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『日本の安全』をどう確保するか? 答える人 元防衛大臣・森本敏

財界オンライン / 2024年10月25日 18時30分

森本敏・元防衛大臣

世界が混沌とする中、日本の安全保障をどう確保していくか─。「本来日本が今やらないといけないことは、5カ年の防衛力整備計画を着実に進めることであり、43兆円の予算の中で今後さらに防衛力を高めることだと思います」と元防衛大臣の森本敏氏。10月1日から石破茂政権がスタートしたが、石破新首相は自民党総裁選の際、アジア版NATO(北大西洋条約機構)、日米地位協定の改定などにも触れており、そのことには異論も続出。石破首相は「中・長期的に取り組む」と言いつつ主張の〝修正〟を行っているが、世界で現に戦争が起きている中でいま必要な安全保障とは─。


大荒れだった総裁選挙

 ─ 石破茂新内閣がスタートしました。世界情勢の中で何よりも国の安全保障は経済成長と並んで重大な政治課題になっています。世界中が政治的にも大混乱の状態となっていますが、今回の総裁選を含め、森本さんの考えを聞かせてくれませんか。

 森本 今回の選挙で浮き彫りになったのは、日本の選挙もヨーロッパの大統領選挙とよく似てきたということです。今の選挙は政局や人脈や派閥というより、国民人気で票が動きリーダーが決まるという選挙になっています。

 ─ ヨーロッパ各国でも右派勢力が出てきたという流れはどう見ますか。

 森本 右派勢力の背後にあるのは、基本的にはどこの国にも自国第一主義がある。他の国よりまずは自分の国をもっと豊かにしていくべきであり、なぜ自国民のことより移民・難民やウクライナに金を出すのかという主張です。

 アメリカ人もその3割ぐらいは凝り固まったアメリカ第一国主義です。日本の中にもそういう人は意外に多い。今の日本の現状をなんとかして欲しいという人の中には、石破さん支持の人が多いと思います。

 ─ 森本さんは石破さんの安全保障観についてはどう見ていますか。

 森本 石破首相は特に、安保・防衛に精進しておられ、わたしは考えも近いので、共著を二冊出しています。ただ、今回は安倍政権下の防衛政策に大きな関心が薄れてきたように見られます。

 ですから今の防衛力整備・計画よりも、メディアから見てもウケの良い、別の視点に立った新しいことを言うつもりでしょう。

 要するに前任者を全否定して、目立つことを言いたい。これはトランプ元大統領と似た発想でアメリカ的です。それを日本の学者がハドソン論文に仕込んで首相の名を借りて発表している。やり方が姑息です。


石破新内閣が打ち出すアジア版NATOの創設は非現実的?

 ─ 石破首相は今メディアでアジア版NATOの創設を訴えていますね。これについて森本さんはどう観ているか聞かせてくれませんか。

 森本 ハドソン研究所が9月に発表した論文でもこのことが書かれていました。先日出演したテレビ番組でこれが取り上げられたので、全否定しました。石破首相は優先課題を間違っていると思います。

 ─ 主にどういった点を否定されたのですか。

 森本 石破首相が今までに主張されているポイントは、憲法9条の改正をして自衛隊を明記すること。安全保障基本法を作ること。アジア版NATOの創設。日米地位協定を改定して、在日米軍基地を日米共同管理にすること。

 さらには逆日米地位協定。これは自衛隊を米国のグアムに送って、別の日米地位協定を結ぶべきというものです。これだけはわたしも賛成の立場です。ただし、日本がグアムを守るわけではありません。米軍が日本で日本を防衛するのとは違う。

 ─ 防災省の設置構想についてはどう考えますか。

 森本 多額の予算を使って防災のための新しい役所を作るというのはあまり有効であるとは思えません。すでに有る組織を有効に機能させることの方が重要です。

 石破首相がこのうち特に東アジア版NATO、安全保障基本法、地位協定改定、防災省の設置。総理就任後にこれを主張しておられました。

 ─ アジア版NATOはなぜダメかという点を説明してくれませんか。

 森本 石破首相がアジア版NATOはなぜ必要だと言っておられるのか。それは、ウクライナがNATOに加盟していないので、アメリカはウクライナに軍事力を展開できなかった。抑止が機能しなかった結果、ロシアに攻められたんだという論理なのです。

 でもその論理はおかしいと思います。ヨーロッパの現実を見ると、当時も今もウクライナをNATOに入れることはできません。NATO諸国は了承しないでしょう。なぜなら北大西洋条約上は加盟32カ国のうち1カ国でも攻撃されたらロシアと戦争しないといけないからです。

 なぜウクライナ戦争を抑止できなかったかというと、それはウクライナの情勢と防衛努力が足りなかったからです。

 ─ でも、ウクライナが防衛する前にロシアの侵攻が始まってしまったということがありますね。

 森本 2014年クリミア半島をロシアに占領された時からわかっていたはずです。そのあとのウクライナの自主防衛の努力が足りなかったのです。NATOに入っていなかったからではないのです。考え方が根本的に間違っています。

 でも、これを同じようにアジアに当てはめて考えると、どんな国でも中国に攻められたら同じようになります。だからアジア版NATOを石破首相は主張していますが、集団保障体制をアジアで作ったら大変なことになります。アジア版NATOのねらいは対中抑止ですが、台湾を入れるわけにはいかず、入れたら条約に参加している国はみんな戦場に赴くことになる。日本では自衛隊が駆り出されることになりますが、それは現実不可能だと思います。

