【倉本聰:富良野風話】スポーツの祭典
財界オンライン / 2021年7月15日 11時30分
オリンピックがいよいよ迫って来た。
時の総理が誘致したいあまり、フクシマはアンダーコントロールだなどと臆面もなく言ってのけ、復興五輪だと花火を挙げたこのオリンピック・パラリンピック。果たして何からの復興になるのか。あの時約束したオ・モ・テ・ナ・シはどういう形でのもてなしになるのか。当事者たちの大変には同情するが、お手並拝見と外野から見ている自分たちのタチの悪い野次馬根性にふと気がついて自己嫌悪にかられる。
そもそも今回のオリンピック×コロナ騒動には色々なことを学ばされた。
やるかやらないか、で揉めていたものがいつのまにか有観客か無観客かの議論にグレードダウンし、IOC貴族の存在に気づかされ、アスリートと共にやってくる随行者の数におどろかされ、オリンピックファミリーの観戦には特別にアルコールを供すべしなどという担当大臣の発言に目を白黒させ、体育の祭典という大原則から逸脱してこのパンデミック下の日本という国に不要不急の大迷惑をかけてしまっている。
オリンピックという余計なものがなくても、今この国にはそれどころでない、さし迫ったいくつもの危機がある。
地球温暖化による気象変動の危機がある。この夏いつ襲ってくるか判らない台風・洪水・熱波の攻撃。更には地震・火山の爆発。
悪意ある隣国からのサイバー、そしてテロ攻撃。世界の要人が集結してくる大都会・東京は、絶好の標的になり得るだろうし、もしそれが、東北からの風の日を狙ってのフクシマ原発へのテロ攻撃だったら日本の心臓部・関東地方は放射能汚染で息の根を止められてしまうだろう。同時にそこに集った世界の要人も。
そして勿論コロナがもたらしたパンデミックの現状がある。イギリス株に続くインド株の攻撃。対するこの国の若者たちの能天気な自由を主張する行動。政府の命令を聞くことのできない、それを規制できない国の現状は、医療崩壊はおろか、国家崩壊の様相すら呈している。そんな中で何が何でもオリンピック開催へ突き進もうと猛進する国の態度は、あの愚かな戦争へ突き進んでしまった大戦前夜の日本を想起させる。
これだけ沢山の今そこにある危機を抱えながら、国民の80%が中止を求めているこのオリ・パライベントへの突進は一体どう考えたら良いのだろう。目先の選挙やら面子にこだわっているこの国のトップは果たして歴史から学んでいるのだろうか。
この稿が世に出る頃、日本は果たしてどうなっているのか、僕には皆目見当がつかない。だが少なくともコロナによる犠牲者は今よりその数を増やしているだろう。そしてその犠牲者は我々日本人が不要不急のスポーツイベントを容認してしまったツケなのである。
この責を一体だれが負うのか。
嗚呼!
【倉本聰:富良野風話】普通は、ない
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