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小野圭一・J.フロント リテイリング社長の「人生の転機」【小売業の魅力に気づいたテレビの企画】

財界オンライン / 2024年11月16日 11時30分

わたしは1998年に大丸(現・大丸松坂屋百貨店)へ入社しました。子供の頃からよく親に大丸神戸店(兵庫県)に連れて行ってもらい、おもちゃ売り場に行くことが楽しみだった。そういう記憶がどこかに残っていたからです。

 初めは大丸梅田店(大阪府)のネクタイ売り場に配属されました。しかし、周りから販売に向いていないと思われたのか、2年半くらいで梅田店の販促チームへ異動となりました。

 当時から梅田は百貨店の競合が集う、競争の非常に激しいエリアです。しかも、当店に潤沢な販促費があるわけではなく、会社から言われたのは「とにかく頭を使え、知恵を出せ」ということで(笑)、非常に鍛えられました。

 当時の大丸梅田店の売上は非常に厳しい状態でしたが、JR大阪駅直結で交通の便が抜群によく、2011年には増床したこともあり、とにかく、沢山のお客様が店内にいらっしゃいました。そうした様子を見ていて、わたしは店舗のメディア活用ができないか、番組の中でいろいろな企画としてお店を使ってもらえないだろうかと考えました。

 そして、関西の某テレビ局の夕方のニュース番組でこの企画が実現。店の催事担当者とお笑い芸人さんが一緒になって店内を歩き、あるコートをいくらで販売するかをお客様に聞いて回るという企画で、お客様から「500円」と言われて、「いや、せめて、お札は欲しいです」とか、そういうやり取りをしながら、結局、1000円で売ることにしたのです。

 すると放送の翌朝、店の前にはものすごい数のお客様が並んでいました。この時、メディアの力をまざまざと感じましたし、百貨店が持つ集客力というものがどれだけ強いのかをすごく実感しました。放送は10分もしないくらいでしたが、視聴率もよく反応は上々。後から考えたら5億円くらいの宣伝効果があったのではないかと思います。

 これまで、わたしは一貫して、お客様が面白いと思ってもらえることをいかにやるか、を自分の中で大事にしてきました。

 今でも後輩や部下から「昔、さんざん小野さんから『それって本当に面白いか?』と聞かれましたよ」と言われたりしますが、やはり、小売業の魅力は、お客様の期待を超える面白さをいかに提供できるかです。

 そうした小さな驚きや感情が積み重なって、それがお店の魅力になったり、会社の業績にもつながってくると思うので、グループ全体で、それぞれが目の前のお客様の想像を超えるような感動を生み出していくことができればいいなと思います。

冨山和彦の「わたしの一冊」『学問のすゝめ』

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