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米テキサス州オースティンから指揮 【リクルートHD 新社長】出木場久征の世界の何十億人に利用してもらう人材サービス戦略

財界オンライン / 2021年8月3日 7時0分

リクルートホールディングス新社長 出木場 久征

リクルートホールディングス新社長・出木場久征(いでこば・ひさゆき)氏が仕事の拠点にしているのは米テキサス州の州都・オースティン市。同社の主要な収益源である求人検索サイト『Indeed(インディード)』の開発を担ってきた功績が評価されて、今年4月社長に就任。AI(人工知能)革命が進む今、機械と人間の関係について、「AIと比べて、人間のほうがはるかに高機能ですから、機械がうまくやれる所は機械に任せる。人間は人間らしいことにもっと集中するように貢献していく」と出木場氏。同社の売上構成は海外と国内が45対55という比率。海外での仕事がほぼ半分になり、「ポートフォリオを、海外を含めて、ビジネスの幅を広げてきたことが経営の弾力性や底堅さを強めることにつながった」と強調。また国内市場については、「日本はどうしても人口減で人材不足が続くし、生産性アップが課題」として、中小企業を中心とした事業の生産性向上を支援していく考え。キーワードは『自動化』と言う出木場氏の事業戦略とは。
本誌主幹
文=村田 博文

米オースティンからグローバル世界をにらんで

「いろいろな仕事の価値の根源は人だと思います」──。リクルートホールディングス(H
D)の新社長・出木場久征(いでこばひさゆき)氏はこう語る。

 AI(人工知能)など最先端テクノロジーを人材サービス業全般に導入し、人手不足時代に機械に任せられるものは機械に任せ、人間らしい仕事を見つけ出していくことを自分たちのミッション(使命)にしたいという出木場氏の経営観。

 米国を活動の拠点にして、求人検索サイトの『Indeed(インディード)』を同社の成長エンジンにしてきた実績を踏まえて、社長就任の抱負を語る。
「やはり、われわれは何のために世界からここに集まっているのかと言ったら、仕事を探すのに困っている人がもう世の中に何億人もいるんだと。こういう人たちが、簡単に仕事探しができるように、われわれは毎日仕事をしているんだと。このことを言い続けていきたいと思っています」

 出木場氏は1975年(昭和50年)4月22日生まれの46歳。
 今年4月1日、前任の峰岸真澄氏(1964年1月生まれ、57歳、現会長兼取締役会議長)から社長兼CEO(最高経営責任者)の座を引き受けた。4月1日の社長就任時は45歳。ほぼ一回り近い若返りである。

 その出木場氏は今、米テキサス州オースティン市を拠点に、同社のグローバル経営の采配を振るう。
 出木場氏がテキサス州の州都・オースティンに活動の場を置いたのは2012年のこと。この年にリクルートHDは求人検索会社の米Indeed を965億円でM&A(吸収・合併)。同社はHR(Human Resources、人的資源)関連のデジタル技術、つまりHRテクノロジー開発で先駆的存在。
 同社はこの『インディード』を皮切りに、米国、欧州、豪州のHRテクノロジー企業や人材派遣、販売促進メディアのM&Aを次々と仕掛けていった。

 人材サービス業は景気の循環に左右される。

 1990年代始めからのバブル経済崩壊、そしてインターネットの登場(1995)という時代の転換期にあって、各種情報誌という紙媒体依存体質を脱却し、いかにデジタル化を進めていくかという課題にも直面。

 2008年にはリーマン・ショックが起こり、そして今回のコロナ危機である。
 2012年4月に、柏木斉氏の後を受けて社長に就任した峰岸真澄氏は、「わが社は危機時に新しい事業を起こしてきた」
と社員を叱咤激励。危機(有事)に強い体質にしようと、『レジリエンス』(弾力性、復元力)をキーワードに、BCP(事業継続計画)を掲げた。

 そのBCPに絡む中長期のテーマは2つ。
1つはテクノロジーの強化。
「求人検索のIndeed をベースにして、HR(人的資源)のマッチングビジネスのグローバルリーダーになる」ということ。

 もう1つが日本国内におけるビジネスをどう展開するかという課題。峰岸氏は、「日本国における中小企業を中心とした会社様への生産性の向上を図っていくこと。それに、わたしたちの新しいサービスで貢献していく」と語ってきた。

