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大和証券グループ本社・荻野明彦『資産管理型で先行する!』、野村HDや銀行勢との競争激化の中

財界オンライン / 2024年10月25日 19時0分

荻野明彦・大和証券グループ本社社長

「マーケットの混乱はあったが、逆にそこがチャンスと見た、中長期スタンスの投資家は冷静に株式を購入していた」─大和証券グループ本社社長の荻野明彦氏はこう話す。2024年8月5日、日経平均は史上最大の下げ幅を記録したが、多くの投資家は冷静に対処。「新NISA」も始まり、より多くの人々が自らの資産形成を考える中、大和証券が持つ「資産管理型ビジネス」の強みをどう発揮し、顧客に伴走するかが問われる。


株価の暴落局面で中長期投資家の行動は?

「マーケットは実体経済を映す鏡」と話すのは、大和証券グループ本社社長の荻野明彦氏。

 2024年9月にFRB(米連邦準備制度理事会)が利下げ、一方で日本銀行が7月に利上げをした状況。米景気やロシア・ウクライナ戦争、中東での戦火拡大など、世界経済の先行きは混沌としている。荻野氏は今後をどう見ているのか。

「日本の主要企業の業績は、今年度がプラス6.1%、来年度がプラス8.1%と、5期連続で最高益を更新する見通し。経済のファンダメンタルズは強く、それを反映した株価の中期的な見通しは強気で見ている」

 この7―9月の日本の株式市場は乱高下が続いた。市場が特に注視していたのは「米国経済がソフトランディングできるかどうか」だった。24年10月4日に発表された9月の雇用統計は市場の予想を上回った。

「米国経済の強さが見えている。9月の利下げの後、今後も利下げが続くのではという市場の見方だったが、9月の数字を受けて、それほど利下げの回数が多くないのではないかという見方に変わった。ソフトランディングできそうな方向に向かっているのではないかと思う」と荻野氏。

 米国経済がソフトランディングすることが出来れば、当然日本の株式市場にもプラス。大和証券では、過去に米国が利下げを行った主なケースを分析している。それによると利下げの後、リセッション(景気後退)にならなかった場合、1年後の株価は日米ともに堅調に推移しているというデータがある。

 01年や07年といった景気後退局面に入ったケースでは、株価は大きく調整。しかし今、市場参加者やエコノミストの中に、景気後退局面を予測する声は少なく、25年末頃まで米国経済は堅調だという声の方が多い。

 日米ともに、株価は上下の振れ幅が大きい。特に24年8月5日、日経平均株価は前営業日比4451円安という、1987年10月の「ブラックマンデー」を超える、史上最大の下げ幅を記録した。大和証券では現場にどのような指示を出したのか?「本部からは、お客様と密にコンタクトを取って、マーケットの状況、今後の見通しをしっかりとご説明するように指示を出した」(荻野氏)

 その日の暴落は、様々な要因が重なって起きたことだった。7月30日、31日に日本銀行が開催した金融政策決定会合では、国債買い入れの減額を行うことが見通されていた。

 一方、政策金利の誘導水準を0.25%に引き上げる追加利上げは、ややサプライズとなった。それでも「8月1日のマーケットは、それほど揺れていなかった」(荻野氏)。しかし1日夜、米国の雇用統計の数字などが想定より悪いことがわかり、ソフトランディングに対する懸念が広がった。

 それによって8月2日に2216円安、8月5日は4451円安という相場に。この暴落の中では海外の短期筋の投資家が、金利の安い円を借りて行う「円キャリートレード」が逆回転した他、信用取引をしていた個人投資家が強制的にロスカットせざるを得なくなるといった事態が起きた。

 一方で「海外の中長期の投資家は、その週、大幅に買い越していたし、日本の個人投資家も現物では買い越しになっていた。マーケットの大きな混乱はあったが、逆にそこがチャンスと見た、中長期スタンスの投資家は冷静に株式を購入していた」と荻野氏は振り返る。投資において「時間」が大事だということが改めて認識された局面だった。


