大東建託・竹内啓の「多角化戦略」、「自ら考え、行動する組織に」
財界オンライン / 2025年1月30日 19時0分
建築費が高騰する中で…
「我々の事業が関わっている要素は3つしかない。建築費、金利、家賃の相関関係で成り立っている事業」と話すのは、大東建託社長の竹内啓氏。
大東建託は賃貸住宅建設・賃貸住宅物件の一括借り上げ(サブリース)・不動産仲介を手掛ける企業。特に賃貸住宅管理戸数では2024年まで28年連続で業界首位に位置する。
業績は25年3月期見通しで売上高1兆8300億円、営業利益1200億円と前期比増収増益を見込む。24年度から始まった中期経営計画の中では、最終年度の26年度には売上高2兆円の達成を目標にしている。
だが、業界を取り巻く環境は決して楽観視できるものではない。建築費は高騰、金利は先高感がある中、家賃をどう設定するか、悩ましい課題でもある。竹内氏は「問題は、一般の消費者の方々が、どこまでの家賃をよしとして下さるか」と話す。
2年前と比較して建築費は5割増加しているが、大東建託は建築費の値上げを2割強に抑えている。それは急激に家賃を上げると特に地方の入居者への影響が大きいから。
その2年前から建築を始めた物件が、足元で完成を迎えているが、家賃水準は当時と比較して高い。ただ、東京など首都圏での入居は「問題ない」と竹内氏。このエリアの入居者には、例えば家賃が1万円上昇していても、今の相場だとして受け入れてもらえている。
しかし地方に行くと、例えば家賃が2000円高いと入居が決まらないといった形で、家賃上昇への感応度が高い。そこで家賃上昇の影響で生じた空室を埋めるべく、時に割引をするなど収益とのバランスを取りながら対策を打っている。
一般的に、賃貸住宅で入居者は賃料の未払いや退去時の原状回復費用に備えて、大家さんや管理会社に「敷金」を担保として預けているが、大東建託では敷金ではなく「クリーニング費」として明示し、その範囲内で原状回復することを謳う。
大東建託も、例えば汚れを落としやすい壁紙や、1枚ずつ剥がして交換できるフローリングを使用するなどして、自社の負担を抑える工夫をしている。
また、金利については確かに地方銀行でも貸出金利を上げるところが出てきているが、「金利は上がるけれども、貸出期間を従来の35年から40年、50年に伸ばすことでカバーするといった取り組みを進められている。これは追い風になっている」
その意味で、大東建託が手掛けている賃貸住宅のサブリース事業は、長期目線で展開できるところが大きい。賃貸住宅のオーナーは相続税として課税される土地などの資産を持つ人々。更地の場合は固定資産税の軽減措置が使えないが、賃貸住宅を建てることで土地には軽減措置が適用される。
「皆さん、ご自身の資産を次世代につなぐことを考えておられるので、短期の収益ではなく、長期の安定を求めている。地方銀行さんにとっても良質なお客様と言える」
その意味で、相続税の制度が現行のまま推移する限り、資産を持つ人々の賃貸住宅への需要は厚いということが言える。そのことを裏付けるかのように過去に大東建託を通じて賃貸住宅を建てたオーナーがリピーターとなり、2棟目、3棟目を建てているという。同社の年間受注件数のうち約7割がリピーターからのもの。「先輩方が長年積み上げてくれた信頼が、今の我々の事業を支えている」
管理戸数は130万戸を超え、前述の通り業界首位。さらに今は過去に自社で建てた物件の建て替え需要も出てきている他、他社物件の建て替え要望もある。このため、受注件数は安定的に推移している。
大東建託はZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の供給戸数が契約ベースで約8万戸、今期中に12万戸を超える見通し。ZEHのような環境対応住宅を建てる時には、各金融機関が金利優遇措置を取っていることもあり、オーナーからの注目度は高い。
新たな領域を いかに開拓するか?
ただ、日本が人口減少社会であるという現実は変わらない。大東建託が今後さらなる成長を図るにあたっては従来の事業以外の領域を開拓する必要がある。
その1つが「まちづくり」。自治体や地元企業との連携で社会課題解決につながる施設を設置している。例えば千葉県千葉市は、22年に環境省から「脱炭素先行地域」に指定されているが、そのうちの若葉区動物公園地区は「グリーン・ZOOエリア」となっている。このエリアは大東建託が運営事業者となって、「次世代再エネシェアリングタウン」づくりを主導。
ZEHの開発、大東建託出資による新電力会社を設立し、エリア内でエネルギーシェアリングやモビリティシェアリングを行うことが計画されている。「総合開発を進めさせていただいているが、これは自治体さんと連携しなければできない仕事」と竹内氏。
他にもグループ会社の「ケアパートナー」は現在28都道府県、183拠点で介護、看護、保育、障がい者福祉という4事業を手掛ける。
また、入居者専用アプリ「ruum」は、入居から退去までのサポート以外に暮らしに関する様々なサービスを提供するポータル機能も持つ。このアプリの活用で人と街、サービスをつなげていく。このまちづくりの形を「DKミライサークル」と名付けている。
他にも不動産開発事業として、まだまだ不足が叫ばれる物流施設を手掛けていることに加え、個人投資家向けに小口化した投資用マンションの販売、それらの物件でREIT(不動産投資信託)を組成して販売するといった取り組みも進める。
成長市場として海外展開も進めている。その市場は米国。「北米の西海岸では住宅が不足している」(竹内氏)として、カリフォルニア州に第1号案件として8棟、32戸の集合住宅を取得。これをリノベーションして再販する事業を展開する。カナダでの展開も視野に入れる。
新築が好まれる日本とは違い、元々中古住宅が活発に流通する市場で、リノベーションした際の価値の上がり方も大きい。新築よりも中古の方が行政の認可が降りるスピードも速い。
大東建託は業界の他社や他業界に比べて、在庫が少ないビジネスモデルを展開してきた。そのためROE(株主資本利益率)は高く、26年度までの中計の中では20%の達成を目指す。ただ、前述の物流施設や投資用マンションはどうしても在庫を抱えるビジネス。「ROE20%達成に向けて、どういう資金の回し方をしていくのがいいのかを検討しなければいけない」(竹内氏)
今後は銀行からの借り入れを活用することも検討している。これまでの実績から、銀行などからは低利で借り入れができる。大東建託は借り入れにあたっては、D/Eレシオ(負債資本倍率)で0.4%という規律を持っており、これに照らしながら判断する考え。
「体育会系」的な社風から いかに脱却していくか
大東建託はかねてから「営業力の強い会社」という定評がある一方、以前はそれが行き過ぎているのではないか?という指摘を受けたこともあった。竹内氏は、その会社をどのように変えてきたのか?