 同社の12年から現在まで主要なM&A件数は11件。オランダの人材派遣業、USG People に1885億円を投じたり(16年)、HRテクノロジーの米国Glassdoor 買収(1285億円)を手がけるなど、大型のデジタル投資を敢行。それが、海外比率を50%近くにまで引き上げる原動力となった。

 今回のコロナ危機下で、同社も前期(21年3月期)は特に、第2四半期に打撃を受けた。求人検索エンジンの『インディード』、宿泊・飲食などの販売支援サイト、人材派遣が同社の3本柱だが、コロナ禍で宿泊・飲食は大打撃を受け、この領域での売り上げは大幅減。
 こういう中で、内外で業績を牽引したのが、求人検索エンジンの『インディード』。HRテクノロジーの本場・米国でのシェアは7割を占める。米国はワクチン接種率も高く、昨年後半から消費活動も高まり、求人・求職活動が活発になった恩恵を受けて、業績は上向いていった。

21年3月期は売上高にあたる売上収益は2兆2693億円強(前期比5%減)、営業利益は1628億円(同21%減)、純利益は1313億円(同27%減)と減収減益になったが、後半の業績回復の支えになったのが、求人検索『インディード』をはじめとするHRテクノロジー事業である。

 紙媒体依存からの脱却を進め、最先端テクノロジーを取り込んだデジタル化を担った出木場氏。その出木場氏が日本国内の市場について語る。
「日本はどうしても人材不足というか、人口が減っていきます。生産性を上げるといったら、やはり中小企業を中心としたビジネス側の生産性を上げるしかない。それを何とか、われわれも貢献できないかと。今集中してやっていこうと考えています」

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今後、10年間で【自動化】の勝負は決まる

 そこで出木場氏は、AI活用などによる『自動化』が生産性を上げていく上で大事なキーワードになると強調。
「やはりデータでつながっていく、オンラインでつながっていくというところが出来てくれば、さらに生産性を上げられるのだと思います」と出木場氏は語り、次のように続ける。「いわゆる機械学習とか、AIとか、マシンラーニングとかいわれるものは、基本的にまず、トレーニングするためのデータが要ります。だからといって、データがゴールではなくて、どういうデータが集まってくると、この業務の自動化はどうなるのかという問題意識ですね。(この社会の変化について)100年後の歴史家はこの10年を境に、この前は人が車を運転していたと。この後は人が運転しなくなったと絶対に言うに決まっていると思います」

 今日(2021年)から向こう10年間のタイムスパンで車の運転の『自動化』が成し遂げられる──という見通しを立て、出木場氏はそうした時代の流れの中で、自分たちのミッションを追求したいとする。

鹿児島の風土で育って……

「僕は鹿児島出身ですから、もう東京より、こちら(オースティン)がいいなと。アメリカに渡った時、娘2人は6歳と4歳でした。今はハイスクールとミドル、高校と中学生になっています。地元の公立の高校、中学校に通っていて、日本語はあまりしゃべれない。なかなか日本人として生きていくには不自由があると思います。先輩に対して敬語を使えとか言っても、英語文化圏で育って、もう全くこれができないわけですよ(笑)」

 2012年米テキサス州オースティンに赴任し、生活を始めて約10年。娘2人も米国流の生活になじんでしまったという。
「薩摩の親父としては、気にかかる時があり、『お前、何とかしろよ』と言ったりすると『I
dont know』と返されて、ちょっと腹が立つということですね(笑)。でも、英語だとその言い方しかできない。誰に対しても、『知らない』とか『I dont know』という言い方なので、『お前、親に何て言い方をするんだ』と言っても、『じゃあ何て言えばいいの』と切り返されて終わりです」

 出木場氏は鹿児島県大口市(現伊佐市)の出身。『西郷と大久保』などの著書で知られる作家・海音寺潮五郎の故郷でもある。父は薩摩瓦の製造を手掛け、今、実家は弟が継ぐ。

 小学校までは大口にいて、中学・高校は県都・鹿児島市の私立志學館に通った。6年間、寮に入っての生活。そして、早稲田大学商学部に進み、1999年卒業し、リクルートに入社。
 鹿児島には、『薩摩隼人』以来の、『泣こよかひっ飛べ』という子供のしつけ方が今に伝わる。
 子供が例えば、川の前に来て、前に進めず、泣いたりすると、年長者が一喝し、『泣いているより、思い切って、川を飛び越えよ』と諭す。そして、跳んでみると、案外うまくいくものである。そうしたことを幼少期に周囲から叩き込まれる。

