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【人気エコノミストの提言】無形資産時代がもたらす世界的低金利

財界オンライン / 2021年7月25日 7時0分

米国の金融市場参加者の最大の関心事は、インフレの急上昇にもかかわらず、長期金利が上昇しないことである。

 実は、世界的な低金利環境は、今回のコロナ危機をきっかけに始まったものではない。グローバル金融危機後の2010年代以降、先進各国では、成長率より長期金利が低い異例の状況が常態化している。

 2010年代に低金利が常態化したのは様々な要因があるが、無形資産の時代が訪れたことも大きく影響していると思われる。付加価値の源泉、つまり経済成長の源泉が有形資産から、無形資産(アイデア)に取って代わられたのだ。

 18世紀末の産業革命以来、付加価値を生み出すには有形資産が不可欠であり、その調達には、大量の資金が必要とされてきた。しかし、無形資産の蓄積には、有形資産投資ほどの大量の資金は必要とされない。卓越したアイデアを持つ高スキル労働など人的資本の確保が全てである。突き詰めると、無形資産とされるものは、研究開発などに必要な卓越したスキルを持つ人の人件費である。

 高収益企業は内部資金で十分賄うことができるため、資金需要は増えないから、金利は上がらない。因みに日本の成長が冴えないのは、有形資産投資のみならず、無形資産投資も乏しいからである。

 有形資産の時代においては、有形資産を担保にとって、貸出を行うのが金融機関の役割だった。無形資産のファイナンスは、以下の性質から、デットではなく、エクイティが適切だ。まず、無形資産はノウハウやシステムといったビジネスにサンク(埋没)されたもので、スピルオーバー効果やシナジー効果も大きく、担保に取ることは難しい。また不要になったからといって売却はできないし、企業が倒産すれば回収もできない。

 エクイティ・ファイナンスに対応できない伝統的な金融機関は、無形資産の時代に上手く適応できない。財政が膨張する中、預金保険制度で守られ預金は大きく膨らんでいるが、国債購入や社債購入に充てることしかできていない。こうしたミスマッチゆえに、国債や社債が大量に発行されても、市場金利は抑えられる。この傾向は、2010年代以降益々強くなっている。

 因みに大量の資金(資本)が存在する一方で、アイデアは引き続き希少である。それゆえ、大量の資金がエクイティに流れ込み、リスク資産価格は途方もない水準まで嵩上げされている。かつては、スタートアップのファイナンスのための手段であったはずのIPOも、今では起業家のEXITの定番の手段と化している。それは、ビジネス化できるアイデアが不足する一方で、過剰な投資資金が存在しているからでもある。

 我が国の中央銀行は、ETFの大量購入を行ってきた。無形資産の時代に不足しているのがビジネス化できるアイデアであって、資本コストの高さや資金不足が問題ではないことを改めて考えるべきだ。

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