中に詰め込んだ「チョコザップ」。物価が高騰する中で爆発的に会員数が伸びた理由は─。
どん底のコロナ禍に誕生「チョコザップ」事業
「コロナ禍ではわれわれがやっているような不要不急で必須品ではない対面型のサービスというのは、本当に打撃が大きかった。そういった中で非対面型のチョコザップが生まれた」
こう語るのはRIZAPグループ社長の瀬戸健氏。パーソナルダイエットジムのライザップ事業を展開する同社は、コロナ禍で閉める予定であった店舗を改装し新形態のジム「chocoZAP(チョコザップ)」を2022年7月に開始した。
月額2980円(税込3278円)で手頃な価格帯であることも顧客の支持を得て、事業開始1年5カ月で会員数日本一となった。5月15日時点で会員数は120万人、47都道府県に店舗数1500店を構える。
爆発的に会員数が伸び続けている理由は、緻密な広告戦略と継続的なサービス拡充だ。
ブランド開始1年後から、セルフホワイトニング、セルフネイル、マッサージチェアなど美容関連サービスを導入。さらにその半年後には、カラオケ、ランドリー、ピラティス、キッズパーク、MRI・CT検査など、もはやフィットネスジムの枠を超えた多様なサービスをジム内に導入し、これまでのジムの概念を壊している。美容以外での心の健康にも寄与するサービスでより広義の健康ニーズを満たすジムの展開である。「通わないと損という状態をつくった」と瀬戸氏。サービスを拡充しても、会員費は当初と変わらず2980円(税抜)のままだ。そのため設備投資がかさみ、24年3月期の第2四半期までは赤字続きであったが、第3四半期から5年ぶりの黒字に転じ、今期売上収益は1777億円、営業利益63億円を見込む。
コロナ禍の間に事業転換をし無人ジムを開始した事業が、現在のグループ全体の利益を牽引するまでの存在となった。どんな時でも「人は変われる」という哲学を持つ瀬戸氏の発想で、逆境を味方に「事業形態を変えた」ことが今のRIZAPグループを蘇らせた。
欲しい〝結果〟は十人十色
「われわれも少し反省したのですが、ライザップは高額で非常に高い目標を持っているお客様が多い。しかし、そうでない目標を持つ方もいて、いつまでも健康的でいたい、健康を維持したいという緩めの目標を持っているお客様も多い。お客様にとっての欲しい結果はそれぞれ違う」と瀬戸氏。
チョコザップ躍進の理由の一つに、これまでのライザップの顧客層とは違う層の取り込みを集中的に行った点にある。
「フィットネスジムですが、必ずしも運動をしなくても良いジムです」と同氏。運動以外のサービスを充実させ、人それぞれの目的を持ちジムを活用してくれれば良いという発想だ。
日本人は真面目なため、ジムでは運動しなければいけないという思い込みを持ちやすいが、精神的にも肉体的にも負荷のかかる目的だけでは継続ができない。会員ビジネスは入会を増やし退会を防ぐということが、安定的な収益を生む基本構造となる。そのためチョコザップは既存の常識を破り、ジムにまつわるあらゆる煩雑さを徹底的に排除している。
例えば、入会手続きは全てスマートフォンで完結し書類や印鑑などは不要とし、クレジットカードがあれば即入会が可能である。また、ジムに通う際大きな精神的負担である「着替えが面倒」といった点もクリアし、着替えなしで来たままの恰好で運動することが可能だ。これによりスーツで隙間時間に軽く利用するサラリーマンや、買い物の帰りにロングスカートのまま運動する女性など、今までのフィットネスジムでは見られなかった情景が広がりつつある。
チョコザップはもはや運動のための場だけではなくなっており、地域社会の場としてインフラ化しつつある。
特に、子育て中の会員は子どもの利用料金がかからず一緒に連れていくことができるため、ジム内のキッズパークで遊ばせながら子どもを見守りつつエアロバイクで運動をする。あるいは、雨の日にはコインランドリー利用でチョコザップに行き、ママ友たちとちょっとした井戸端会議をする場としても重宝されている。チョコザップという場所が外に出る理由になって、そこで社会的な繋がりがあることで精神的に健康にもなり、それが身体的健康にもつながる。心も身体も健康にする複合的なサービスを提供したいという瀬戸氏の強い思いがある。
一方現状では入会手続き等はDX化により煩雑さがない一方で、より丁寧な接客が必要な高齢者層の取り込みには課題がある。そこに対し、今年6月に100名のスタッフの配置を行い、無人ジムから有人ジムへ変化しサポートの質を高める。
「変化と行動」のPDCAの速さが特徴の同社。コロナ禍を見事逆手にとった瀬戸氏の発想転換で、チョコザップのサービスは進化を続けている。
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