オリックス社長兼グループCEO・井上亮「常に『隣』を開拓して新しい事業づくりを!」
財界オンライン / 2024年12月24日 7時0分
「我々は金融機関にありがちな減点主義でなく『加点主義』」─。2024年にオリックスは創業60周年を迎えた。祖業はリースだが、今は「金融」、「事業」、「投資」という大きく3つの事業に注力し、今も新たな領域を切り開き続けている。「『隣』のフィールドに行こうとしているうちに、気づいたら、祖業とは結びつかない仕事をしていた」と振り返る。常に新しい事業を開拓し、独自の事業体として歩むオリックスのこれまでとこれからは─。
「隣」を開拓して 事業領域を広げる
─2024年はオリックスにとって60周年であったと同時に、井上さんがCEO(最高経営責任者)に就いて10年という年でした。一言では難しいと思いますが、オリックスにとっての60年を総括するとどういうことになりますか。
井上 当社は元々リース会社でしたが、それだけではなかなか利益が上がらない時代になりました。
どんどん隣のフィールドに行こうとしているうちに、気が付いてみたら、リースとは全く結びつかない仕事まで手掛けるようになったということです。
─ 「隣」を開拓する中で、事業領域を広げてきたということですね。
井上 コアビジネスを決めないことが、強みになりました。分かりにくいかもしれませんが、当社にとってはノンコアビジネスこそがコアビジネスなんです。
ビジネスを展開する上で、業界や事業領域など制限はかけていません。まさに「何でもあり」の姿勢で仕事をしていますが、逆に我々経営陣は、社員の活動をしっかり見ていく必要があります。
─ ガバナンスが大事になってくるということですね。旧社名のオリエント・リースから、オリックスに社名変更したのが1989年のことでしたが、改めて社名に込めた思いはどういうものでしたか。
井上 オリックスの社名は、独創性を意味する「ORIGINAL」 と、柔軟性や多様性を表現する「X」を組み合わせた名前です。「たえず創造性を追求する積極的で先見性のある姿」と「グループの有機的な結合」を表しています。
─ 東西冷戦の象徴だった「ベルリンの壁」が崩壊したのが1989年でしたから、ちょうど時代の転換期でしたね。井上さん自身は当時、どんな仕事をしていましたか。
井上 私自身、会社人生の山谷はないと感じていますが、荒野を歩いてきた感じです。船舶など海外のクロスボーダー(国際間取引)をほぼ1人で手掛けてきたのですが、社内に理解できる人も少なく、上司ともよく衝突していました。
それでも会社は自由に仕事をやらせてくれました。当時、世界でも先例がほとんど無かったLBO(レバレッジド・バイアウト、企業やファンドが他社を買収する際に、借入金を活用して資金を調達するM&Aの手法)を手掛けたり、常に新たな領域を開拓してきた自負があります。
─ 井上さんは上司とも衝突してきたということですが、よく執行役、取締役になることができましたね(笑)。
井上 単に運がよかっただけだと思っています。部長までは実力が試されても、部長以上は上司との相性やポストの巡り合わせといった運の要素が大きいのではないでしょうか。現に、40代以降でオリックスを退社された方の中には、成功している人も多いです。小さい会社を自分の力で大きくしたいという、起業家のようなマインドをもった方もいます。オリックス出身者は、各産業界で評価されていると言っていいと思います。
今後は「事業」と「投資」に注力していく
─ オリックスは人を成長させる会社だということですね。産業界全般で人材の流動性が高まっています。一方、企業として収益を上げるためにも「人」の力は最重要です。企業と個人の関係をどう考えますか。
井上 私は企業と個人は「ギブ&テイク」だと考えています。会社は、いい仕事をしてくれた人に対して昇給や昇格という形で応える、それを受けた個人は、仕事をして、引き続き収益に貢献する。その関係です。
─ 社員の実力をきちんと評価することが大事になると。井上さんから見て、伸びている社員はどういうタイプですか。
井上 わかりやすく言うと、私に対してモノが言える、反論できる人間です。イエスマンは必要ないのです。その上で、自分で仕事を取ってくることができることが重要です。
─ 自分の頭で考え、それを実行・実践することが大事ということですね。創業60周年にあたっては、社長としてグループ全体にどういう言葉を投げていますか。
井上 アップサイドを期待する人間に対しては、さらなる成長を促す言葉をかけています。そしてグループ全体に対しては「新しいことをやっていこう」と伝えています。
─ 海外事業では、今何カ国に展開していますか。
井上 約30カ国で事業を展開しています。グループの社員数は24年9月末時点で約3万4000人で、国内はそのうち約2万6000人です。しかし海外に派遣している日本人は50人程度しかいないのです。
─ 多くを海外人材に任せていると。
井上 ええ。日本人は財務、経理、ガバナンスを中心に派遣し、営業や管理は全てローカル化しています。
─ オリックスの事業は大きく「金融」、「事業」、「投資」の3つですが、今後どの領域を増やしていこうと考えますか。
井上 今後は事業と投資、中でも事業系が増えていくと見ています。ただ、金融と事業は厳密には分けづらいです。例えば、我々が手掛けているオートリースは、車両メンテナンスなどサービスが付帯したオペレーティングリースであり、両方の側面があります。
ただ、3領域に分けることで、社外に当社の姿をわかりやすくお示しできるという意味は大きいと考えています。
例えば会社全体としては、ROE(自己資本利益率)、ROA(総資産利益率)、EPS(1株当たり純利益)などの指標がありますが、「金融」、「事業」、「投資」の評価は、それぞれベンチマークが違ってきます。