竹内氏は23年4月に社長に就任。入社から35年という生え抜きだ。「創業時から上場くらいまでの時期、ブランド力も資金力もまだ弱い中で会社を引き上げてきた創業者(多田勝美氏)の目標に対する執念の強さは素晴らしいものだと思っている」と振り返る。
当時の社風は体育会系の上下関係、長時間労働、創業者の強いトップダウンによる求心力というもの。
「それを今に引き継いではブラック企業というイメージで終わってしまう。働くのは社員。社員がいかに働きやすい環境をつくっていくかが、私に課せられた使命だと考えている」
社長として社員との距離を縮めるべく、社長室の中を見えるようにし、キャンプで使用するテントを設置。そのテントの中で社員と弁当を食べるなどして対話を進めている。
竹内氏は長く営業の世界で揉まれてきたが、例えば大きな声を出したり、強引にことを進めるような営業手法は取ってこなかった。それは社長になっても変わっていない。
「大きな声を出したりしなくても、人は目的、目標をしっかり示せば働いてくれる。社員のエンゲージメント(満足度)を高めることができれば、ある程度実績はついてくる」という実感を持っている。
手応えは出ている。例えば大東建託は21年度から「従業員エンゲージメント調査」を実施しているが、竹内氏が社長に就任する前は「BB」評価だったものが23年11月には評点59で「A」評価を獲得。中計では3年間で評点62という目標を掲げていたが、24年5月の調査で63.1と初年度で目標を前倒し達成した。「社員が働きやすさを実感してくれている表れだと思う」
会社で働くことを他人事ではなく「自分事」として捉えてもらうために、社員に「譲渡制限付株式」(RS)を付与。この取得のための特別奨励金を約68億円支給した。「社員も株主になる。自分のやった仕事が評価され、株式の評価も上がる。これで自分事になってくる」
これらの「人的資本経営の推進」は、現中計の中の柱の1つ。実は大東建託では創業以来「人はコストでなくキャピタルだ」という思想がある。「この創業者の考えを今、実現する時なのではないかと捉えている」
「逆ピラミッド」の 組織形態に
会社の「形」も変えてきている。かつてはピラミッド型で頂点に社長が位置し、上から一気に指示が伝わるような組織だった。それを今は「逆ピラミッド」にしようとしている。「それぞれの社員が自分事で考え、意見を言うことができ、その意見が集まって会社の方針が形作られるような組織にしていきたい」
24年元旦に発生した能登半島地震では、本社が指示を出す前に関東の支店の支店長や社員達が支援物資を集めて、自分達で車を運転して現地に運んだ。「自ら考えて行動してくれた。何も言わずとも今、何をしなければいけないか、現地の方々が何に困っているのかをきちんと捉えて取り組んでくれたことは本当に嬉しかった」
24年3月には賃貸住宅管理戸数で2位につける大和ハウス工業と連携して、両社グループ会社が管理する約189万戸の賃貸住宅やインフラを活かして、被災した賃貸住宅のオーナーや入居者に無償で貸し出すことなどを打ち出した。これはトップ同士の関係性から生まれた取り組みだが、トップダウンとボトムアップが噛み合ってきていることがわかる。
社員に、自分達の仕事は社会に役立つものだということを、改めて実感してもらうための仕事にも注力している。大東建託は、事業活動で消費する電力を100%自社発電の再生可能エネルギーにすることを目標とする「RE100」にも加盟しており、達成に向けて「バイオマス発電」にも参入。兵庫県朝来市で24年4月に4000万キロワットアワーの発電所を稼働させたが、これによって西日本の事業所で使用する電力を賄えるようになった。
前述の居住者専用アプリ「ruum」の新たな役割にも気づいた。能登半島地震発生直後、入居者の中で連絡が取れない人達も多かった。その際、「ruum」が持つ、地域を限定したプッシュ配信の機能を使って発信したところ、翌日7割の入居者の安否が確認できた。
大東建託は24年6月に50周年を迎えた。これを機に次の100年に向けたパーパス「託すをつなぎ、未来をひらく。」を策定。この策定にあたっては役員、支店長・社員それぞれでグループをつくって議論を進めたが、支店長・社員から出てきたアイデアがベースとなって完成。まさに「現場」の声を反映したものになった。これを今後、グループに浸透させていく。
竹内氏は今、大東建託グループ全体に向けて「ワンチーム」と訴えている。「グループ一丸でワンチームとなることが大事。そのエネルギーを結集した時に出る力はすごい」
会社の姿形を変えながら、いい部分はつないでいくー。竹内氏には絶妙なバランス感覚によるカジ取りが求められている。
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