 特に韓国との関係をみても、日本の自衛隊が韓国の領土内に入ることを拒否します。

 ─ 韓国は日本の自衛隊が入るということを生理的に受け付けないと。

 森本 歴史に基づく国民感情は今も根深くあります。釜山の港に海上自衛隊の船が港に入ることさえ反対する人がいるのですから。

 従って、NATOよりもこの地域には日米韓の連携、QUAD(日米豪印戦略対話)、その他、装備、技術、教育、サプライチェーンなど多くの分野で幅広い協力、支援のパートナー関係があり、これらを深化させていくことの方が現実的です。また、自衛権を行使する場合、日本にとってはさらに別のハードルがあり、それを解決していくことが求められます。

 安倍元首相が憲法第九条の解釈の変更をやって、日本は集団的自衛権を行使できるようになったと説明されていますが、それには条件がついています。

 密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある状態が起きた時、存立危機事態であると国会で承認することが必要です。このように、日本が武力攻撃を受けるということをわかっている時にはアメリカに協力するということです。

 これは、国際法上集団的自衛権に該当するということで、それを援用して集団的自衛権を行使することは可能だと言っておられます。この論理には少し無理があります。集団安全保障というのはあくまで自衛権を行使して、他国が攻められた場合に同盟国をも守るということです。

 さらに言えば、安全保障基本法を提案する背後には、今の「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の戦略三文書に対抗意識を持っておられるのではないかと思います。

 しかし、すでに平和安保法制があり、この戦略三文書をきちんと実行すれば、防衛力は確実に機能するし、今更基本法は不要だと思います。


日米地位協定第17条の改定

 ─ 日米地位協定の改定はなぜだめかということについても話してくれませんか。

 森本 わたしは先日の番組でも「地位協定改定は無理です」と断言しました。この地位協定第17条の改定というのは裁判管轄権がポイントなのです。

 つまりもっぱら米軍内で起こる事故や、米軍が日本で公務執行中の作為、もしくは不作為で起こした事故、例えば、日本国内で米軍機が事故を起こし、民家に墜落して人が亡くなったとします。このときの第一次裁判権はアメリカが執行することになっています。

 ─ 1977年に横浜の民家に米軍機が墜落した事件がありましたね。

 森本 あの時にアメリカは極めて不条理なことをしたのです。パイロットを本国に帰国させ、事故機のエンジンをアメリカに持って行ってしまいました。日本はこれを取り返すのにものすごく苦労しました。それぐらいアメリカは裁判権を行使するための権限を重視しています。

 他にも、沖縄のファントム(F4戦闘機)が、琉球大学に落ちた時はどうしたかというと、第一次裁判権があるから網を引いて、そこには日本人は警察でさえも一歩も入れなかった。日本はそのことにものすごく不満があって、長い間の交渉後に、今は捜査官が現場に入れるようになりました。アメリカ側も随分努力してきました。

 日本は裁判権を行使しないのに、なぜ捜査権が入るのかというと、第一次裁判権をアメリカが実行しなかった時に、第二次裁判権を日本が取る。証拠がなくなったら困るのです。だから、現場を捜査する権限をもつ警察が内周規制線(制限区域)内へ入れるようにしたのです。ここまでくるのに日米とも大変苦労しました。

 石破首相が日米地位協定の問題を沖縄で講演したら、沖縄県民にはものすごく好評で、沖縄では石破人気が圧倒的となりました。日米地位協定は沖縄では特に大きな関心があります。

 ─ アメリカが日米地位協定改定には後ろ向きだといわれる理由は何ですか。

 森本 アメリカの議会が承認しないでしょう。アメリカは世界40近くの国と地位協定を結んでいますから、一国でも地位協定の改定をやると、それが他の国に跳ね返ってくる。何で日本だけなのかという不満が出て、自分のところもと言い出す国が出てきます。

 ─ 現状では日米地位協定にはいくつもの壁があるということになりますか。

 森本 アメリカとの関係では日米地位協定の改定はやったことがないのですが、NATO諸国では事情が異なるので実例はあります。いずれにしても日本は直面しているこうした現実にどう向き合うかという課題ですね。

 しかし、われわれが今やらないといけないことは、まず防衛力整備計画5年、43兆円の予算でどのように防衛力を高める計画を立てていくかです。

 前政権でスタンドオフや、宇宙、サイバーなどいろいろな課題を実行していこうと一生懸命やっている最中に、日米同盟に波風の立つ、非現実的な課題を持ってこられているという状況は容認できないのです。

 ですから、アメリカ側も理解するような、地に足がついた案から取り組まなければ、政策は現実的に進まないと思います。

 ─ 安全保障は日本にとって極めて大事な課題の一つであり、与野党関係なく取り組まなければならない。与野党との連携をうまくしていかなければなりませんね。

 森本 アメリカとの関係は立憲民主党の党首になった野田佳彦さんもよくわかっていると思います。今の野党で総理大臣経験者は野田さんしかいません。

 野田さんはアメリカ政治にも精通している人物で、中・長期的に取り組むつもりであれば、石破さんにとってはいいアドバイザーだと思います。

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