 そういう風土で育ったせいか、出木場氏も、10年近く前、米テキサス行きを命じられた時は、この『泣こよかひっ飛べ』の心境で臨んだという。

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ハイテク企業のアグレッシブな生き方

 テキサス州の州都オースティン市は人口約84万人の街だが、今、全米で『一番住みたい街』として人口流入が続く。
 同州で大きな都市と言えば、国際空港もあるダラスやヒューストン、サンアントニオといった所だが、同州中央部に位置するオースティンに今、有力企業が続々集結しようとしている。
 テキサス州はもともと石油資源に恵まれ、石油メジャー最大手のエクソンモービルが同州アービングに本拠を構えていた。そうした伝統企業に代わって、ハイテクや最先端ビジネスを追求する新興企業群が特にオースティンに集まろうとしている。

「例えば、EV(電気自動車)のテスラがオースティンに本社を移すとか、オラクルが移ってくるとか、あとはグーグルやフェイスブックなどITプラットフォーマーといわれる企業がテクノロジーオフィスを作ろうとしたりしています」

 もともとコンピュータのDELL(デル)や半導体生産のAMCなども拠点を構え、産業集積が進んでいた。
 工業大学として全米を代表するテキサス大学オースティン校があるのも強み。同州南部でメキシコ湾に臨むヒューストンはNASA(米航空宇宙局)の宇宙船打ち上げセンター(基地)があるが、オースティン校は宇宙開発の拠点校にもなっている。
「われわれもそこのトップのコンピュータサイエンティストなどをどしどし採用しているので、オースティンにベースを置いているんです」と出木場氏。

 コロナ危機は世界規模で生き方、働き方の変革を促した。
「ええ、リモートで働くなら、米国でも別に、(最先端企業が集中する)サンフランシスコで働く必要はないよねと。『テキサスは所得税がないし』と、移住してくる人が増えた。ニューヨークとかロサンゼルスなどの大都市から移り住んでくるんです」

 米国のダイナミズム(活力)を感じさせる人口動態である。
 出木場氏の住むオースティンの住宅価格はここ1年で前年比、「30%から40%上昇した」という。それでも、サンフランシスコなどの家賃と比べて3、4割は安いので人口流入が増える。

 米国もコロナ禍に苦しんだ。昨年は感染者数が急増し、ロックダウン(都市封鎖)を実行するなどもしてきた。しかし、今年初めからはワクチン接種を急ピッチで実行。経済再開も早い。

 米国の場合、リモートワークへの切り換えも早い。
「ええ、オンラインで働けるとなったら、そちらを選択する働き方がものすごく増えている。その点、日本はちょっとスピードが遅いというか、いわゆるリスクをあまり取らないですよ
ね。セキュリティだとか、やはり会社に来てもらわないと、仕事をしているかどうか分からないとかね。そういう所が、アメリカの場合は成果主義でこういうふうにできたら、いくら払うという働き方で、リモート方式もなじみやすいんですね」。

 人の移動のダイナミズムもそういう米国の社会風土から生まれているということであろう。

コロナ禍で気付いた事

 今回のコロナ危機の教訓は何か? また米国からグローバル世界を見つめ、日本の立ち位置を考えていて思うことは何か?

「前期(21年3月期)は売上、利益という意味では絶好調というわけにはいかない状況でしたが、2つ得られることがありました」と次のように要約する。

「1つは、やはり非常時で厳しい状況にあったにもかかわらず、前回のリーマン・ショック
とか、その前のドットコムバブル崩壊、さらに1990年代のバブル経済崩壊という時に受けたわれわれのダメージと、今回のコロナ危機でのダメージは違います。今回は、お金がなくなってしまうとか、そういう状態にはなりませんでした。また、われわれがポートフォリオを海外も含めて、ビジネスをかなり広げていたことによって、ビジネスの弾力性というか、底堅さみたいなものが出てきました」

経営のグローバル化、経営資源のデジタル化で、経営体質の弾力性が高められ、底堅さが確認出来たということである。
 もう1つは、「最先端テクノロジーを使うという経営戦略がコロナ危機で加速されたこと」
と出木場氏は語る。
『インディード』などのテクノロジーを使っての各事業の展開。求人側の採用戦略、もしくは求職側もテクノロジーを活用して、仕事を探す、仕事を見つけるというプロセスを「非常に簡単にしていく」という戦略を出木場氏らは立ててきた。こうした動きも、コロナ危機下で加速したということである。

