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【倉本聰:富良野風話】 黒い点

財界オンライン / 2021年8月26日 18時0分

8月9日。長崎にとっての原爆記念日。

 この朝の長崎新聞の、第一面全てを使っての全面広告は、何とも衝撃的で見事なものだった。

 全面全てを使って、無数の小さな黒点だけが打たれている。黒点の数は1万3865。世界に今存在する核兵器の全数だという。そして、良く見るとその中に赤い点が二つ。兵器として現実に使われたもの、すなわち広島と長崎に落とされたものである。

 只それだけで記事は全くない。

 無言のこの黒点に、言葉が出なかった。

 これだけの核兵器が地球上に今、ある。それは、それだけのボタンが地上にあるということであり、それを操り得る人間がこの世に存在するということである。

 人間は感情の動物である。

 今この1万3千余のボタンを操れる人間の一人が、一寸した感情─怒り、激情、面子、対抗心、その他些細な心の動きで、ボタンをグイと押してしまったら、どのようなことが起こるのだろうか。それこそ消しゴムで消すことのできぬ、取り返しのつかない事態が起こるだろう。

 抑止力という言葉を政治家は口にするが、そんな抑止力はあってはならない。誰かがいったんボタンを押したら憎悪の連鎖はたちまち世に拡がり、それこそ今のウイルスのように、アッという間に地球を滅亡させてしまうにちがいない。ヒトの理性は諸氏が思うほど堅固賢明なものであろう筈がなく、それこそ感情の昴り一つ抑え切れないヤワなものなのだ。

 大体、世界で唯一の被爆国でありながら、核兵器廃止条約に署名すらできないでいるこの国の政治家の頭の弱さ、理性の無さを見るが良い。そういう政治家を指導者に選んでしまう我々国民の理性の無さを見るが良い。コロナが蔓延して緊急事態宣言が発動されているというのにオリンピックを堂々と開き、町に人流が止まることなく、路上飲みをしてはしゃぐ若者たち。こういう国民の感情の暴発すら国家の理性が抑え切れずにいる。こんな人間の溢れる世界で1万3千余の核兵器があり、79億の人間がいて、その中に一人の狂人が出ないと誰が一体言い切れるのだろう。

 とにかく。

 長崎新聞という小さな(失礼! )地方紙が、原爆の日に発刊したこの余りにインパクトある見事な記字に、心の底から衝撃を受けた。

 アッパレとしか言い様がない。

 かつて久米宏氏が『ニュースステーション』のキャスターだった頃、御巣鷹山の航空機事故があり、その報道でスタジオいっぱいに墜落した機体の実物大の図面を描き、その各席に搭乗者の靴だけを全て並べてアッと言わせたことがあった。今回の記事はあれを超えていた。

 報道が一つの文化であるなら、百万言の言葉を弄するより、人の想像力という偉大なものに訴えることを考えて欲しい。

【倉本聰:富良野風話】 鉄槌

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