金融であればROA、事業はEBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)、投資はFMV(適正市場価格)でなければいけないといったことです。今後も、この示し方は考えていく必要があります。
減点主義でなく 加点主義で評価
─ 井上さんがCEOに就いてから10年のオリックスの変化をどう捉えていますか。
井上 かつての当社グループは中小企業の集合体でした。それが今は各事業が結びついた組織、ある意味で普通の会社になったという感じがしています。
例えば、細かな情報や、事業ポートフォリオの内容についてのレポートなどが、常に経営陣に上がってきます。問題が起きればアラートが出ます。そうした組織的な情報共有の体制が出来上がったのが、この10年間だったと思います。
もちろん、まだ道半ばです。今後は分析のためにAI(人工知能)を活用することも検討しています。今は、ポートフォリオなどの分析は個人の判断や能力に依存している面がありますから、DX化を進めることが、さらに必要になります。
─ この10年間で嬉しかったことは何かありますか。
井上 経営は気が抜けませんから、あまり嬉しかったことは思い浮かばないというのが正直なところですね。社長ですから、最後の判断は私になるわけですが、正しかったことも間違うこともあります。間違えれば反省しますし、正しければホッとするわけです。
ただ、1つ言えるのは買収案件では、ほとんど失敗はありません。売却案件も適切な時期に対応できたと思っています。
─ 井上さんの判断基準はどこにあるんですか。
井上 私は「腹八分」が大事だと思っています。だから、これまで大きな失敗がなかったのかもしれません。これを腹十分で考えたら失敗もあったのではないかと思います。
腹八分の考え方であれば、マーケットが右肩上がりの時に売ることができます。ただ、売却時には「安売りをした」と言われます。
多くの人がピークの時に売りたがりますが、ピークを見極めることは非常に難しく、その後は下がるしかありません。そして、マーケットが一度下がりだしたら売ることはできません。
─ 現場で培われたものが大きかったと言えますね。
井上 見切りをつけるのが早いからでしょうか。売却案件で売り損なったことや、利益を上げられなかったことは、ほとんどありません。あまり欲をかかないのがよかったのかもしれませんね。
─ よく金融機関では仕事における失敗を履歴に残す「減点主義」が言われますが、オリックスの評価の仕方は?
井上 当社は減点主義ではなく加点主義です。例えば、事業で損を出しても減点しません。
投・融資委員会が可決した案件で、マーケットがおかしくなって損をしたとしたら、個人の責任にはなりません。
一方、契約書をいいかげんにつくって、それが原因でトラブルになったら、個人としての責任は問われます。ただ、今は法務なども含めて管理部門で契約をチェックしますから、必ずどこかで、その契約の問題点が発見される体制が整っています。
基本的な考え方は、1つの大きな失敗は、前向きな案件を100件手掛けるよりもノウハウが蓄積するということです。その失敗案件を自分のノウハウにすることができれば、次に失敗することはありません。
ところが、失敗をした人間をクビにしたり左遷をしたりしたら、会社としてのノウハウが溜まっていきません。
─ 井上さん自身、若手時代に失敗はあまりなかった?
井上 若い時には青ざめたことは何度もあります。ただ、「人生を棒に振ってしまった」と思うような危機でも、必死に考えることで解決策は出てくるものです。そうして損失を防いだり、最小化したりという経験を繰り返してきました。大事なことは逃げないことです。
─ 社員への賃上げも重要ですが、考え方を聞かせて下さい。
井上 賃上げは継続的に進めています。我々が手掛けている全てのセグメントの業界のレベルに合わせてベースアップをしていくというのが、基本的な方針です。
─ 先ほどの人材の流動化の流れで、一度辞めて戻ってくる人もいますか。
井上 いますね。外で勉強して、外の風を受けた人間は、やはり一皮むけて戻ってきてくれています。
また、社内にいる時に会社に不満を感じていても、一度他の会社を経験することで、オリックスの自由さを実感して戻ってくるという人もいます。その意味で出戻りは大歓迎です。待遇も、元からいる人間と差別することはしません。
─ 女性社員の比率はどのくらいですか。
井上 4割以上です。ただ、私は女性、男性で分けて社員を評価することはしません。しっかりとした成績を上げる人が女性であれば、自動的に女性の管理職比率などは高まっていくでしょう。すでに多くの女性が部長としても活躍してくれていますが、今後はそれ以上上がってくる人材がたくさん出てくることを期待しています。
「金融の会社」か 「事業会社」か
─ オリックスは井上さんがCEOに就いた後の10年間で純利益が倍になっていますね。
井上 就任当時が約1800億円、今期の目標が3900億円ですから、確かに10年間で倍くらいになっていますね。
─ 市場からの評価をどう捉えていますか。
井上 満足はしていません。配当を高め、自社株買いも行っていますが、さらなる配当、ROEの向上を求める声は、投資家から常に出ています。
当社は銀行や生命保険などの金融事業があることで、投資家、アナリストも含めて「金融の会社」というカテゴリーで見られることが多く、その見方を変えるのは難しいと感じています。これが「事業会社」として見てもらえるようになると、PER(株価収益率)もPBR(株価純資産倍率)も上がってきます。
─ その意味で、会社の姿を常に発信し続けることが大事になってきますね。
井上 そう思います。そして何よりもしっかりと利益を上げて、配当を高めることが大事になると考えています。
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