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【政界】「総裁選から衆院選へ」思惑が交錯 政権党として真価を問われる自民党

財界オンライン / 2024年9月19日 7時0分

イラスト:山田紳

首相・岸田文雄の退陣表明を受け、自民党の「ポスト岸田」候補たちは9月12日の総裁選告示をめがけて激しい綱引きを繰り広げた。長い前哨戦の間、脚光を浴びた総裁候補が息切れし、週替わりで主役が入れ替わるめまぐるしさだ。「派閥なき総裁選」とはいえ各派閥の残滓は色濃く残り、党内の世代間抗争もくすぶる。国政選挙で勝つための「すげ替え」に終わらせず、国家国民のための政策を本気で遂行する、本来の政権党へ立ち戻れるのか。自民党の正念場がいよいよ始まった。


衆院選の最速は11月

「衆院選は最速で10月に解散、11月投開票」。総裁選の日程が固まるとともに、永田町はそんな観測に傾いた。自民党の総裁選挙管理委員会が、総裁選の投開票日を9月27日と決めたことが発端だ。

 新たに選出される総裁が早く衆院解散を打ちたくても、その前にやらなければならないことは多い。党役員人事、臨時国会での首班指名と閣僚人事、そして組閣。さらには新首相としての所信表明演説、与野党による代表質問。新政権スタートにあたって何を重視し、何を目指すのかを国民に示すために、政権の陣容整備と一定の国会論戦は欠かせない。

 つまり人事と国会の手続きに少なくとも半月かかるわけだ。新総裁選出が9月末なら、衆院を解散できる状況が整うのは早くて10月中旬、投開票は11月初旬以降になる。

 問題は、このシナリオのはざまの時期に別の国政選挙が予定されていることだ。10月27日に投開票される参院岩手補選である。秘書給与詐取疑惑などのスキャンダルで自民党を離党し、参院議員を辞職した広瀬めぐみの議席が争われる。

 広瀬は2022年参院選で、立憲民主党の重鎮・小沢一郎の地元岩手から立候補し、30年ぶりに自民が参院選挙区の議席を奪還する立役者となった。「小沢王国」の凋落を決定づけたはずの広瀬が不祥事で退場したため、今回の岩手補選は小沢の巻き返しが必至。自民党県連は早々と独自候補の擁立を断念した。

 新総裁が早期の衆院解散を決断した場合、初戦の岩手で「不戦敗」した印象をひきずって、本番の衆院選を迎える展開が予想される。「総裁選を9月20日に前倒しして、衆院選と参院岩手を同日選にしていれば、悪い印象を薄められたのに」と党関係者は疑問視した。

 なぜ総裁選の日程はこうなったのか。第一に、「政治とカネ」の逆風が続く自民党が、新たなリーダー選びに時間をかけ、党の立て直しに向けた総裁候補の論戦をアピールするためだ。今回の総裁選期間は、現行の公選規定ができた1995年以降で最長の15日間となる。

 さらに、総裁を退任する岸田に「花道」を飾らせるためだという見方もある。日本の首相は9月下旬にニューヨークで国連総会に出席するのが恒例だ。もしも出席前の9月20日に新総裁が選出されてしまうと、岸田の死に体ぶりがあからさまになってしまう。岸田が首相として最後の外遊を終えてから、新総裁を選ぶ。これは3年間の政権運営に苦心した岸田に対する「武士の情け」とも言える。実際、「岸田さんが国連総会に行きたがったから、総裁選はあの日程になった」と証言する議員もいる。


派閥と世代交代

 日程を巡る制約はともかく、新総裁が自民党の求心力と支持率を回復し、政権転落の不安をはねのけられるかどうかが党内最大の関心事だ。前経済安全保障担当相・小林鷹之を皮切りに、元幹事長の石破茂、元環境相の小泉進次郎ら、呼び声の高かった顔ぶれが相次いで総裁レースに名乗りを上げた。

 出馬に意欲を示した議員まで含めれば計11人。立候補者が過去最も多かった2008年と12年の5人を超える可能性が高まり、ある陣営関係者は「乱戦だ。6人か7人は出るのではないか」と予想した。

 派閥の政治資金パーティー収入を巡る裏金事件の混迷が続く中、今回の総裁選のキーワードはやはり「派閥」と、もう一つは「世代交代」である。

 解散を決めた派閥も含めて11人の内訳をみると、事件の渦中にある安倍派はさすがにゼロ。以下、麻生派1人(河野太郎)▽岸田派2人(林芳正、上川陽子)▽茂木派2人(茂木敏充、加藤勝信)▽二階派1人(小林)。国民から派閥に厳しい視線が注がれている状況を反映して、無派閥の議員が最も多く5人となった(石破、小泉、高市早苗、野田聖子、斉藤健)。

 世代はおおよそ3グループに分かれている。岸田と同年代にあたる60代後半から70代は4人(上川、茂木、加藤、石破)。やや若い60代前半が5人(斉藤、野田、高市、林、河野)。大きく離れた40代が2人(小林、小泉)だ。

 総裁選に出る最初のハードルは、推薦人の国会議員20人を確保できるか否かだ。推薦人を比較的そろえやすい立場にいたのは、もともと岸田派で「岸田の次の総裁候補」とみなされていた林と、自派の領袖だった茂木の2人である。ただし、石破や小泉も、知名度の高さから選挙の顔として期待の声があり、「推薦人は集まるだろう」(党関係者)という見方が大勢だった。

