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【政界】緊張感が高まる国際情勢の中 自公過半数割れで窮地の石破政権

財界オンライン / 2024年12月4日 11時30分

イラスト:山田紳

就任から8日後の解散、同じく26日後の衆院選投開票と異例の短期日程で臨んだ首相の石破茂が窮地に立っている。目標とした自民、公明両党による与党過半数(233議席)を割り、野党の協力なしでは政権運営が前に進まないからだ。当面は、衆院選で躍進した国民民主党の協力を得てしのぐ構えだが、早くも来年3月の予算成立とともに退陣し、自民党は夏の参院選に新首相で臨むとのシナリオがささやかれる。国際情勢は不安定が続き、政治の混乱による日本の国際的な地位の低下が懸念される。


少数与党に暗雲

 少数与党による政権運営は1994年4月発足の羽田孜内閣以来となる。当時、それまで非自民・非共産連立政権の一角を占めていた社会党が離脱し、新生党党首の羽田が首相に就いたが、政権運営に行き詰まり、64日で退陣した。戦後の首相で2番目に短い在職期間だった。

 その後、社会党は仇敵の自民党などと手を組み、自社さ連立政権の首相に社会党委員長だった村山富市が就き、与党多数の政権を築いた。

 約30年ぶりの少数与党となった石破にも暗雲が垂れ込める。まずは今年中に補正予算を仕上げることが最大の課題となる。能登半島地震の復興支援策を盛り込んだ補正予算については、立憲民主党や国民民主党も早期の編成を求めており、反対するとは考えにくい。補正予算を順調に成立させれば、石破は年末に向け来年度予算編成に急ピッチで取り組むことになる。

 その際にハードルになるのが、自民党の派閥パーティー収入不記載を巡る裏金問題に対処するための政治改革だ。立民は企業・団体献金禁止、使途の報告義務がない政策活動費の廃止などを求めている。

 国民民主も政策活動費廃止を主張するが、立民と違うのは企業・団体献金の全面禁止までは強く求めていないことだ。自民党が抵抗してきた政策活動費廃止、議員に毎月100万円支給される調査研究広報滞在費(旧文通費)の使途公開、政治資金の管理を監視する第三者機関の設置などさえ飲み込めば、政治資金規正法の改正で国民民主の協力を得られる公算は大きい。日本維新の会もこれらの実現を強く求めており、協力する可能性が高い。

 裏を返せば、自民党が抵抗を続ければ石破政権はたちまち行き詰まることになる。

 代表の石井啓一まで落選し、8議席減の24議席となった連立与党の公明党は、敗北の原因について「自民党の『政治とカネ』の問題のもらい事故だ」(幹部)と受け止めている。その公明も早期の政治改革実現を求めている。


「石破おろし」気配なし

 問題は、石破が自民党をまとめることができるかどうかだ。前首相の岸田文雄が奔走して通常国会で成立させた改正政治資金規正法は、議員本人の罰則を強化する「連座制」の導入、パーティー券購入者の公開基準額の「20万円超」から「5万円超」への引き下げ、政策活動費の10年後の領収書公開などを盛り込んだ。自民党内の抵抗を受けて中途半端な内容となり、衆院選では有権者から大きなしっぺ返しを受けた。

 この教訓を生かし、自民党が国民民主などの要求を受け入れれば石破政権も存続しうるが、自民党内には「政治には、どうしてもお金がかかる」(中堅議員)との声が根強い。まさに石破の手腕の発揮どころとなる。

 そもそも与党で過半数という勝敗ラインを割った石破は、本来ならば即退陣となってもおかしくなかった。自民党のベテラン議員は「与党過半数割れで政権の枠組みを早期に構築しなければならない。身内の争いをしている場合ではない」と語り、当面は「石破おろし」を封印すべきだと語る。

 ただ、政権選択選挙である衆院選で国民にノーを突き付けられた石破には、いばらの道が待っている。公示前の256議席から65議席も減らした大敗にもかかわらず、自民党で責任をとったのは選対委員長だった小泉進次郎だけ。幹事長の森山裕も続投となった。

 選挙戦最終盤で、裏金問題で非公認となった候補の支部に公認候補と同じ活動費2000万円を支給したことが明らかになり、自民党は一気に劣勢になった。関係者によると、森山ら少数の党幹部で決定し、石破もゴーサインを出した。党四役だった小泉さえ「知らなかった」とテレビ番組で明言した。落選した公認候補の1人は「自分は裏金と全く関係ないのに、最後の最後で後ろから鉄砲玉を撃たれた」と嘆く。

 支部への支給は違法ではなく、国政選挙では毎回実施している。しかし、自民が裏金問題で批判を浴び、衆院選の最大の注目となっている状況で非公認候補の支部に公認候補と同額の資金を提供すれば、批判されるのは自明の理だった。「国民の納得と共感を得られるよう努力する」と公言する石破が、国民の肌感覚と大きく乖離していることを象徴している。



「小泉旋風」への期待

 年内に来年度予算案を決定したとしても難題は続く。来年は夏に東京都議選に加え参院選が控えており、通常国会は1月中旬召集、閉会は6月中旬で、会期延長はない見込みだ。

 予算案は3月2日までに衆院を通過しなければ年度内成立が確約されない。その衆院で与党は過半数を割り、ほかの政党の協力を得なければ、政権にとって最大の務めである予算の成立ができない事態となる。

 全ては今後の国民民主や維新などの野党との協議次第だが、「石破退陣」を条件に成立に協力するとの見方が早くも出ている。この案は野党からではなく、自民党内から浮上している。念頭にあるのが、2001年に首相だった森喜朗から小泉純一郎へのバトンタッチだ。

