三井不動産とNTTコムが進めるVR活用戦略 名古屋・久屋大通公園でデジタル新空間創出
財界オンライン / 2021年7月2日 18時0分
通行導線から行きたいと思える場所へ
「『Hisaya-odori Park』は民間の力を使った再開発として日本最大級のものとなり、多くの方々にご来園いただけた。そのハード面の整備は終わったが、民間の力を使って、さらにご来園いただく方法を考えていた」と話すのは、三井不動産商業施設本部アーバン事業部事業推進グループ主事の鈴木達也氏。
2021年6月3日、三井不動産はNTTコミュニケーションズと連携して、愛知県名古屋市の久屋大通公園の北エリア・テレビ塔エリア「Hisaya-odoriPark」で共同実験を開始した。
久屋大通公園は名古屋を知る人であれば誰もが知る場所だが、以前は「使われない公園になっていた」(鈴木氏)。イベントがある時はいいが、それ以外はただの通行導線としての存在。木々が鬱蒼と茂っており、夜は暗がりの多い場所でもあった。
それを三井不動産は広場空間や店舗を設けることで、通るだけでなく「そこに行きたい」と思える場所にすべく再開発した。
両社は久屋大通公園の再開発段階から、この公園でICTを活用した新しい取り組みができないかを検討、複数の実証実験を進めてきた。
そこに襲ったのがコロナ禍。リアルでなかなか人が集まりにくくなったが「その中で、デジタルを活用して多くの人に知ってもらうことを考えた」(鈴木氏)。
今回の実験では、デジタル空間上にコンピュータグラフィックスのVR(Virtual Reality=仮想現実)で、全長約900㍍に及ぶHisaya-odori Parkを再現した「Hisaya Digital Park」を構築している。
そこには8店舗がバーチャル店舗を出店。実際の店舗を高精度のカメラでパノラマ撮影しており店の雰囲気を楽しめる他、ネットショッピングや、動画視聴などができる。
この仕組みを提案したのがNTTコミュニケーションズ。「元々NTTグループにはICTを活用してデータを収集し、利活用して社会課題を解決するという構想があった。その中にデジタルを活用して顧客体験を豊かにする『Smart Customer Experienc(SmartCX)』という事業があるが、これを課題解決に活用できないか? ということでご提案した」(同社ビジネスソリューション本部西日本営業本部東海支店営業推進グループ担当課長の山澤雄氏)。
この提案を受け、三井不動産としては「新たな商業のあり方をつくることができるのではないか? 」と考えたが、不動産会社としては「リアルの重要性、楽しみを知ってもらいたい」という思いが強かった。
ただ、久屋大通公園が再開発された事実は知られていても、訪れたことがある人は限定的。そこでデジタル空間上でも公園の素晴らしさを知ってもらうことが、リアルへの送客にもつながると考えた。
三井不動産は公園の再開発にあたり、この場所に商業施設「RAYARD Hisaya-odori Park」を開業、約35店舗が軒を連ねている。今回、オンラインで出店したのは、そのうちの8店舗。
例えばアウトドア製品メーカーである「スノーピーク」は、実際に公園で商品を体験できることに強みを持つ。また「天狼院書店」や「Fab Café」は店舗でワークショップを行うことで顧客コミュニティを築いている。「皆さん、自らの強みを打ち出すことができるチャネルが増えるということで反応がよく、ご参加いただけた」(鈴木氏)
前述のように、デジタル空間で買い物ができるようになっているが、今後は「リアルな空間との融合がカギになる」と鈴木氏。リアルとオンライン上で同時にイベントを開催し、相互に送客したり、リアル店舗の店員と顧客がデジタル空間でコミュニケーションをとる、リアルに公園を訪れた時にデジタルを活用して買い物をするなど、「リアルとデジタルが、どちら側からも近くなるようなコンテンツづくりに取り組んでいる」(同)
この実験自体は21年12月31日までを予定しているが、ここで得られた知見は今後、どのように活用していくのか?
三井不動産としては「期待した通りの効果が得られれば、久屋大通公園で新しいコンテンツを拡充していく。さらに、三井不動産が運営する商業施設、ビル、住宅への横展開が考えられる」と鈴木氏。
さらにNTTコムは「名古屋エリアで、様々なパートナーの皆さんと取り組みを拡大させ、さらには全国のエリアに広げていきたい」(山澤氏)
三井不動産は社長の菰田正信氏が「リアルの商業施設とeコマースのハイブリッド」という「&の思想」を打ち出し、両者を融合したeコマース「アンドモール」を展開中。「当社の『&』の世界観に沿う取り組みだと思う。広げていくためには、まずは1物件での実績が必要」(鈴木氏)
重要になるのはデータ。今回、三井不動産とNTTコムは匿名化・統計化されたスマートフォンの位置情報データを用いて来園者の行動を解析し、施設運営やマーケティングに活用する取り組みをしているが、その分析によるとコロナ禍にあっても、来園者の流入は落ちていないことがわかった。
このデータを生かして、いかに商業施設の売り上げにつなげていくかといった具体策づくりを進めることができる。「Hisaya Digital Park」の取り組みも、その流れの中にある。コロナ禍が収束したとしても、デジタル化の流れは変わらないと見られる中、リアルと融合させて、どちらの世界も活性化されることができるか。リアルに強みを持つ三井不動産の地力が試される局面だ。
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