大和証券グループ本社・中田誠司社長「コロナ禍にあって資産管理型ビジネス、店舗改革をさらに加速させていく」
財界オンライン / 2021年8月18日 18時0分
「コロナ以前から取り組んできたことが、結果として時代に適った戦略となっている」──中田氏はこう話す。今年4月に新たな中期経営計画をスタート。以前から進めてきた「資産管理型ビジネス」へのモデルチェンジをさらに進め、預かり資産90兆円の実現を目指す。また、営業所を拡大し、既存店舗を効率化していく店舗戦略などの改革も軌道に乗りつつある。中田氏が目指す今後の姿とは──。
金融相場から業績相場へ
─ コロナ禍が継続している中でも世界経済は回復していますが、一方で株価の先行きは不透明な点もあります。中田さんは現状をどう見ていますか。
中田 今回、コロナ禍によって株価は、一旦は大きく下落しました。そこで何が起きたかというと、まずは緊急避難的に世界の中央銀行が、大幅な緩和政策をとって、結果としてそれがセーフティネットとなって、株価は反転、上昇し始めました。
株価というのは先を見て動きます。1つはコロナ後の世界を見据えた先取りの動き、もう1つはなかなか定量化できませんが、金融緩和によって一時的に発生した過剰流動性の一部が、リスクマネーとしてマーケットに入ってきたこと。いわゆる「金融相場」の側面があったかと思います。
─ 今後についてはどう見通していますか。
中田 今後、いよいよ欧米中国の経済が正常化に向かって、日本も遅ればせながら今年中に希望する方にワクチンが行き届けば、年後半ぐらいから経済は正常化の動きが出ると思います。
そうなると今度は、金融緩和から、経済の成長に合わせて金融政策をコントロールしていかなければいけません。それが米国で一部言われているテーパリング(量的緩和の縮小)という議論につながっているのだと思います。
今後、マクロ経済の成長に合わせて、企業業績が回復、成長期に向かっていくことを考えると、金融相場から「業績相場」に移行することになります。当社グループの大和総研では、日本は2022年の7―9月期には、19年の7―9月期の水準、つまりコロナ前に戻るだろうと予測しています。
─ その時に株価はどう動くと?
中田 来年度、場合によっては年後半には再来年度の企業業績もおぼろげながら見えてきますから、その業績に対してPER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)などでバリュエーション(企業価値評価)をして、株価が形成され始めます。
過去にもそういう時期がありましたが、景気が悪くて金融を緩めた時に、金融相場となって株価が上がって、それが終わると今度は実体経済、業績相場に移行する。株式市場は今、次の業績相場に移行しつつあるのではないかと見ています。
世界経済の先行きはどうなっていくか
─ 世界を見ると米中対立、経済安全保障の重要性が言われるなど、地政学リスクもあります。このリスクをどう見ますか。
中田 ここは国策も絡んでなかなか読みづらいですね。この1年半くらいはコロナ禍の方に関心が集まっていましたが、今に始まった話ではありません。
当然、国と国の話ですし、不測の事態がすぐ訪れるということはないと思いますが、偶発的なリスクは避けてもらいたいと思います。
外交政策の話ですから、中長期に及ぶ中で押したり引いたりという時期もあるでしょうから、今後注視していかなければならない大きな問題ではあるものの、すぐに経営のリスクにつながる問題が顕在化するというものではないと思います。
─ 様々な要因も絡みながらも、グローバル世界は成長し続けると見ていると。
中田 そうですね。IMF(国際通貨基金)の世界経済見通しでも、世界全体の成長率は昨年がマイナス3・3%でしたが、今年は直近の数字でも6・0%のプラス成長見通しとなっています。
中国は、最近は少し減速感がありますが、それでも8・4%、米国が6・4%、欧州が4・4%、日本はワクチン接種のスピードもありますが3・3%のプラス成長見通しになっています。
IMFは来年の世界経済見通しについて、現段階ではプラス4・4%と見ています。これから2年間はコロナを乗り越えて、いよいよ本当の意味での「ウィズコロナ」の中で経済が回り始めて、成長に向かっていく2年間となるのではないかと思います。
─ 海外の成長を見ると資産運用という観点で、さらに重視していくことになりますか。
中田 日本の金融資産の中で、外貨建て資産の比率は著しく低いのが現状です。経済成長、市場規模のバランスから見て、もっと日本のお客様の中に外貨建て資産があるべきだと思います。その意味でも、海外に注目していきたいと思います。
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日本企業のガバナンスをどう考えるか?
─ 今年6月、コーポレートガバナンス・コードが改訂されましたが、近年一部企業の不正の問題なども出ています。日本株に対する海外投資家の視点も踏まえて、この問題をどう考えていますか。
中田 コーポレートガバナンスについて、日本が少し後れているような印象がありますが、私は決してそうは思っていません。ただ、米国型なのか、欧州型なのか、それとも日本型なのかという問題があります。
最低限の基準はグローバル・スタンダードであるべきだと思いますが、日本には日本に合ったガバナンス・コードを、実質的につくっていかなければいけないと思うんです。
こうしたコードは、まずは定量的な基準を設けなければいけませんが、最終目標は実質的にガバナンスの質を上げていくことです。定量的な基準が形式的なものに陥ってしまってはいけません。
─ 本質を見失ってはいけないということですね。
中田 ええ。コードは法的拘束力のない自主規制で、コンプライ・オア・エクスプレイン( Comply or Explain =従うか、そうでなければ従わない理由を説明するか)の考えの下に採用されています。
ただ、実質的には「エクスプレイン」がなかなか難しく、ソフトロー(実質的に何らかの法的拘束力のうかがえる非法的規範)となっています。
形式的基準は最低限クリアしなければならない部分ですから、まずはそこに向かって取り組まなければなりません。しかし、本来の目的は何なのかを見失わずに、どうやって実質的にガバナンスを高めていくか。ここにもっと議論が行くべきではないでしょうか。
「資産管理型ビジネス」へ転換を進めて
─ 大和証券グループ本社は、この4月から新たな中期経営計画をスタートしているわけですが、2023年度に預かり資産90兆円という目標を立てていますね。この狙いは?
