【政界】年明け通常国会でも苦境は必至 3野党との合従連衡で切り抜け図る石破首相
財界オンライン / 2025年1月28日 15時0分
2024年10月の衆院選後初の本格国会となった24年末の臨時国会を、首相の石破茂は何とか乗り切った。武器は「のらりくらり」「ぬめぬめ」「石破構文」とも揶揄される予算委員会での「答弁力」。どの勢力も衆院の過半数に達しない「日本版ハングパーラメント」で各勢力がにらみ合いを続ける中、「不思議な安定」を続ける石破政権。1月召集の通常国会と、その手前に想定されるトランプ新大統領との首脳会談でその胆力が試される。
宙づり国会の「妙味」
12月24日夕の記者会見で石破はこう振り返った。「このような国会は与党も野党も初めての経験でしたが、言いっぱなし、あるいは聞きっぱなしではない、本当にお互いに議論をするという意味での『熟議』になったと私は思っているところでございます」
その上で、通常国会への意気込みをこう語って冒頭発言を締めくくった。
「ハングパーラメント、日本語に訳せば『宙吊り議会』ってことになるんでしょうか。その妙味を最大限に生かしながら、多くの方々のご意見を聞いて、目指すべき日本を確立してまいりたいと考えております」
通常国会は1月24日に召集される見通しだ。最大の課題は25年度当初予算案の成立。石破政権は、野党を取り込まなければ達成できない。
衆院定数は465で過半数は233。自民は無所属を含め196人(議長除く)で会派を組み、公明の24人と合わせても220人。過半数に13人足りない。逆に言うと148人(副議長含む)の立憲民主党、38人の日本維新の会、28人の国民民主党のどれか1党だけでも取り込めば、過半数に達する。
3野党はそれを十分に意識している。維新共同代表の前原誠司の閉会日の記者会見での発言がそれを示している。「一定程度の規模を持つ野党の協力がなければ、法案も予算も1つも通らない、今までとは全く違う環境になっている。我々の果たす役割は極めて大きい」
ミソは「一定程度の規模」だ。立憲、維新、国民の3つの「一定規模」の野党それぞれが、他党の抜け駆けを警戒する。通常国会は、近年まれに見る合従連衡の駆け引きが展開されるだろう。
合従連衡は古代中国で7つの国が覇を競った戦国時代が起源だ。後に中華を統一する秦の国力が伸張した時期に、残り6国が縦(従)に合わさって秦に対抗する合従策と、秦がその「連」にくびき(衡)を打ち込み分断する連衡策が入り乱れる乱世だった。
中国戦国時代は始皇帝による中華統一で幕を閉じるが、現代日本政界では1993年と2009年に野党の合従で自民党が下野に追い込まれた。25年最大の政治決戦は7月20日投開票と見込まれる参院選。野党は合従策での政権交代を念頭に置く。一方の与党は連衡策で野党を分断して予算と税法を成立させた上での政権維持を図る。
自民による連衡策には実績もある。新自由クラブや、自公民路線下での民社党、自社さ政権を組んだ社会党と新党さきがけが想起される。今やいずれも跡形もない政党だ。自民の連立相手で今も残るのは、極めて強固な支持基盤を持つ公明党だけだ。このため歴史の浅い維新と国民民主が、自民との連携に抱く警戒感は強い。
補正では「1勝」
通常国会の展望を考えるには、今後の展開の雛形が全て内包されている臨時国会を振り返るのが最適だ。臨時国会での政権側の「星取表」を示すと、補正予算成立では連衡策で勝利した一方、「政治とカネ」では野党の合従を崩せず敗北。「103万円の壁」を巡る税制は結論が先送りされた。「1勝1敗1分け」と言えよう。
まず「勝」の補正だ。
与党は当初、所得税がかかり始める「103万円の壁」の引き上げを主張する国民民主を取り込み、その賛成での補正成立を目論んでいた。だが「手取りを増やす」のキャッチフレーズで躍進した国民民主は、自公の小幅の譲歩を相手にしない。自民内には「国民民主の壁」との嘆きも生まれた。
難局を打開しようと与党は水面下で立憲に接触する。「野党の顔」を奪われていた立憲にも渡りに船だった。妥結点は、24年度当初予算の予備費から1000億円を能登復興に充てる修正案を自公が提出し、それに立憲が賛成する「国対テクニック」を駆使する内容だった。
妥結案のミソは、委員長を立憲の安住淳が務める衆院予算委員会での採決を平穏に行えることだ。委員長という重責を担う立憲も、大義名分のない審議遅延を図れば自らに批判が及ぶ。立憲は自公修正案に12月12日の予算委で賛成しつつ、それが合わさった補正本体には、その後の衆院本会議で反対する形で「与党に取り込まれていない」というポーズを確保した。
慌てたのが国民民主だ。12月10日の夜から「立憲が補正に賛成しそうだ」との情報が回り始めた。実際には賛成はしなかったが自民と立憲が連携すれば、国民民主は不要になる。急きょ12月11日に自公国3党の幹事長会談が開かれ、「178万円を目指して、来年(25年)から引き上げる」との文書を交わし、国民民主は補正賛成に回った。