顧客の潜在的ニーズをコンサルティングで顕在化

 24年4月から、大和証券は個人向け営業を担当する「リテール部門」を、「ウェルスマネジメント部門」に名称変更した。これまでのリテール部門に、大和ネクスト銀行、スマートフォン専業証券の大和コネクト証券、フィンテック子会社のフィンターテックなどを加えて再編した。多くの金融資産を預ける富裕層顧客へのコンサルティング営業と、資産形成層、投資初心者向けのスマホ証券などに同時に注力する。

 だが、特に富裕層向け営業は、同業他社も注力する分野。大和証券はいかに差別化していくのか。荻野氏は「『資産管理型ビジネス』に、かなり早くから舵を切ってきた」と強調する。

 それまでの、単品の商品を売買して手数料を得るスタイルから変革するため、コンサルタントの教育、システムやプロダクトサービス、コンプライアンスの体制など、地道に改革を進めてきた。こうしたビジネスモデルの転換には相当の時間がかかるものであり「大和証券には一日の長がある」と荻野氏は自信を見せる。

 加えて、深度あるヒアリングを徹底し、顧客の最適なポートフォリオ構築に向け提案するための「資産運用プランニング」、顧客の総資産や家族構成などから、相続などの将来の資産のあり方を支援する「財産承継プランニング」といったツールも駆使している。

 こうした変革は、営業担当者の意識変革を伴う。荻野氏は「コンサルティングの重要性」を社内に説いている。例えば、ある時点で顧客にとって「理想のポートフォリオ」ができたとする。だが、マーケットの状況、顧客のライフステージの変化などによって「理想」は変わっていく。コンサルタントは顧客から定期的にヒアリングし、状況の変化に合わせたポートフォリオの入れ替えを提案できるかが問われる。

「単品の情報ならばネットなどで手に入るかもしれない。それをトータルで見た時にどう考えるか。お客様は〝漠然〟とは考えられていると思うが、きちんと言語化して認識できているかというと、できていないケースもある」(荻野氏)

 そうした顧客の潜在的ニーズを、コンサルティングを通じて顕在化させ、課題を共有した上で対応を共に考える。その意味で、こうしたコンサルティングスタイルは、ネット証券にはない対面証券会社ならではの価値と言える。


大型の提携を矢継ぎ早に実行

 新たに「証券と銀行の連携モデル」の構築も進めている。大和証券グループ本社は24年5月、あおぞら銀行の第三者割当増資519億円を引き受けて資本業務提携を結び、15%超を保有することを決めた。

 続けて6月には、旧村上ファンド系の投資会社・シティインデックスイレブンスなどが保有する、あおぞら銀行株の取得を決め、合計で23.95%を保有することになる。

 両社の提携では「ウェルスマネジメント」、「不動産関連ビジネス」、「M&A(企業の合併・買収)」、「成長企業支援」という4つの分野で協議を進めることを打ち出していたが、そこに今は「コーポレートファイナンス」を加えた5分野で連携すべく、協議が行われている。

 両社で分科会を設けて協議を進めるが、9月末までに現場同士で延べ200回程のミーティングが行われ、提携業務の具体化に向けて動いている。「不動産分野では、すでに何件か、具体的実績も出ている」(荻野氏)

「あおぞら銀行は、企業の事業、プロジェクトや資産からのキャッシュフローを判断軸に融資する『ストラクチャードファイナンス』(仕組み金融)など〝エッジの効いた〟サービスの提供力を持っている。これを大和証券のお客様のニーズに合わせて提供できるというメリットもある」(荻野氏)。

 大和証券は過去には、住友銀行(現三井住友銀行)と提携、法人向け業務を行う「大和証券SBCM(後に大和証券SMBC)」を1999年から10年に渡って運営。

 だが、09年にこの合弁は解消。三井住友フィナンシャルグループは旧日興コーディアル証券を買収し、現在はSMBC日興証券として銀・証連携のあり方を模索している。大和証券は今後、あおぞら銀行との補完関係の中で、サービスの幅を広げることを目指す。

 証券業界では、みずほ証券が連結対象外の米国事業を合算した数字ながら、24年3月期の純利益で野村ホールディングスに次ぐ水準となるなど、独立系同士の戦いのみならず、メガバンク系証券が追撃を見せる。その意味で、大和証券ならではの「証・銀連携モデル」の確立が問われる。

