久保利英明の【わたしの一冊】『ヒルビリー・エレジー』
財界オンライン / 2025年2月2日 11時30分
トランプ現象を支えた錆びた工業地帯の白人の実像
日本のマスメディアは米国大統領選を読み間違えた。この30年間、米国は豊かで世界の平和と人権の擁護者であると日本人は信じてきた。しかし、思いも掛けず「米国で最も厭世的傾向にある社会集団は白人労働者階層」であると、トランプ大統領の下で副大統領を務める著者は言明する。
本書はスコッツ=アイリッシュ系に属し、オハイオ州ミドルタウンで生まれ、2013年にイェール大学ロースクールを卒業して弁護士となったヴァンス氏が、まだ上院議員にもなっていない2016年に著し、300万部を超えたベストセラーである。
彼はアパラチア山脈南部の丘陵に住むヒルビリー(田舎者)と自称する。著者はイェールでは楽しく暮らし、ヒルビリーに疎外感を感じたものの、自分の生まれ育った環境や家族関係を顧みたとき、民主党的なオバマ氏やインテリに対しては隔絶した思いを抱いていたとも述べている。そんな彼がオハイオ州上院議員から副大統領に登り詰めた。
トランプ勝利の原因は、多くの貧しい人たちにとって、唯一の期待がトランプ大統領だったのではないか。トランプ氏を支持した白人とはWASP(ワスプ=ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)ではなく、貧しい白人労働者階級であり、同時に貧困に苦しむ黒人・ヒスパニック・インドアジア系の労働者階級であった可能性が高い。そうでなければ、共和党が(大統領職、上下両院の多数派を占める)トリプルレッドを獲得し、激戦州全てで勝利した説明が付かない。
トランプ支持層と接点をもたず、WASPやインテリ層が支配する米国メディアからの情報に頼って判断した日本のマスメディアにはその現実認識が欠けていたのだろう。米国はその深部において、日本人が形成してきた米国のイメージから遥かに隔たっていたのだ。
これからの日米関係を読み解く上で、繁栄から取り残された米国人の深層心理をえぐる本書は欠かせない副読本となろう。
冨山和彦の「わたしの一冊」『團十郎の歌舞伎案内』
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