この展開を見て維新は焦った。維新は12月1日に大阪府知事の吉村洋文を新代表に選出するまでレームダックが続き、38議席を持ちながら存在感を示せていなかった。さらに補正で立憲、国民が成果を手にする中、維新が単に反対しては「共産党と同じ」(維新議員)になってしまう。
吉村が指名する形で共同代表となった前原は弥縫策に出た。維新が掲げる教育無償化を巡り自公と協議を始める合意をもって補正賛成に回った。維新内では「この程度で賛成に回るのか」との不満も漏れ、前原が「私は共同代表になってまだ10日」と釈明したという。
この駆け引きでは立憲が野党の看板を国民民主に奪われ、維新がレームダックだったことが自民に幸いした。連衡策が奏功しやすい環境だったのだ。これが、その次の焦点となった「政治とカネ」では一変した。
「政治とカネ」で敗北
「政治とカネ」では各党提出の9本の法案が乱立。会期が短い上に企業団体献金など容易でない問題もあり、論点は政治活動費全廃に絞られていた。使途公開も領収書も不要の「渡し切り」が認められる支出が裏金問題の原点だとして、野党だけでなく公明も全廃を主張。それでも自民は「外交など支出先を知られてはならない場合もある」として一部を非公開にできる仕組みを残そうとした。
当初は「要配慮支出」との名称で、次は「公開方法工夫支出」に変えたが総スカンを食らった。法文に「工夫」という文字を入れることには自民内でも「本気なのか」との声が漏れるほど。結局、全廃を明記した野党案に自民も賛成する「ベタ折れ」(自民国対幹部)を余儀なくされた。
さらに企業団体献金についても12月16日の自民と立憲の国対委員長会談で、25年3月末までに「結論を得る」との合意が交わされた。自民は通常国会会期末を意識した「6月」を示したが、立憲が応じなかった。このため、25年3月末には、26年度予算案の成立の可否と、企業団体献金の「結論」という極めて高いハードルが石破政権を待つことになる。文句なしの自民敗北と言えるだろう。
「引き分け」は「103万円の壁」を巡る協議だ。12月11日の幹事長会談で「178万円を目指す」ことが合意された際、与党側は「今回は130万とか150万で妥結し、178万円は数年後」との相場観だったが、国民民主は今回での実現を主張し続けた。
12月17日の自公国3党協議では、与党が提示済みの「123万円」からの上積みがなく、国民側は10分で退席して「協議は打ち切り」とメディアに発信した。国民にとって衆院選での躍進の原動力は、組織化されていない「民意」。一歩でも引けば「来夏の参院選で失速する」(若手議員)との恐怖感があった。
結局、与党は「123万円」を譲らず12月20日に与党税制大綱を決定。さらに維新と教育無償化の協議を深める動きを見せた。これに国民民主は慌てる。急きょ12月20日に再度の自公国3党幹事長会談が開かれ、「引き続き誠実に協議を進める」との「確認書」が交わされた。
「壁」を定める税制関連法案が審議されるのは衆院財務金融委員会。2月に審議され、ここでの「公開修正協議」が双方の念頭にある。自民幹部は「だからゴールは来年(25年)2月末」と語る。駆け引きは越年することになった。
都議選、万博も影響
通常国会での石破政権の連衡策は何か。「一定規模」の3野党それぞれの強みと弱みを活用するだろう。
立憲は「政治とカネ」で自民を攻め続ける。6月22日と見込まれる東京都議選に、都議会自民党の裏金問題が直撃することも取り沙汰されている。これに対し自民は衆院の小選挙区を見直す選挙制度改革という目くらましを浴びせる可能性がある。
維新の弱みは4月開幕の大阪万博だ。先行きの怪しさにつけ込んで政府支援をちらつかせ、当初予算への賛成を迫る権謀術数が通用する余地がある。国民民主との材料はもちろん「壁」の引き上げ幅だ。
野党は選択的夫婦別姓で自民党の混乱を仕掛ける。野党はほぼ一致して賛成なのに対し、自民は党内保守派が断固反対だ。野党の議員立法を審議することになる衆院法務委の委員長は立憲の西村智奈美。法案が出れば審議日程を差配できる。野党主導での自民党内政局の可能性すらあるのだ。
こうした合従連衡が予想される中、外交の焦点は石破トランプ会談だ。トランプは1月20日の就任式を経て正式に大統領職務を始める。本稿執筆時点では、石破ら首相官邸は国会日程に影響が出ない就任前訪米でトランプとの会談を済ませたい意向だが、外務省は「それでは通訳しか入れないしリスクが大きい。合意文書も作れない」と抵抗している。通常国会の開会日は24日の見通し。「就任後の日米首脳会談」の可能性もギリギリ残る。
少数与党の通常国会と外交。石破は新年早々から胆力と構想力が試されている。(敬称略)
【政界】待ち受ける難関をどう乗り越える?「不思議な安定」を続ける石破首相に問われる突破力
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