たねやグループ社長・山本昌仁の近江流経営哲学 「マイナスをプラスにしてこそ商人」
財界オンライン / 2025年2月4日 11時30分
原材料をいかに有効に使うか
「小豆がすごく不作になっているのが心配。栗は台風で落ちてしまうと虫食いが多くなり売り物にならない。増加する自然災害は非常に悩まされている」と話すのは和・洋菓子店を全国展開するたねやグループCCEOの山本昌仁氏。同社は近江八幡発祥の153年続く企業で、現在は和菓子の「たねや」と洋菓子「クラブハリエ」を全国展開する。グループ全体での売上は約200億円、社員数は2000名で、グループ全体では和菓子屋の老舗「虎屋」と並ぶ規模にまで成長している。
昨今の気候変動で農家は従来通りの生産ができず、価格高騰が止まらない。キャベツが一玉1000円という異常事態も発生し、冷蔵庫の常備野菜でさえ手が届かなくなり物価状況は深刻。家庭の基礎調味料であり、菓子屋の商売にも欠かせない砂糖も、2024年1月には43年ぶりの高値水準となった。
この環境下でたねやグループは商売の仕方を大きく変化させている。同社はこれまで原材料の農産物はS級と呼ばれる最上級の状態のものだけを仕入れていた。農家はそれ以外のB級、C級品と言われるものは他のルートに回していた。山本氏はこの方針を変えることを決断した。
「10年程前からたねやの考え方は、形の良い悪い関係なく、農家から全数をいただく。一所懸命育てたのに気候変動で少し傷がついたくらいで、味は全く変わらない。加工する側が適材適所に振り分けて使用することこそ、お菓子屋の出番。それができなければお菓子屋失格だと思っている」と山本氏は話す。
全数買い取るという方針に変えたことで、気候変動が激しい中でも農家は安心して生産ができるようになる。これまで農家のプライドから少しでも傷がついたものは安売りするか廃棄に回すかで、売り物にしていないものが多かった。全て売り物にできるということで、農家は泣いて喜んでくれるという。
山本氏がフードロス問題に熱を入れるのは、10年間の職人修業時代に、当時の60代70代の師匠たちからの教えが根底にある。原材料を捨てるようなことがあれば帰らせてもらえないほど厳しかった。
「東京と姫路で2名の師匠のもとで修業しましたが、師匠はたとえ失敗した場合でも別のお菓子に使うという代替案を持っていて、絶対にゴミを出さない。鍋に入ったクリームを移し替える時にも、数ミリでも跡を残さない。素人がやると線が残ってしまうのですが、『綺麗になるまでそのボールは持っておけ』『道具に残った小豆でお菓子が一つ作れるんだ』と2人とも同じ教えでした。材料や道具を雑に扱う者には良いお菓子はつくれない。そういうことを叩き込まれましたね」と振り返る。
八百万の神信仰のある日本では、全てのものに命が宿るという考え方から物を大切に扱うという思想が当たり前の感覚であったが、いつしか大量生産・大量消費社会の中で見失ってしまったのかー。
食品業界では、生産数の8割を売り、残り2割はロスになる前提での営業戦略や、ロスを盛り込んだ価格設定を行うところも多い。山本氏はいわゆるこれがフードロス問題の諸悪の原因だと指摘し次のように続ける。
「捨てることを前提とするのは、小豆一粒、米一粒、大変な思いでつくっている生産者を踏みにじる考え方で、絶対に許しません。お金を払い購入したものであれば何をしてもいいということではない。100あったら100お客様に届けるのがプロ」
原料に依存するのではなく、知恵をつかい、農家、地球との共存共栄の精神がここにはあるといえる。
マイナスのものをプラスに発想してこそ商売人
食の西洋化、後継者不足もあり和菓子屋は廃業や倒産が増加する中、たねやはなぜ成長を続けているのか? 一つの特徴は「職人しか知らない味」を商品化し、差別化している点にある。
例えば、最中は、皮と餡を合わせた瞬間が一番パリッとして美味しい状態だが、これは従来作り手の職人しか知らない味であった。最中は餡を内包した状態で販売するのが全国でも常識。それをそれぞれ個包装して、食べる直前で合わせるという業界初の商品を開発。味わったことのない最中は消費者に衝撃を与え、大ヒット商品となった。
カステラでも、いわゆる"カステラの耳"と呼ばれる切り落とした端の部分は、実は蜜が濃く美味しい部分なのだが、これを食べられるのは作り手の職人やお菓子屋の息子の特権であった。それを山本氏は一般の人にも食べてもらいたいと商品化。朝だけの限定販売で売り出したところ、飛ぶように売れている。これまで価値が見過ごされていたものが、顧客に新しい体験をもたらす商品に変わったのだ。
「これをよくお菓子屋さんがやるのは、端材だからといってビニール袋にたくさん入れて安売りすること。そうではなく、お客様にここの部分にはこういう美味しさがあるということをきちんと伝えて価値を感じてもらう。一見マイナスのものをプラスに発想するのが商売人として絶対に大事なこと」(同)
同社はこれまで業界になかった商品開発を次々と行うことで事業を拡大し続けている。正確な商品数は社内でも不明。その同社の本質的な使命"食べて美味しいお菓子づくり"の裏側には、近江商人の"売り手よし、買い手よし、世間よし"の「三方よし」の考え方が支えていた。
「美味しい材料をより良く加工し、人々に届けることがお菓子屋の使命」だと山本氏は自らの社会的な存在意義を語る。
「価値を伝えきること」ー。山本氏が重要視し実行している基本軸にはこの概念がある。日本企業には世界中の人が喜んで欲しがる良いものが多くあるが、その価値を丁寧に伝えきれていないことも多いのではないか。
同社は近江八幡という地からお菓子作りを通して全国にその思想と重要性を伝えている。
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