 森は00年4月に病気で突然倒れた小渕恵三の後任として急遽、首相となった。6月の衆院選は、森の「神の国」「無党派層は寝ていてくれれば」との発言もあって自公で議席を減らしたが、過半数は維持した。

 だが、その後も森内閣は低迷し、01年2月、日本の高校生の実習船「えひめ丸」がハワイ沖で米原子力潜水艦と衝突、沈没したにもかかわらず、ゴルフを続けていたことがとどめとなった。内閣支持率が一桁の世論調査結果が出ると、夏に参院選を控えた改選組を中心に「森では選挙を戦えない」との声が広がり、退陣に追い込まれた。

 そこで登場したのが小泉だった。4月の総裁選で「自民党をぶっ壊す」と訴えて勝利して首相に就くと内閣支持率はV字回復し、各社の世論調査で軒並み70%を超えた。小泉就任前は惨敗必至と見られていた6月の都議選、7月の参院選ともに自民党は議席を伸ばした。

 来年は01年と同じく都議選と参院選があり、状況は似ている。決定的な違いは、小泉のような人物が現在の自民党に見当たらないことだ。

 通常ならば、総裁選の決選投票で石破に僅差で敗れた前経済安全保障担当相の高市早苗に期待が上るはずだが、そうはなっていない。自民党内では「『高市首相』ならば、石破首相よりも大変だったのではないか」との声がもっぱらだ。

 衆院選では、総裁選で支持してくれた候補以外の応援演説も行った高市だが、数少ない側近が複数落選した。何事も一人で閉じ籠もって考えるタイプの高市は、不都合なことがあると「自分は悪くない」と主張する癖がある。総裁選で最終的に高市支持に回った党最高顧問の麻生太郎は「高市、用意しとけ。仲間作りが大事だ」と助言したとされるが、相変わらず仲間作りは広がっていない。

 総裁選で9人中、3位だった小泉進次郎は選対委員長を辞任したばかりで、当面は名乗りを上げない見込みだ。5位だった元経済安保担当相の小林鷹之も、周辺の議員は「いま小林に泥船を任すにはもったいない」と話す。すっかり存在感がなくなった前幹事長の茂木敏充(総裁選6位)、前デジタル相の河野太郎(同8位)を待望する声も出ていない。

 そこで有力視されるのが、総裁選で4位と善戦した官房長官の林芳正だ。不祥事で辞任した閣僚の後任となることが多く、「政界のピンチヒッター」との異名を持つ。今まさに「首相のピンチヒッター」として期待する声がある。

 首相が交代しても官房長官が続投したのは01年の福田康夫以来だ。林の場合、同じ岸田派だった岸田が退任したにもかかわらず、総裁選で争った石破の下での官房長官続投は異例といえる。林は地味で目立たないが、総裁選の論戦を通じて政策、答弁力の高さが注目された。石破が続投させたのもその安定感のなせるわざだった。

 ただ、小泉純一郎のように強烈な個性で爆発的人気を呼び込むことは望めない。新首相による来夏の衆参同日選もささやかれる中、林の求心力に大いに疑問符が付くというのは永田町の衆目の一致するところだ。


注目の国民民主党

 石破政権が行き詰まった先の選択肢として挙がるのが、国民民主党代表の玉木雄一郎を自公が首相にかつぐとの奇策だ。衆院選で4倍の28議席に増やした国民民主はにわかに注目を集めている。議席を1.5倍に増やした立民代表の野田佳彦以上に「時の人」となっている玉木とは、どのような人物なのか。

 衆院香川2区選出、当選6回の玉木は大蔵省(現財務省)を経て05年の衆院選に民主党から立候補した。このときは苦杯をなめたが、09年の衆院選で初当選し、政策に明るい若手有望株として台頭した。

 もともと自民党支持者で、最初の衆院選は同党から出馬を打診された。自民党現職がいたこともあり民主党から出たが、香川出身の元首相、大平正芳の親族と親しく、地元では「大平の後継者」とみる人が多い。

 その後は民進党を経て東京都知事の小池百合子率いる希望の党に参画し、党代表も務めた。18年に民進、希望両党の一部議員が合流した旧国民民主党の共同代表となり、20年に旧国民民主が立民と分党した後の現在の国民民主で代表に就いた。

 少数政党で、あまり注目されなかった国民民主が脚光を浴びたのは22年3月、ガソリン価格高騰時にガソリン税を減税する「トリガー条項」の凍結解除を巡る自公と国民民主の協議開始だった。玉木は解除を強く主張したが、自公は税収減への懸念などから受け入れず、今年3月に3党の協議は決裂した。過半数割れした自公が政権存続をかけて再びトリガー条項の協議を国民民主と行うことは、何ともいえない皮肉だ。

 玉木は昨年9月の民放番組で、連立政権に入った場合に「どの閣僚を務めたいか」との質問に「総理大臣ですね」と即答し、野心家の一端をのぞかせた。1年以上経過して情勢は一変した。与党であり続けたい自公にとって笑い話では済みそうもない。

 いずれにせよ、政界が当面混迷することは間違いない。この間、中国やロシアは日本を脅かすように領空侵犯を行い、軍艦による示威行動を繰り返してきた。北朝鮮は弾道ミサイルを相次いで発射した。そして米国の新大統領の誕生によって国際情勢の不透明感は増していく。

 日本の政治の混乱は周辺の強権国家にとって覇権を確立する上で望むところであり、政治の安定化は待ったなしとなっている。(敬称略)

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