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日本製鉄のUSスチール買収をどう見ていますか? 答える人 佐藤丙午・拓殖大学海外事情研究所所長

財界オンライン / 2024年10月16日 7時0分

佐藤丙午・拓殖大学海外事情研究所所長・国際学部教授

「単にビジネスの論理だけではうまくいかない。もっと安全保障に関心を持つべき」―─。日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画は、米大統領選挙も絡み、先行きが不透明な状況。また、米中対立のある中で、日本は中国との関係をどう考えるべきか。佐藤氏は「世界は日本を〝お人好し〟だと思っている。もっとシビアに戦略を考えるべき」と語る。


安全保障問題に対する意識の低さが露呈?

 ─ 日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画が、大統領選挙を控えた米国で政治問題となっています。日米同盟とは何なのか? 経済安全保障のあり方とは何なのか? を考えさせられる状況になっているんですが、この問題を佐藤さんはどのように受け止めていますか。

日本製鉄はどこまで米世論を納得させられるか、日米同盟も問われるUSスチール買収問題

 佐藤 わたしは、この問題は日本製鉄が戦術的に失敗したと言っていいと思います。かつて「鉄は国家なり」という有名な言葉がありましたけど、やはり、大統領選挙のある年に安全保障上の懸念が出るような企業の買収を仕掛けたからには、日鉄側の事前の情報収集とロビー活動を十分に実施する必要があったと思います。

 おそらくUSスチールがどういう技術を持っているかとか、今の米国の中国に対する安全保障上の懸念はどこにあるかとか、日鉄側が注意すべきポイントはいろいろあったはずです。

 USスチールは単なる鉄鋼会社ではないし、国内だけで事業をやっている会社ではありません。いろいろな形で米国の安全保障に関わっていますから、彼らがどれだけ安全保障の分野にコミットしているかということに対する日鉄側の判断に甘さがあったのではないでしょうか。



 ─ もっとシビアな認識が必要だったと。

 佐藤 ええ。安全保障がどういう局面で、どういう形で出てくるのかということに関する鈍さがあったように思います。

 米国の鉄鋼業というのは、造船業と密接につながっていまして、米国の造船業は米海軍向けの艦船を増強しなければならないというミッションがあるんです。当然、船を支えるのは鉄鋼品ですからね。USスチールが米国の企業から日本の企業になると、造船業や海軍に至るまでどんな影響をもたらすのか。この辺に微妙な問題が引っかかってくるのではないかと。

 もちろん、様々な要因がいくつかあって、それを日鉄がうまく掴むことができなかったというのが、今まで出てきた情報を見ている限りでの感想です。

 ─ しかし、日本製鉄は経団連の会長を何人も輩出している日本を代表する企業なわけですよ。そんな企業でも、安全保障に対する意識が低いというのは残念ですね。

 佐藤 もちろん、日鉄に聞けば、きちんと調査した上での判断だったとおっしゃると思うんです。しかし、結果だけ見ていると、これだけ揉めてしまったというのは残念ですね。

 米国に限った話ではありませんが、やはり、安全保障が経済に深くかかわる時代ですから、企業もその辺のリスクをよく認識するべきだと思います。日鉄としても今回、何が問題だったのかということを情報公開して、今後、米国進出を考える日本企業の手助けをしてほしいと思います。

 ─ 改めて、安全保障と経済が絡む時代になったということですが、これから海外進出を目指す日本企業に佐藤さんからはどんなことをアドバイスしますか。

 佐藤 釈迦に説法だと思いますが、現地の議員をうまく取り込みながら、もっと現地の政治事情に配慮したような形でやるべきだと思います。特に日鉄のような大規模な買収になると、その背後にある政治性というものを考慮しなければならない。

 われわれ日本人が思っている以上に、米国は各議員の力や人脈が強く影響しますので、ローカル・ポリティクスにもっと精通した人たちを巻き込んでやっていくべきだと思います。

続きは本誌で

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