GMOあおぞらネット銀行が異業種を取り込む「組み込み型金融」の波紋
財界オンライン / 2021年7月27日 7時0分
金融と異業種の垣根が低くなっている。その一因となっているのが「銀行API」の開放。これによって銀行システムと異業種企業がつながりやすくなっているのだが、メガバンクはまだ慎重。そんな中、積極的な開放で他社との連携を進めているのが3年前に開業したGMOあおぞらネット銀行。後発で、テクノロジーに強みを持つことを生かして、思い切った戦略で差別化を図っている。
「銀行API」を積極的に開放
「これまでも銀行らしくない尖った戦略で活動してきたが、強みに対して、もっと振り切った形で戦略を練り直した」と話すのは、GMOあおぞらネット銀行会長の金子岳人氏。
あおぞら銀行とGMOインターネットグループが共同出資で設立したネット銀行、GMOあおぞらネット銀行は、2021年7月に開業から3年を迎えた。
あおぞら銀の銀行経営ノウハウと、GMOインターネットのテクノロジーという「銀行とITの融合」を掲げて立ち上げた。
法人向けの決済、GMOクリック証券との連携で、法人、個人分野双方で存在感を高めようとしてきたが、「同時にNo.1を実現するには、まだそこまでの体力がなかった」(社長の山根武氏)という現実に直面。ただ、法人の中でも創業間もないスタートアップ企業からの強い支持を獲得することには成功。
また、特に注目されているのが「銀行API」を積極的に開放していること。APIとは「Application Programming Interface」のことで、ソフトウェアやアプリケーションなどの一部を外部に公開することで、第三者が開発したソフトウェアと機能を共有できるようにできる仕組みのこと。
APIの開放により、非金融企業が銀行のシステムにつながり、銀行のデータやサービスと連携することで新たな事業を生み出すことが期待されている。
銀行APIの開放は企業間のオープンイノベーションを促進すべく18年6月に施行された改正銀行法の中で、銀行に対する努力義務とされた。
そこで3メガバンクを始め、大手も銀行APIを開放する体制は整えたが、異業種との連携はなかなか進んでいない。なぜか。「金銭面など条件が合わないこと、さらに開放した時に相手先に情報漏えいリスクがないかなどを慎重に見ている面がある」(あるメガバンク関係者)と、開放に及び腰になっていることが要因のようだ。
一方、GMOあおぞらネット銀は、すでに137社とAPI連携で契約。この数は「業界を圧倒している。トップランナーとしての自負がある」(金子氏)という。マネーフォワードやfreeeといった家計簿アプリを提供している企業から、伊藤忠商事やJTBといった大手までが連携している。
今回、GMOあおぞらネット銀が打ち出した新たな事業方針の中でも、戦略の3つの柱のうちの1つが「組み込み型金融サービスNo.1」。
「組み込み型金融」(EmbeddedFinance)とは、前述のAPI連携を活用して、異業種が金融機能を自らのサービスに組み込んでいくことをいう。例えば米国でも、アップルの個人間送金やクレジットカード事業は、金融事業を行う他社との連携、組み込み型金融で成り立っている。
GMOあおぞらネット銀はメガバンクなどと違いAPIは無料で開放し、その後に為替、デビットカード、ローンといったサービスを利用した際に手数料を得ることで収益化するモデル。
「銀行APIを開放するだけでなく、我々のサービスをお客様のDXに役立てていただき、ビジネスモデルの中に組み込んでいただく」(金子氏)
この組み込み型金融には、銀行など金融機関が直接、事業会社とAPIでつながって機能を提供するケースと、金融機関と事業会社の間にテクノロジーを持った企業が入って両社の間をつなぐケースとがある。後者で間をつなぐ存在を「イネーブラー(Enabler=支え手)」という。
金子氏は「海外の事例を見ていても、金融機関と事業会社が直接つながるよりも、イネーブラーが間に入る形の方が主流になるのではないかと見ている」と話す。なぜなら、事業会社が必要とするのは銀行サービスだけではなく、保険や証券、クラウドファンディングなどもあるかもしれないからだ。
「我々はイネーブラーとしてもチャレンジしようと思っている。自らの銀行ライセンスを生かしてサービスを直接提供するだけでなく、他の様々なライセンスを持つ企業を束ねる〝ハブ〟になっていく構想」(金子氏)
その意味で、GMOあおぞらネット銀が競合するのは他のネット銀行だけでなく、イネーブラーになろうとしている他のテクノロジー企業だということ。
世界初の取り組みにもチャレンジしている。事業会社が、組み込み型金融を実現するために必要な銀行パーツを流通させるマ―ケットプレイス「ichibar(イチバー)」を21年8月に開設する。
「組み込み型金融では、事業会社さんが主役。その方々が便利になるための金融パーツを広く集めたい」と金子氏。金融機関、フィンテック企業、起業家、学生まで、誰もが自由に参加できるコミュニティにすることを目指す。
金子氏は日本アイ・ビー・エムで金融事業を手掛け、専務執行役員まで務めた。「自分のシステムで経営をしてみたかった。その時に、まだITの力が経営に生かされていない銀行業界のお役に立ちたいと考えた」
そういう思いを抱いていた時にGMOインターネットグループ代表の熊谷正寿氏に「銀行をつくるから一緒にやろう」と声をかけられたことで入社を決めた。銀行業界でIT出身の代表取締役は極めて珍しい。
金融当局を中心とした「護送船団方式」から、96年の金融ビッグバン以降自由化が進んだが、今も過去の名残はある。だが今は誰もが金融に参入のチャンスがある。まさに知恵、アイデアの時代だと言える。
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