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エネルギー戦略の"現実解"となるか? JERAが英BPと提携した理由

財界オンライン / 2025年1月22日 7時0分

奥田久栄・JERA社長

世界的に脱炭素化へ向けた 動きがスローダウンする中…


「洋上風力発電事業を取り巻く環境は難しくなってきている。両社でどのように脱炭素の世界にコミットしていけるのか、洋上風力事業を発展させていけるのか協議した結果、スケールメリットにより競争力をつけていくことが大事だと判断した」

 こう語るのは、JERA常務執行役員の矢島聡氏。

 JERAがオイルメジャーの英BPと洋上風力発電事業の共同出資会社を設立する。両社の持ち分容量は開発中のものを合わせて合計13ギガワット。世界最大手のデンマーク・オーステッド、独RWE、スペイン・イベルドローラに次ぐ、世界4位の洋上風力発電会社となる。

 両社は2030年末までに、新たな発電所の開発資金として最大58億米ドル(約8700億円)を出資。まずは日本や北西ヨーロッパ、オーストラリアで先行する開発案件の推進に注力していく考えだ。

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 JERAは2019に英国と台湾のプロジェクトへの投資を通じて、初めて洋上風力発電事業に参入。2023年にはベルギー大手の洋上風力発電事業会社パークウィンドを買収するなど、洋上風力事業の強化を進めてきた。

 今後、再生可能エネルギーの主力電源になることが期待される洋上風力発電。だが、足元では資材高騰で各案件の採算が悪化。欧州では案件が巨大化しており、単独でプロジェクトを推進することが難しくなってきている。

 世界最大手のオーステッドは23年秋に米国の大型プロジェクトからの撤退を表明、他にもプロジェクトの撤退を決めた企業が相次ぐ。こうした背景から、原料調達などの価格交渉力や競争力の向上を目指して、今回の協業につながったのだろう。

「世界的に脱炭素化へ向けた動きはややスローダウンしていて、目の前のエネルギーセキュリティーを優先している。ロシアによるウクライナ侵攻なども踏まえてガス調達に走り、脱炭素も大事だけど、それ以上にエネルギー確保が大事だよねと。それでも、再エネとローカーボンフュエルの実現は脱炭素に向けて重要なので、苦しくとも歯を食いしばってやる」(矢島氏)

 また、同社は青森県沖日本海(南側)における洋上風力発電事業者に選定。東北電力やグリーンパワーインベストの3社で、発電出力61.5万キロワットの洋上風力発電所を建設し、2030年運転開始を目指している。今後はBPの知見やネットワークも活用しながら、再エネ拡大を図る方針だ。



 東京電力と中部電力が折半出資するJERA。2015年に設立し、23年度の売上収益は3兆7107億円。日本全体の約3割の発電を担う日本最大の発電会社だ。

 しかし、成り立ちが成り立ちだけに、火力専業の同社はもともと再エネ事業を手掛けていない。世界が脱炭素化へ向かう中で、同社にとっては、再エネを増やしつつ、主力の火力発電事業をいかに低炭素化していくかが最大の課題になっている。

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 2024年4月、同社は碧南火力発電所4号機(愛知県碧南市)で、世界初となるアンモニア20%の転換試験を実施。アンモニアは燃焼時にCO2(二酸化炭素)を排出しない。今回の実験は石炭専焼時に比べてCO2排出量を20%減らすというもので、同社は徐々に転換効率を高めていく計画だ。

 非効率な石炭火力に関しては、30年度を目途に停廃止する方針。その上で、高効率な発電所は、アンモニアへの転換や専焼化を進め、CCS(CO2の回収・貯留)などの技術を組み合わせていく。

 要は、火力発電の燃料を石炭から燃焼時のCO2排出量がより少ないLNG(液化天然ガス)へ、そして、中長期的には石炭やLNGを徐々にアンモニアや水素に転換することで、エネルギーの安定供給を果たしながら脱炭素化を実現する考え。

 社長の奥田久栄氏は「碧南は火力のゼロエミッション化のシンボル的な位置づけ。再エネの大量導入によって電力需給の変動量が大きくなると、調整電源としての火力の役割は高まる。どの電源にも強み、弱みがあって、単発で電源の良しあしを議論するのではなく、どう組み合わせていくかが大事」と語る。




「脱炭素に向けた 国民のコンセンサスが必要」


 昨年12月17日、資源エネルギー庁は、あるべき日本の電源構成を示した「第7次エネルギー基本計画」の素案を公表。2040年度に再エネ4~5割程度、原子力2割程度、火力3~4割程度とする見通しだ。

 ただ、23年度の速報値では、再エネが22.9%、原子力8.5%、火力が68.6%。日本は東日本大震災以降、原子力の稼働がストップし、火力への依存度が高くなっている。

 JERAにとって、世界が脱炭素に向けて動き出している中では、火力という従来の強みが弱点にもなりうる。それだけに洋上風力などの再エネ開発や火力の低炭素化は急務である。

 そうした中、奥田氏は「脱炭素に向けた国民のコンセンサスが必要。欧州のように電気料金が2倍になっても脱炭素を進めるのか、インフレ抑制を優先するのか。その辺の議論をきちんとするべき」と訴える。

 データセンターや半導体工場の新増設で電力需要の急拡大が見込まれる中、日本は生活に必要な電力をどう確保していくか。そして、近年、"トリレンマ"という言葉が叫ばれるように、安定供給・低価格・環境配慮が同時には成り立たない複雑な方程式をいかに解いていくか。

 足元の安定供給と将来的な脱炭素化の両立へ向けて、現実解を探るJERAの試行錯誤は今後も続きそうだ。

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