久保利英明の「わたしの一冊」『組織ガバナンスのインテリジェンス ―ガバナンス立国を目指して―』
財界オンライン / 2024年11月10日 11時30分
経営者、官僚、弁護士など、ガバナンスの論客13名との対談集
著者はガバナンスや経営倫理、内部統制にも詳しい高名な会計学者で、20世紀末の英国における3つの委員会報告書を翻訳され、それらは日本のコーポレートガバナンス議論の基となった。現に、大学改革や非営利法人改革の主役になり、第三者委員会の論評を行うなど、ガバナンス改革の最前線にたつ実務家でもある。
本書は著者が実務経験の中で、直接接点を持ったり、その著作や言説に感銘を受けた有識者13名との対談集である。登場するのは、高度なガバナンスを構築した企業経営者、金融行政の最先端で活躍した官僚たち、大学改革について高い見識を有するジャーナリスト、大学経営者、非営利法人・企業から国家統治まで幅広くガバナンスに関与する弁護士、日本の革新を求めた政治家など、多様かつ著名なガバナンスの論客である。
本書は対談を通じて、ガバナンスの歴史に残る顕著な失敗例や成功例に言及しつつ、いかにガバナンス体制を整えようと、インテグリティを備えた経営トップが不可欠であり、さらにパワフルなプロ経営者をコントロールするためには、そのオーバーサイトの任に当たる社外取締役には見識と覚悟が必要となることを強調している。
対談相手の冨山和彦日本取締役協会会長は「本気で社外取締役の職務を全うしようとする人を内心嫌がる会社が結構ある」としてこれを「ガバナンス粉飾」と切り捨てているのは小気味よい。
従業員を重視する人的資本経営は正当であるが、ガバナンスの根幹となる人的資本とは、CEOと社外取締役に他ならない。ここへの投資なくして、ガバナンス強化はあり得ない。
本書の結論を一言でまとめれば、経営する逸材CEOと、高い見識と胆力を持ってオーバーサイトをするボードメンバーを本気で希求した組織こそ、最終的勝利者になるということではないだろうか。トップ経営者の一読を勧める。
久保利英明の【わたしの一冊】『万、已むを得ず』
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