「日本アニメをもっと世界に」東宝が強化するIPビジネス戦略
財界オンライン / 2024年10月22日 18時0分
「アニメという1つのコンテンツを通して世界中のファンともっとつながりたい」─。こう語るのは東宝常務執行役員大田圭二氏。映画業界はいまアニメが熱い。東宝の2024年・上半期の興行収入ランキングでは上位4位までをアニメ作品が占め、うちトップ2は興収100億円を超えた。他業界とのアニメコラボ企画など経済波及効果も大きいだけに、アニメ事業を成長ドライバーとして位置付ける。同社の今後の戦略とは。
日本アニメが全世界で熱狂
「良いアニメをつくり、できる限り広く届ける。これを世界中でやりたい」─。こう語るのは東宝常務執行役員、大田圭二氏。同氏は2012年に立ち上げた映像事業部アニメ事業室部長として、今日までの東宝のアニメ事業を引っ張ってきた人物。
「アニメに関してはわれわれの歴史はまだ短い。アニメの映画化は他社より若干数は多いが、TVシリーズ含めた全体の作品数は10年間で100作品を超える程度。他のアニメメーカーと比べたらまだまだこれは少ない方」と語る。
東宝の手掛けるアニメの2024年上半期作品では、『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』は興行収入155.3億円、『劇場版ハイキュー!!ゴミ捨て場の決戦』(興収115.5億円)、『劇場版SPY×FAMILY CODE:White』(同63.2億円)などがあり、2020年公開の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は興行収入が国内史上初400億円を超えた。宮崎駿監督のジブリアニメ『君たちはどう生きるか』(興収94億円)は「第96回アカデミー賞」で長編アニメーション賞を受賞し、世界的にも注目が続く日本アニメ。
もはやアニメ映画はヒットすれば一本で数百億稼ぐ商品であり、そのことによる人々への社会的・心理的影響力も大きい。実写映画で100億円を超えるヒット作品を生み出すことはなかなか難しいが、アニメは鑑賞対象範囲を拡張し国境の壁をも越えていく。業界2位の東映でも同様にアニメが稼ぎ頭となっており、映画興行を支える大事なコンテンツだ。
少し前までは、国内外においてアニメは一部の〝オタク〟ファンによって支えられていた雰囲気も大きかったが、今や国内外において日本のアニメは一般的に広く浸透した。
「アニメは〝オタク〟ではなく〝クール〟。サブカルチャーからメインカルチャーになってきている」と大田氏も指摘する。これは、動画配信プラットフォームが世界中に普及したことで、日本のアニメが全世界で観られるようになったことが大きい。世界中で広範囲に渡りアニメの魅力が認知され、ファンが急激に増えたのである。
また、新海誠監督のアニメ映画『君の名は。』『天気の子』などを筆頭に、テーマが〝大人化〟したものや〝ジェンダーフリー〟の老若男女で楽しめるコンテンツが増加。質が磨かれ続けていることも日本のアニメ人気を押し上げる。
インバウンド(訪日観光客)ではアニメに実際出てきた地を周る〝聖地巡礼〟も、日本の楽しみ方の一つとなっている。また、外食飲食チェーンや食品メーカー、コンビニ等の小売業においても、アニメキャラクターを用いたIP(知的財産)商品は広告、販促戦略の一つ。売上アップに大きく寄与していることからアニメ産業がもたらす経済波及効果は莫大だ。こうした背景もあり、東宝はアニメ事業を第四の柱とすべく、アニメのIPビジネス強化に急ぐ。
IPのマーチャンダイジング
「まずは作品を観てもらい、とにかくファンを増やすこと。そして大事なのはそのIPを育て長寿化させる」─。アニメ事業の成長戦略を大田氏はこう語る。
例えばテレビアニメの1期が終わった後には、イベントや舞台、ゲーム、商品化など切れ目なく展開し、次の期が始まるまでファンの熱量が冷めないようコンテンツを投入する。戦略的な施策を長期計画的に組み、そのIPの存在感を示し続ける。70年続くゴジラのIPにもこの考え方が適用されている。海外におけるIPビジネスの現状はというと、
「海外では配信チャネルは増えているものの、見る環境、映像以外の周辺ビジネスの環境は進んでいないことが多い。例えば海外の現地流通関係者に聞くと、IP商品の売り場がない、海賊版の流通、値段の設定等、高いニーズがあるにもかかわらず拾い切れていないという課題がある。今後は海外市場を積極的に掘り起こしていきたい」と大田氏。
現状アニメ等のグッズを現地の人が購入したいとなった時には、日本からの並行輸入品として2倍の金額で売買されていることもあるようだ。こういった未開拓分野に商品やサービスを普及させ、IPビジネスを加速させていくという姿勢を示す。
北米はいうまでもなく、アジアにおいてもアニメ人気は熱狂的。その需要も捉え、昨年タイ国内二番手のアニメ制作会社IGLOO社と資本提携を発表。
タイはハリウッドでCG等を学び戻ってきた人材も多く、高い技術を持つ。今後タイ生まれのアニメを東宝が一緒に制作する可能性もあるという。中国や韓国を始め、海外のアニメーション技術は危機感を感じるほど急速に伸長しているという話は業界関係者からよく耳にする。海外勢力が猛追する中で、日本の強さとは何か? と問うと、
「技術は真似できても全体の演出は真似できない。現時点での日本の強みは総合演出力」と大田氏。この強みを磨き発揮できる若手人材の育成にも東宝は注力している。
今年7月に発表した25年2月期第1四半期決算説明資料によれば、アニメ事業における国外のシェアは22年2月期14.1%のところ、24年2月期では34.1%まで上昇。8月23日にはバンダイナムコホールディングスとも資本提携を結び、オリジナルIPの企画開発や映像製作、商品・サービス等の展開を行い、両社のグローバル市場における更なる成長を目指すとしている。東宝の持つIPの魅力が世界に届けられれば、日本のアニメ自体の更なるブランド力向上も見込めるだろう。
〝世界中のファンともっとつながる〟ということを目標に掲げる東宝。同社がアニメ事業に注力することでアニメ産業が振興し、日本の強さの一つとなることを期待したい。
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