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日本総合研究所会長・寺島実郎「今、日本が問われているのは構想力」

財界オンライン / 2024年9月26日 7時0分

寺島実郎・日本総合研究所会長

日本が進むべきについての定見を!

 ─ 今後の安全保障を考える上で、日本はどういうスタンスで臨むべきなのか。

 寺島 日本人として真剣に考えなければならないことは、今年7月に日米安全保障協議委員会(日米「2+2」)が開かれました。その中で、拡大抑止論というのが登場してきました。拡大抑止というのは核のことです。

大和総研副理事長・熊谷亮丸の視点「岸田政権の成果と積み残された課題」
 
 これまでの日本は、米国の核の傘で守られているという了解の下に、日本は核の傘の下にいるから「核兵器禁止条約」には入れないという力学の中で生きてきました。ところが、この10年ほど前から、米国では拡大抑止という概念を持ち出してきました。それは何かというと、核の共同管理なのです。

 ─ それは具体的にはどういうことですか。

 寺島 例えば、日米韓の3カ国で、中国や北朝鮮の核に対して、しっかりとした抑止力を持つためには拡大抑止だということで、核の共同管理というシステムの中に責任を共有する形で入ってくれという考え方です。

 わたしは、拡大抑止論は実質的な核武装だと思っています。それは日本が単独で核武装していないだけの話であり、米国の傘の下に責任がある形で共同参画するというのは実体的には核武装だと言えます。

 しかも、もしも北朝鮮がソウルを核攻撃してきた時に、返す刀でもって平壌に米国が核で反撃するというストーリーになったら、日本はそれを止めることができるのでしょうか。

 ─ それは現実的にできませんよね。

 寺島 つまり、米国の核戦略を動かし得る力もないにもかかわらず、責任とコストだけは共有してしまうというところに、自らを追い込もうとしています。

 これは唯一の被爆国である日本人だからこそ、真剣に考えなければならないことです。戦後を生きてきた日本人として、攻撃の先・後にかかわらず、どんな国であったとしても、まともな日本人であれば、核は絶対に使ってはならないという非核平和主義の立場に立たなければならない、と冷静に考えるべきなのです。

 これはミサイルの議論や、敵基地攻撃能力の議論とも次元が異なります。核だけは大量無差別殺戮兵器ですから、そこの本質を理解しているのかということです。



 ─ 本当ですね。どんなことがあっても戦争はいけないし、もちろん、市民を犠牲にしてはならない。

 寺島 だからこそ、拡大抑止論という時に、もう一度、自問自答すべきです。例えば、核戦争の脅威に対して、日本も責任を共有して共同管理をするとは言いますが、本当に米国のオペレーションに対して意見が言ええるのか、制御できるのかと。同盟国として、それは止めるべきだと言えるだけの、リーダーが日本にいるのでしょうか。

 それをどこまで真剣に考えた上での判断だったのだろうかということです。

 ─ これは岸田首相も説明していませんね。

 寺島 はい。ここがある面で、日本の生真面目な愚かさだとも言えます。米国が守ってくれるから、日本も一緒になってやるというのは、正しいロジックだと思っているのかもしれません。

 しかし、日本はどれだけ覚悟を決めて責任を共有することになったのか。意図しない状況であるにせよ、実質的核武装に踏み込んでいくのだったら、日本は核兵器禁止条約に入るのか、入らないのか。NPT(核拡散防止条約)に入るのか、入らないのかという問題も含めて、日本ははっきりとした答えを持っていなければなりません。

 ─ これは国民の側にも問われていることですね。

 寺島 もちろんです。あなたはどう考えるかなどと、質問をするだけでなく、自分はこう思うという、定見を持たなければなりません。

 真剣にステップを踏んで、核について、徹底的に国民で議論し、覚悟をした上での判断であるのならともかく、拡大抑止論という曖昧な枠組みの中で、実質的核武装に踏み込んでいるのです。今の日本はそれだけ危うい状況にあるということを自覚する必要があります。

 大事なことは、いつまでも米中対立の時代が来るということで物事を組み立てたり、日米で連携して中国と向き合おうというような発想に留まったりしていてはいけません。日本が進むべき構想力を持つことが大事なのです。


大和総研副理事長・熊谷亮丸の視点「岸田政権の成果と積み残された課題」

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