 残りの7人のうち最初にめどをつけたのは小林だった。元幹事長の甘利明が背後にいるとうわさされる一方、閣僚時代に「仕事ができる」と高い評価を受けている。立候補会見には中堅・若手議員が24人同席し、小林は「旧派閥に支援は一切求めない」と強調した。派閥領袖主導の党運営から一気に世代交代を図る狙いだった。だが、同席者の多くが安倍派で、裏金事件で処分された議員の処遇を小林が示唆したため、「どこが脱派閥なのか」と皮肉る声も出た。



2人の重鎮

 乱立模様の中で推薦人の奪い合いを始めた各陣営は、派閥の縛りが緩んだとはいえ、なお一定の議員を動かせる重鎮たちの顔色をうかがわざるを得なかった。その重鎮の代表格が、副総裁・麻生太郎と前首相・菅義偉である。

 麻生は岸田内閣の低支持率に手を焼く一方、岸田と「ポスト岸田」の数人をてんびんにかけ、キングメーカーとして主導権を握ろうとしていた節がある。今年1月には外相の上川を「新しいスターだ」と持ち上げた。ところが岸田が8月14日に突然退陣を表明したため、麻生は重要なカードのうちの1枚を失うことになった。

 さらに、麻生派のデジタル相・河野がしきりに総裁選出馬へ意欲を示した。麻生は、前回の総裁選以降に「仲間作り」を怠ってきた河野への評価をやや下げていたが、自派の候補としてそれなりに助力せざるを得なくなった。

 それでも上川のほか、岸田が推すであろう林、岸田政権における「三派連合」の一角だった茂木らにも目配りし、総裁選の帰趨を見定める構えだ。逆に、麻生が決して乗れないとされるのは石破で、麻生内閣時代に農相だった石破から退陣を求められた件を根に持っている、と指摘されている。

 一方、岸田に追い落とされて3年間無役に甘んじた菅は、その岸田の凋落により、再び存在がクローズアップされた。同じ無派閥の議員たちに大きな影響力を持つが、岸田の退陣表明以降も表向き沈黙を保っていた。

 同じ神奈川県連に所属する小泉と河野、世論調査で常に人気者の石破、自身の内閣で官房長官に起用した加藤らの名前が「本命」としてうわさされ、「菅さんは誰をやるのか」と党内が息を呑んで見守った。最終的に菅が小泉を選んだという情報が流れるとともに、小泉は出馬を表明した。

 最も下馬評が高かった石破は地元鳥取で総裁選への出馬を明言した。過去4回挑戦した総裁選は国会議員票が伸び悩んで苦杯をなめている。野党の主張に近い政権批判の物言いや、党内での仲間作りの稚拙さが敗因とされた。「これが最後の戦い」と言い切った石破は、総裁になった場合、裏金議員を党として公認しないと受け取れる発言もあり、支援議員の中から困惑する声が漏れた。

「政治とカネ」に対する姿勢が総裁選の焦点になるのは間違いない。しかし、「もう処分は済んでいる」という党内の声と、厳しい対応を求める国民感情とのバランスに、総裁候補たちは苦慮するかもしれない。


党員票の行方

「麻生対菅」という底流があっても、派閥色の強い有力幹部たちは批判を恐れて総裁選の前面に出ようとしない。迫る衆院選で生き残りがかかる中堅・若手たちは、勝ち馬の手がかりを求めてあちらの陣営、こちらの陣営と右往左往した。

 候補者が多くなれば推薦人になる国会議員が増え、党所属367人の議員票も分散せざるを得ない。このため「同じ367票がドント配分される党員・党友からの支持が決め手になる」(中堅議員)。8月下旬の各種世論調査で「次の総裁にふさわしい人」として、出馬が取り沙汰されて露出を増やしていた小泉が急浮上し、それまでトップだった石破と支持が拮抗して話題になった。

 候補乱立で票が割れるため、1回目の投票で誰も過半数を獲得できず、1位、2位による決選投票へもつれ込む流れが有力とみられている。その際、特にポイントになるのが3位の陣営の動向だ。「2、3位連合」が決選で1位を逆転したケースは過去にもある。形勢不利とみて途中から自力の勝ちを諦め、次期政権で存在感を保つための「連携」にかじを切る陣営も出てくるだろう。

 世論調査で注意すべき点として、野党支持者・無党派層を含めた全体の傾向と、自民党支持層における傾向にはズレが生じる可能性が高い。同じ自民党支持層でも、党費を支払って入党している熱心な党員の意見はさらに「政治の玄人」的になり得るだろう。ある陣営幹部は「党員の大半は業界団体だ。ただの人気投票だと思っていたら読み違える」と話す。「政策面など総裁としての資質」と「選挙の顔としての国民的人気」のはざまで揺れ動きながら、9月27日の投開票まで党内情勢は刻々と変化するはずだ。

 新総裁が岸田政権から何を継承し、何を変えていくのかも問われるだろう。過去のうみが一気に噴き出した政治資金問題を除けば、経済・外交・安全保障などの政策分野で「岸田政権の実績」を評価する向きは、党内だけでなく霞が関や経済界にも根強い。

 また、政権奪取を狙う野党第1党・立憲民主党の代表選が、9月23日に投開票される。次期衆院選と来夏の参院選に向けて、国民目線の論戦を交せるリーダーを与野党双方が選ばなければならない。11月には米大統領選が控えており、激動する国際社会と渡り合う能力も日本のトップに必須の条件だ。自民党はポピュリズムに堕すことなく、真の意味で変わらなければならないのだ。(敬称略)

【政界】9月の総裁選は群雄割拠の乱戦模様 問われる自民党議員1人ひとりの覚悟

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