【私の雑記帳】『財界』主幹・村田博文
財界オンライン / 2021年7月3日 11時30分
科学技術には光と影が…
「科学技術にはLights and Shadows、つまり光と影があるけれども、やはり光をうまく出していくことが、逆にShadows(影)をマスクする一番いい方法であるわけです。パンデミックの克服という課題に直面している中で、例えばAI(人工知能)をどういうふうに使っていくか。この辺は一番重要な問題だと思います」
こう語るのは三菱総合研究所理事長の小宮山宏さん(トップレポート参照)。
光と影──。物事には、常にこの問題がつきまとう。プラスになると思っていた事が、同時にマイナス面を引き起こしているという現実の認識から出発、解決策を導いていくほかないということ。
「グローバルな競争と言うんだけれども、やはりスピードが速すぎるのだと思うんですよ。こんな早いスピードで社会が変化していくことは想定されてないですよね」と小宮山さん。
デジタル革命がその変化のスピードをさらに加速させる。そこで格差も生まれ、生き残れないと思う人々との間で摩擦も生ずる。
課題先進国・日本として
物事には二面性がつきまとう。その中で、どう〝解〟を見出していくか?
「だから、グローバリゼーションのいい点もあるし、国連もつぶしていいとは思わないけれども、やはり国家というものがあって、国境を守って、人の移動などもある程度コントロールしながら、自分の国の中のことを考えていく体制でないと持たないのじゃないか」と小宮山さんは語る。
『「課題先進国」日本』や『〝多様なナンバーワン〟作り』といった著書のある小宮山さんは、必ず課題解決の方法はあるという信念の下、いろいろな提言をしておられる。
本号では、その視点で情報発信していただいた。こうした課題を、『財界』誌は読者の皆さまと共に考えていきたいと思う。
平井卓也さんの『つなぐ』
デジタル社会の本質とは何かと言えば、「それは、つなぐこと」とズバリ語るのはデジタル改革担当大臣の平井卓也さん(1958年=昭和33年生まれ)。
メディア関連の民間企業の出身者らしく、政府と地方自治体、自治体と地域住民をつなぐ、もっと言えば政府と国民との対話のパイプを太く、そして密にする──という意味での『つなぐ』であろう。
昨年9月に菅義偉内閣が発足し、日本の最大課題の1つ、デジタル化の遅れを挽回すべく、その旗振り役にと菅首相から指名されたのがこの人。
いま、デジタル庁設置のための〝準備室〟には約100人の職員が働いているが、すでに民間から30数人が入り、民間の知恵を使って働いている。
2001年、IT基本法がスタートしているのに、IT戦略は遅々として進まなかったと言ってもいい。
切り札のマイナンバーカードもその必要性がいわれながら、なかなか浸透しない。
国民の側が、個人情報が抜き取られるのではないかという懸念を持ったりしたのも、遅れを取る理由になった。
「マイナンバーカードのICチップに入っているのは、基本4情報だけ。氏名、性別、住所、生年月日の4つです。マイナンバーカードは健康保険証や運転免許証などのデータベースにアクセスするための鍵です」
マイナンバーカードそのものには何も情報は入っておらず、アクセスのための『鍵』だという平井さんの説明。こうした分かりやすい話は国民にとっても浸透しやすい。
コロナ危機では、ワクチン接種の遅れなど、いろいろな課題も浮き彫りにされた。デジタル庁設置で、『つなぐ』機能が加速されることを期待したい。
武士道ならぬ『デジ道』で
そのデジタル化をどう進めていくか──。中国共産党独裁下の中国など専制主義国は上意下達で政府の命令一下、社会のデジタル化が急速に進む。
デジタル化のやり方にも、その国の有り様が関わってくる。デジタル化の進展で、一部の人は富み、そうでない人との格差も生ずる。日本はこの問題をどう考えるか?
米国も中国も、そうした格差が生まれるのは止むを得ないという空気があるが、日本は、「困っている人がいたら、助けていこうという精神です」と平井さん。
「これは、村井純さん(慶應義塾大学教授)とも話し合って決めたんですが、日本は『デジ道』で行こうと。困っている人は放っておかないということです」
新渡戸稲造の『武士道』は日本人の精神規範ということで世界に知られる。国民の中で、本人が忘れかけていた事も、こうなっていますよと政府の側から通知することを含めて、〝官〟の仕事をも促していきたいという『デジ道』である。
河北博文さんの行動
非常時体制をどう構築するかという命題──。日本は、有事での対応が鈍いことは、今回のワクチン接種でもはっきりした。
社会運営のガバナンス(統治)能力が弱いということだが、官(政府や自治体)が先導するのはいいとして、もっと民間の力を活用してもいいのではないのか。
地域医療の観点でみると、東京・杉並区は官民連携がうまくいった例。この地区には社会医療法人河北医療財団が運営する河北総合病院がある。同病院は407ベッドあるところを昨春、82ベッドをコロナ患者に振り向け、即応態勢を取った。
理事長の河北博文さん(1950年=昭和25年生まれ)は医療改革に熱心に取り組む医師としても知られる人。
軽症から中等症の患者を積極的に受け入れ、重症者も治療しているが、基本的に重症者は大学病院などの専門病院で診てもらえるような連携プレーを実行。
まず、地域医療の充実のために、河北総合病院と荻窪病院、佼成病院の地域の3病院が連携し、杉並区長に、「区民のために迅速な医療を実行していくので、区民病院として扱ってしい」という要請も行った。
区との連携、病院間の連携を病院経営者自らがリーダーシップを取って行動したということ。
河北さんは、「もう政治や行政が本当に人を紛らわせるような無駄をしないこと、そしてわれわれ(医療従事者や国民)は自分で考えて行動することが大事だと思っています」という考えを示す。
人が人らしく生きる、また、その人がその人らしく死んでいく社会をつくるにはどうすればいいか──。社会の仕組みの変革も必要だ。
「その人に寄り添う家庭医の存在が大事」と河北さん。コロナ後にもつながる医療のあるべき姿を求めて、今日も行動する河北さんである。
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