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大和ハウス工業社長・芳井敬一「現場の健康を守ると同時に、今後日本を背負う若い人達の『働きたい』という思いにも応えたい」

財界オンライン / 2025年2月3日 12時30分

芳井敬一・大和ハウス工業社長

「決められた米国のルールの中でやっていく。それに対応できなければ出ていくしかありません」─芳井氏はこう話す。米国で第2次トランプ政権が誕生するが、「トランプ政権で仕事をするのは初めてではない」として、工夫しながら対応する考え。また、国内では人手不足が深刻化している。その中で働く人の健康を守りながら「社員や現場には働きたいという人が多くいる」という現実を示し、柔軟な働き方を模索している。芳井氏が目指すものとは─。


トランプ政権下での仕事は初めてではない

 ─2025年1月には、米国でトランプ大統領が再び就任します。米国内の対立、分断がさらに深刻化することが懸念される他、企業にとっては関税の問題もあります。この問題をどう捉えていますか。

 芳井 我々にとって重要なのは、トランプ大統領の政権の下で仕事をするのは初めてではないということです。確かに当時は金利は今よりも低かったですが、それ以外には何か特別なことはなく、対応できてきたのではないかと思っています。

 その意味では、新政権になっても、我々は決められた米国のルールの中でやっていく。その国が決めたことに対して対応できなければ出ていくしかありませんから、しっかり工夫もしながら仕事をさせてもらおうと考えています。

 幸い、米国のグループ3社(スタンレー・マーチン社、キャッスルロック社、トゥルーマーク社)の社長は米国人で現地の事情に精通しています。新政権でやるべきことに関しては、我々以上に準備をしていると思いますから、そこは彼らに任せて、意見交換をしながら進めていきたいと思います。

 ─ 海外事業は大和ハウス工業全体の売り上げのうち、10%以上を占めるようになってきていますね。

 芳井 ええ。海外事業の売上高約8000億円のうち、7000億円近くを米国事業が占めていますから、非常に重要です。

 ─ 先行き不透明な中でしっかり手を打っていくと。

 芳井 確かに不透明ですが、右か左、赤か黒といった形でどちらかに張って経営をするわけではありません。赤に行こうと思っていたけれども黒に変わらないといけない時もあるでしょう。

 潮目、変わり目、時代をしっかり読むことが大事になります。学ぶことも大事になりますから、基本的な考え方について意見交換をすることが必要になると考えています。

 ─ 大和ハウス工業は事業を進化、変化させ続けてきました。現在は大きく6事業で展開をしていますね。

 芳井 そうです。戸建住宅、賃貸住宅、マンション、商業施設、事業施設、環境エネルギーという6事業、チームで事業展開しています。

 今後も、この6本柱で行くのかというと、すぐには柱にはならないかもしれませんが、例えばベンチャー企業を支援したり、社内で自分たちで独立して会社を立ち上げたい人間を募集して、今はその審査をしています。その意味では、先々が楽しみだなと思います。

 ─ 大和ハウス工業には創業者・石橋信夫氏が掲げ、前会長の樋口武男氏が引き継いだ「創業100周年の2055年に売上高10兆円」という目標がありますね。その達成に向けては?

 芳井 今の事業だけで、創業100周年の売上高10兆円は超えられるとは思っていません。どこでどういうものが出てくるか。海外事業や、環境エネルギーもそうやって新しく出てきて、今育っています。


人手不足問題にどう対応するか?

 ─ 日本全体の課題として人口減、人手不足があります。改めてどう対応しますか。

 芳井 まず、外国人労働者が来てくれるということは、ほぼないような気がしています。為替の円安もあり、彼らが日本に来るメリットがそれほどありません。

 日本政府が様々なハードルを下げたりしてくれていますが、なかなか難しいと実感をしています。

 やはり、時間外労働の上限規制である「2024年問題」の中で労働時間が大切だということはよくわかっていますが、一方でもう少し働き方に柔軟性が欲しいなと思っています。

 現場でもそうです。我々は現場の人達に対しては「しっかりと時間管理をして下さいね」という話をしています。逆に、「もうこれ以上働かないで下さい」ということが本当にいいのかも含めて考える必要があります。

 当然、健康を守ることは何よりも大事です。しかしながら、今後日本を背負っていく若い人達の「働きたい」という思いにどう応えていくか。もっと柔軟な対応が必要ではないかというのはそういう意味です。

 ─ 現場からもそういう声が出ているんですか。

 芳井 働きたいという人達はたくさんいます。今日納めなければいけない仕事を、明日まで延ばすわけにはいきませんから。もちろん、厚生労働省さん含めて、一生懸命考えてくれていますから、裁量労働制も含めて、今後に期待するところはあります。

 ─ 女性活躍の現状はいかがですか。

 芳井 非常に頑張ってくれている人が多いですね。一方で「自分はこのくらいでいいかな」と思っている人がいるのも現実です。このギャップがなかなか埋まらないんです。

 ただ、主任職は増えていますし、現場の工事監督を務める人もたくさんいますから、今後に期待をしているところです。


成長する米国でどう事業を進めるか?