 ただ、今回のコロナ危機で、欧米や日本との間で、コロナ対策や経済活動のスピードの違いがなぜ出てきたのかということは気懸りである。
「ええ、これは危機のたびに強くなっていくアメリカと、一方、日本は低成長の企業が多い
ままで、まだたくさん残っているという現実ですね」


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米国と日本の風土の違い

 ベターリカバリー(better recovery)──。「このコロナ禍でも、アメリカは2019年より良くするんだと。絶対成長するんだという意気込みですよね。これはすごい気迫だし、政府も経済後押しにバシッとインフラ投資を押し進めようとしている」と出木場氏も語る。

 ITプラットフォーマーのGAFAが米国には生まれ、その米国が敵対する中国でもアリババグループやテンセント、ファーウェイなどの企業集団が誕生し、驚異的な成長を遂げる。
 国の生い立ち、人口構成の違いなどがあるが、もっと日本は潜在力を掘り起こしていけるはずだという出木場氏の思い。現状では、もどかしさも感じるとして、氏は次のように述べる。

「ある程度の人材流動性というのは、国の未来にとっては、良いのではないのかなと。流動性が高いということは、生産性の高い、成長性の高い産業に、人がより流れていくことですから」

 さらに出木場氏が米国と日本のイノベーションの風土の違いに触れる。
「日本では今、DX、DXと言っていますよね。これはアメリカ人にDXと言っても、彼らは何の事か分からないという顔をします。聞いたことのない言葉だと言ってね」

 出木場氏は時折、日本に帰国すると、DXという言葉で語りかけられて、戸惑ったことがあったという。
「そうか、デジタルトランスフォーメーションというのをDXと言っているのか」と納得したというが、米国ではことさらDXを言わなくとも、普段の生き方の中にそうした技術を取り込んで、前へ前へと進んでいる。普段の生活の中に、アグレッシブな技術なり、工夫を取り込んでいく営み。

「だから、新しい事がアメリカで起こるのだとよく思います」

人手不足が続く日本の生産性アップへ向けて

「日本では明らかに人が減っていくという中で、このままでは人材不足ってもう解消されない。だから、そこのコンフリクト(摩擦)は少ないと思います。他の国では、自分たちの仕事が機械に取って代わられて、なくなってしまうんじゃないかという議論はあると思うんですが、日本は人手不足がはっきりしている。ですから、もうちょっと前向きにやっていけば、この国にはチャンスがあるとすごく思っています」

 日本再生のキーワードは、『自動化』と出木場氏は改めて強調。
 今、リクルートHDの株式の時価総額は約9兆3515億円(7月上旬現在)。1位はトヨタ自動車(31兆4879億円)、2位、3位には13兆円台でソニーグループ、キーエンスがきて、4位、5位にソフトバンクグループとNTTドコモが12兆円台で続く。6位のNTT(11兆円台)に続いて、7位にリクルートHDがくる。

 人材サービスでグローバルリーダーになるという戦略を掲げる同社。世界にはアデコ(スイス)、ランスタッド(オランダ)、マンパワーグループ(米国)などの強豪もいて、テクノロジー競争も激しい。

「今の自動化はまだまだレベルが低くて、時給幾ら幾らの仕事はどうですか? と言っている程度。若い世代や女性で、こんな仕事をしてみたいという夢、あるいは年配者でも歴史が好きだから、歴史に関するこんな仕事を最後にしたいといったニーズに応えていくには、やはりもう一歩進みたいなと」

「わたしたちが仕事で関わっている人たちは2億数千万人。世界全体には80億人の人たちがいます。自分に会った仕事を探すのに困っている人たちが数多くおられるし、そうした人たちのためになるような仕事をしていきたい」

 人材サービスのグローバル企業としての高みを極めながら、日本の、特に中小企業の生産性向上に貢献したいという国内戦略。

 日本に帰ってくると、「いつもいい所だなと思います」と出木場氏。
「ご飯がおいしいし、みんながきちんと仕事をしてくれる。水道工事に来てくれと言ったら、必ず来る。アメリカなどは来るかどうかも分からない。荷物は壊れて届く。ある外国人が日本人はeverybody serious(まじめ)だと言っていましたが、観光業を見ても、国全体のサービスのレベルが高いし、日本の良さはあります」

 その国の長所、短所を見極めながら、グローバルに仕事をしていくという出木場氏の開拓の日々である。

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