 また、荻野氏が社長に就任後、このあおぞら銀行への出資に加え、グループの大和アセットマネジメントにかんぽ生命が20%出資する資本業務提携を結ぶなど、矢継ぎ早の提携戦略が目立つ。

 この提携では、かんぽ生命が2年間で約1兆円の運用を大和アセットに委託する。これもあおぞら銀行との提携と同様、相互補完の提携関係となった。

「かんぽ生命は日本最大級のアセットオーナーだが、グループの中にアセットマネジメント会社を持っていなかった。一方、大和アセットは投資信託ビジネスではトップクラスだが、投資顧問ビジネスの強化が課題だった。世界で通用するアセットマネジメント会社にしていくための布石を打てたのではないかと思う」

 日本では金融庁が資産運用を銀行、証券、保険に並ぶ、「第4の柱」と位置づけ、24年7月には所管部署として「資産運用企画室」を設置するなど、資産運用への関心が高い中、運用力を高められるかが問われる。


新政権が掲げる「投資大国」実現に向けて

 今後も荻野氏は必要と思われる提携やM&Aは躊躇なく行っていく姿勢を示す。

 その前提として、就任以来大事にしているのが「スピード」。荻野氏は大和証券グループがこれまで行ってきた提携やM&Aに、企画担当の立場で関わり、グループの事業ポートフォリオのあり方について、常に考えてきた。その過程では「頭の体操レベルであれば毎日のように行っている」。

 案件の話が来てから動くのではなく、すぐに「打つ」かどうかの判断をするための「素振り」を日々行っていたという。

 この「スピード」の重要性については、荻野氏自身が常に意識しているのに加え、社員に対しても訴えている。「スピードは常に自分自身にも課している。社内外で示せるような決断、実行をしていかなければいけない」と荻野氏。

 日本では「資産運用立国」、「資産所得倍増」を掲げて、新NISA(少額投資非課税制度)など、投資環境を整備してきた岸田文雄政権が退陣し、石破茂政権が誕生した。

 石破首相は就任前には、資産所得課税の必要性に言及するなど、投資に対するスタンスが見えにくかったこともあり、自民党総裁選直後には1ドル=146円台だった円は143円台という円高となり、日経平均は2000円近く下落した。

 だが、その後、石破首相が現状に則した発言を繰り返したことで、徐々に市場も平穏を取り戻した。就任後には経済政策の柱として「投資大国」を掲げた。

 また、石破首相は、10月2日に開催した全国証券大会にビデオメッセージを寄せ、「『資産運用立国』の政策を着実に引き継ぎ、更に発展させるとともに、これに加え、地方への投資を含め、内外からの投資を引き出す『投資大国の実現』を経済政策の大きな柱の1つとしている」と述べた。

 荻野氏は「資産運用立国をさらに発展させ、投資大国を目指すという政策に反対する人は、あまりいないのではないか」と期待感を見せる。

 荻野氏が大和証券に入社したのは1989年のこと。この年の12月に、日経平均は3万8915円という当時の史上最高値を付けた。だが、これを更新したのは24年2月で、実に34年2カ月の月日が流れた。

 この間、日本以外の先進国では株価が10倍、15倍にもなっている国がある。この要因について「資本市場を活用して、リスクマネーを成長産業に提供することで、企業が成長し、そのリターンを国民が享受してきた」からだと見る。

 一方、日本は「失われた30年」と揶揄されるデフレが続き、資本市場を十分に活用することができなかった。一般投資家の心理も「株は上がっても下がるもの」という思考に捕らわれる傾向があったのがこれまで。

 だが、ここからは「資本市場を活用して、日本経済をダイナミックに成長させなければならない」と荻野氏は力を込める。

 政権が掲げてきたような、「賃金と物価の好循環」が実現できるかが問われる。証券会社が問われるのは、投資家の資産価値を高めるために伴走すること。大和証券は資産管理型ビジネスの強みを活かして、ネット証券とは違う価値を顧客に提供できるかが、勝負の分かれ目となる。

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