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東京製鐵・奈良暢明の「アップサイクル」戦略とは?鉄スクラップから自動車鋼板をつくる時代へ

財界オンライン / 2025年1月6日 7時0分

奈良暢明・東京製鐵社長

「老廃スクラップ」の 活用にこだわって


「壊したビルや廃車から発生する鉄スクラップを、様々な用途で使える鋼材にしている。これをリサイクルではなく『アップサイクル』と呼んでいる」ーこう話すのは東京製鐵社長の奈良暢明氏。

 アップサイクルー。東京製鐵は、解体された建材などの「老廃スクラップ」を付加価値の高い鉄鋼製品へと循環させる取り組みを進めている。

 東京製鐵は、鉄スクラップを原料に鉄鋼製品を生産する「電気炉」の大手。世界、日本で「脱炭素」の動きが進む中、電炉は高炉法に比較して二酸化炭素の排出量が約5分の1に抑えられることから、有力な環境対策として改めて注目されている。

 東京製鐵の2004年3月期時点の年間の粗鋼生産量は約360万トン。これを2030年度には600万トンとほぼ倍増させる目標を打ち出している。なぜ、この数字を掲げたのか?

 日本の鉄鋼の蓄積量は約14億トンと推定される。また、年間約3000万トンの鉄スクラップが発生する。このうち、日本国内で消費し切れず、600~700万トンが海外に輸出されている。

「我々の現在の設備をフル稼働させると600万トン生産できる能力があるが、今はそこに達していない。貴重な資源を国内で循環できるようにしたい」(奈良氏)と考えた。

 今、日本の高炉メーカーも脱炭素に向けて急ピッチで取り組んでおり、その中では電炉を活用する動きも見られる。鉄スクラップの争奪戦が起きるのではないか?とも考えがちだが、奈良氏は「鉄スクラップには2種類ある」と話す。

 前述の日本で年間に回収される3000万トンの鉄スクラップのうち、約7割が、解体された建材などの「老廃スクラップ」、残りの約3割を、製品加工を通じて生じる「加工スクラップ」が占める。この「加工スクラップ」は製品加工に伴って出る端材などで、元の鉄のままの材質。

 鉄鋼製品は大きく、厚板、薄板、棒鋼・線材、建材、鋼管などに分類されるが、厚板や薄板といった鋼板類を電炉で生産するメーカーは少なく、使用する材料も鉄スクラップの中でも品位の高い「加工スクラップ」が使われることが多い。

 一方、東京製鐵は「それでは約7割の鉄スクラップが使い切れない」(奈良氏)と考えた。故に東京製鐵では、様々な元素を含む「老廃スクラップ」の活用にこだわって事業を展開している。その意味で他メーカーとは方向性が違うため、鉄スクラップの争奪戦にはなりにくい。

 東京製鐵は、1980年代後半、当時高炉メーカーの牙城とされた建設用鋼材「H形鋼」の販売でがっぷり四つに組んで競争し、今やトップシェアのメーカーとなった。

 そして今、これも高炉メーカーの牙城である自動車用鋼板の世界に足を踏み入れようとしている。23年10月には電気自動車(EV)開発のスタートアップ企業であるFOMMとの共同開発で、老廃スクラップをメインとする鋼材により、日本で初めてとなるEVのコンセプトカーを完成させた。しかも、同社のラインナップにない、軽くて強い「高張力鋼板」(ハイテン)について、実用的な使用を目指して製造。加工性も問題なく、無事にコンセプトカーに組み込まれた。

 FOMMと開発したEVでは、使用した鋼材の72%を老廃スクラップ由来の鋼材が占めた。もちろん、すぐには難しいが自動車用鋼材の7割を電炉材に置き換えることが理論的には可能だということが実証できたのだ。

 22年にはトヨタ自動車のレース用車両に東京製鐵の鋼板が採用されるという事例もあったが、現時点で同社の鋼材は自動車メーカー本体では使われていない。ただ、「興味を持っていただける企業はあり、研究を進めている。期待は高まっていると感じる」。25年には自動車向け鋼板の量産を目指している。

 脱炭素、グリーン化の流れの中で、新たな鋼材ブランドも打ち出した。24年7月にはグリーン鋼材ブランド「ほぼゼロ」の販売を開始。

 非化石証書(化石燃料を使用せずに発電された電力の環境価値を証明する証書)の活用と、製造時の再生可能エネルギーを組み合わせることで、製造時に1トン当たり0.4トン排出していた二酸化炭素を約0.1トンにまで低減した。

 太陽光発電の活用に向けて、電力会社との連携も進めている。九州電力は再生可能エネルギーの導入を進めたものの、安定的に受け入れられる電力量を超過することも多く、出力制御を余儀なくされていた。

 一方、東京製鐵は電力の安い夜間操業がメインだったが、昼間にも工場を稼働させることで、電力需要と見合う形を実現した。今後は、この再エネ由来のエネルギーを「ほぼゼロ」に活用することも視野に入れる。

 しかも、「ほぼゼロ」は通常の鋼材価格より1トン当たり6000円高く、グリーン鋼材としての付加価値を価格に反映させている。これは「二酸化炭素に価格がつかないと行動変容は起きない」という考えに基づく。

「ほぼゼロ」に対しては主に大企業からの需要を想定していたが、「お客様にPRしたい」という鋼材問屋からの反応もあった。業界全体の環境意識の高まりがわかるエピソードだ。

「皆様と『協働』することで自分達だけでは実現できない力が得られている」と奈良氏。日本に眠る「都市鉱山」の活用に向け、さらなる技術力、営業力の向上が求められる。

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