【わたしの一冊】『新・日本構造改革論 デービッド・アトキンソン自伝』/日比谷パーク法律事務所代表、弁護士 久保利 英明
財界オンライン / 2021年8月4日 7時0分
著者の提言を実行すれば「日本は生まれ変われる」と期待させられる1冊
私は自伝が大好きである。自己顕示と謙遜が入り交じり、人となりを如実に示すからである。福翁自伝も高橋是清自伝も、実に面白い。本書は著者の自伝である。
私は財界誌で著者と対談をしたことがある。いかにもイギリス紳士という風情の身長190センチの痩身の氏は、論旨は明快だが、単純なお人柄ではないとお見受けした。
神社仏閣や日本文化については、実に豊富な知識と見識をお持ちだし、日本を愛していることは間違いない。しかし、政治・経済に関わる現代の日本人リーダーへの評価は低い。彼らの分析力のお粗末さや決断力のなさをお見通しだ。私が日本のトップに抱いている不信感と通底している。私が中学・高校時代に英会話を習った、オクスフォード大学出身のヒース先生とも驚くほど似ている。
物事を世界的視野で多面的に見ることを教えてくれたヒース先生と似ているのはなぜなのか、私は本書に取り組んだ。
その結果、アトキンソン氏もヒース氏も、「英国人(スーパー)エリート」故の、当然の振る舞いなのだと納得した。日本人は思い込みが強く、論理的とは言えず、政治や経済を扱うにはナイーブすぎるから、教育しなければ、という思いが本書から滲み出ている。ヒース先生は教員だから、当然としても、著者はなぜ、嫌われるほど苦言を呈するのだろうか。私の理解では、自分が肩入れしている日本と日本人の不成績が歯がゆいのだ。彼はトップエリートとして自信の塊である。自分の言うとおりにすれば成功するのに、日本人はなぜ分かってくれないのか、理解できないのだ。
本書からは「恥の文化」を忘れ、「エビデンスに基づく分析能力」を持たない日本人リーダーに任せたら日本は世界から見捨てられるという怒りが迸る。怒られているうちが花である。「上から目線」などと反発せず、著者の言うことの半分でも実行したら、「日本は生まれ変われる」と期待させる1冊である。
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