 ─ 先ほどの米国事業ですが、経済は危うい部分も孕みながらも成長を続けていますね。

 芳井 そうですね。事業の基本は米国のために、米国の人達がどう考えるかということを後押しするのがいいのではないかと思っています。

 事業に関しては、例えば私は日本で住宅生産団体連合会(住団連)の会長を務めていますが、業界として政府と交渉することがあります。日本で住宅を購入する人達のために、政府にお願いしているわけです。

 その意味で、米国の人達が建てる住宅に対しては、現地のメンバーを信じてやっていってもらう方がいいのではないかと考えています。

 ガバナンスについてはCFO(最高財務責任者)や外部有識者の目線も入れています。ガバナンスの充実に向けて、さらに精度を上げていきたいと思います。

 ─ 米国での事業エリアも広がってきていますね。

 芳井 ええ。これまでにテキサス州、イリノイ州、マサチューセッツ州、ワシントン州、テネシー州、アリゾナ州で賃貸住宅事業、ニューヨーク州で分譲マンション事業、カリフォルニア州で商業施設事業、テキサス州で物流施設開発に着手しています。

 北西部(シアトル)から南部(ヒューストン)、東部(ワシントンD.C)にかけての「スマイルカーブエリア」で取り組むということです。

 24年11月には米国で賃貸住宅事業を行うアライアンス・レジデンシャルに出資し、事業提携しましたから、今後賃貸住宅にも力を入れます。

 25年以降、米国で「ミニ版大和ハウス工業」への一歩が踏み出せるのではないかと考えています。やはり成長する国、人口が増える国は強いと感じます。

 ─ 欧州やアジアの状況をどう見ていますか。

 芳井 欧州はロシア・ウクライナ戦争の問題が継続していますから、経済の動きはよくないですね。

 ただ、英国のロンドンは住宅需要が強いですし、ドイツやオランダは学生寮を含む賃貸住宅需要が強いですね。こうした欧州の需要に対しては、オランダに欧州現地法人を置いて、各国でのプロジェクト単位で進めています。

 今後は事業領域を広げたり、M&A(企業の合併・買収)した会社をどう成長させるかを考えています。

 アジアは難しいと感じています。法律はもう少し整って欲しいと思いますし、なかなか許認可が下りてこないという現実の問題があります。

 そして最大のマーケットである中国がどう動くかも鍵です。現状について、いろいろな人に話を聞いていますが、例えば上海にしても、昔の上海ではなく厳しい状況だと言われます。その中で我々がどういう役割を果たし、中国の人達に受け入れてもらえるか。

 今マンションを2棟販売していますが、その次の物件が見えていません。この2棟の売れ行きを見て、チャンスがあれば上海周辺で手掛けていきたい。中国市場を慎重に見ていますが、お客様は我々が手掛けた建物を選んで下さっています。この流れを止めたくはないですね。

 ─ 物流施設やデータセンターの需要は引き続き旺盛ですか。

 芳井 まだまだ伸びるだろうと思っていますし、需要が強いですね。一方で、建設費が上がり、働き方改革もあってなかなか仕事が請けられない、工期が長期化しているというのが業界全体の状況です。

 その中にあって、我々が自社開発ができるという強さを、改めて実感しています。自分自身で土地を仕入れて、物流施設やデータセンターを開発していくというモデルを進めていきたいと考えています。

 また、これまでデータセンターは物流施設のチームに属していましたが、組織を分けることを考えています。自社施工ができるようになったことで、さらに強みを生かすことができると考えています。

 ─ データセンターは非常に電力を使用する施設ですね。国全体としてエネルギーをどう確保していくか、そして脱炭素をどうしていくは非常に重要な課題です。

 芳井 我々も再生可能エネルギーを手掛けていますが、データセンターで活用するとなるとなかなか難しい。その意味では再生可能エネルギーを追求するのと同時に、原子力発電の活用も必要になるのではないかと考えています。

 国として、電力需要をどうしていくかをしっかり考えていただく必要があります。このエネルギー問題は、日本の実力が試されます。オールジャパンで、いろいろな人の頭脳を結集して考えていただけるものと期待をもしています。

 ─ 戸建て住宅の木造化にも力を入れているそうですね。

 芳井 木造は基本的には分譲住宅を中心に使用しており、「Comfort Wood(コンフォートウッド)」というブランドで展開しています。

 27年度には国内の注文住宅と建売住宅を合わせて1万棟の販売を目指していますが、そのうち5割以上を木造にしたいと考えています。


同じ方向を向いていれば登り方は自由でいい

 ─ 芳井さんが社長に就任して7年が経ちましたが、嬉しかったことは何ですか。

 芳井 嬉しかったことはたくさんあります。その中でも21年12月、国土交通省近畿地方整備局から、社員が工事監督の国家資格「施工管理技士」を不正に取得していた問題で営業停止処分を受けたことがありましたが、1カ月間、営業を止めたにもかかわらず、22年3月期の決算が過去最高益でした。

 この時に、いろいろな社員から「Our Boss」というメッセージをもらったんです。「どんなことがあろうと、あなたについていく」と言ってもらえた。これには感動しました。

 ─ 芳井さんから見て、どういう社員が伸びていますか。

 芳井 努力していることが第一です。そして問題意識を持っている。現状に対して不満を抱いていない。不満から物事を見ていると、そこに理由をつくってしまうんです。質問を聞いていても、それは伝わってきます。

 ただ、みんなが同じ色に染まったら面白くありません。大和ハウス工業という石橋オーナーがつくってきた風土は、1つの方向に向いていれば、山の登り方は自由でいいというものです。

 直線的に登る人がいれば、少し回り道をする人もいる。でも、目指している方向は同じというのが、会社にとって一番いいと思っています。

 ─ 25年で70周年を迎えますね。

 芳井 節目として大阪で「大阪マルビル」を建て替えますが、記念事業でもあります。発表したところ、大阪中が驚いてくれましたが、皆さんがマルビルを支持して下さっていたんだなということが実感できて嬉しかったですね。

 大阪商工会議所さんや各自治体さんが様々なことを検討していますが、今後、マルビルから南にどんどん発展していくことを期待しています。

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