中田 今回の中期経営計画に限らず、私が社長に就任して以来、「資産管理型ビジネス」への転換を進めています。資産管理型ということは、資産をお預けいただいて、それをしっかり管理し、そこから収益をいただくモデルです。
前提としては、昨年度末の預かり資産が約75兆円でしたから15兆円増やす形になります。その中には当然、時価要因、時価が上がっていくということが含まれています。
7、8兆円ほどが時価要因で、さらに株価が上がっていけば、株式を売却して運用から撤退する方もいらっしゃいますから、そのマイナス要因を見て、真水で年間2兆6000億円ほど増加させていくと、90兆円に届くという計算です。
─ 目標として実行可能だということですね。資産管理型ビジネスに転換する中で、営業の手法や店舗のあり方も変わってきましたね。
中田 そうです。コロナ以前から進めてきた取り組みですが、今後、アフターコロナ、ウィズコロナに向かう中では、結果としてそれに適った戦略だったと考えています。
昔の証券会社はお客様に店頭にご来店いただくことを前提として、駅前に広い店頭スペースがあるというのが基本でした。しかし今は、お客様が来られた時に相談できる個室などのスペースがあればよく、無駄に広い店頭は必要ありません。
そして、各店にはミドルオフィス(管理部門)、バックオフィス(事務部門)があり、それを担う人達がいましたが、これもコロナ前から、デジタル化、集約化していこうと取り組んできたんです。
今、当社の「営業所」は営業員が5人程度で、ミドル・バック機能を一切持ちません。そしてビルの1階ではなく2階、3階などに立地する「空中店舗」です。
コロナ以前から我々が志向してきた店舗スタイルが、結果として時代に合った店舗戦略となっている。コロナ禍によって、さらに一気に加速できるのではないかと思っています。
─ ところで、証券分野以外にも不動産の新会社も設立していますね。この狙いは?
中田 当社が不動産アセット・マネジメントビジネスに参入して10年以上が経過しました。オーガニック(自社の経営資源を活用した成長)だけなく、不動産デベロッパーであるサムティさんとの資本業務提携なども行ったことで、AUM( Assetsunder management =運用資産残高)で約1・2兆円まで成長しています。この中計では、これを1・5兆円にまでしていきたいと考えています。
今年4月に「大和証券リアルティ」という会社を設立したのは、不動産を小口化し、個人の富裕層の方々にオルタナティブ商品として販売するという役割を担ってもらいたいという狙いがあります。
若手の成長、女性活躍の今後
─ 中田さんが社長に就任して4年が経ちましたが、ここまでを総括すると?
中田 私が社長に就任したのは、まだアベノミクスの余韻が残っていた17年です。そこからアベノミクスは一定の役目を終えて新しいステージに移り、その間に米国でトランプ政権が誕生、米中対立、そしてコロナ禍というパンデミック(感染症の世界的大流行)が起きました。
そして、元々底流にあったのが手数料の低廉化です。ですからブローカレッジ、特定の個別商品に依存しているビジネスモデルから、資産管理型ビジネスに大きくモデルチェンジをしていかなければならないという4年間でした。その中で世界で様々なイベントが起きてきたわけで、総括すると激動の4年間で、それはまだ続いています。
さらにデジタル化も進んで、世界の様々な価値観が顕在化している中では、不測の事態は常に起こり得るものだと、今後も所与のものとしてやっていかないといけないと思います。
─ この4年で伸びている社員はどういう人達ですか。
中田 常にポジティブシンキングな人ですね。
そしてお陰様で、当社は就職人気ランキングで高い評価をいただいていますので、ここ数年来、優秀な社員に入社してもらっています。
若手の成長は一番の楽しみです。そして感覚的には昔よりも成長のスピードが速くなっているかなという気がしています。若い人達の活躍が何より嬉しいですし、それが一番会社の力になります。さらに、デジタル・ネイティブ世代が入社していますから、彼らが活躍できるようなインフラもきちんと整備していかなければなりません。
─ 早くから女性活躍にも取り組んできましたが、今後どう進めますか。
中田 先程申し上げたガバナンスの問題と一緒で、急には無理です。我々は05年に「女性活躍推進チーム」を発足、07年には「19時前退社の励行」を開始、その後も「ワーク・ライフ・バランス委員会」を立ち上げるなど様々な制度を導入し、徐々に進めてきました。中長期の戦略の中で、当社に合った巡航速度で進めていくことを考えています。
具体的には、対外的に2030年までに取締役の3割以上を女性にすることを表明しています。足元では28%ですから、数字を合わせることはできるのでしょうが、本質的に考えていきます。
女性管理職も、15%以上という目標を掲げて取り組んだ結果、足元で16%になっており、今後は2025年度までに25%以上を目標にしています。当社の社員の男女のピラミッド構造をしっかり見た上で、実質的にきちんと活躍してもらえるスピードの目標設定としています。
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