なぜ今、江戸川区小岩なのか? 三井不動産の「小岩駅北口」再開発が注目される理由
財界オンライン / 2021年8月31日 7時0分
駅徒歩2分の位置に複合ビルを開発
東京都の東の端に位置する、江戸川区小岩。地域密着の商店街など、下町の風情を残す街として知られている。一方、駅周辺には飲み屋や風俗店も立地し、治安の点で課題も抱えていた。
その小岩で今、大きな再開発が進んでいる。2021年7月26日、三井不動産レジデンシャルと日鉄興和不動産が参画する「JR小岩駅北口地区第一種市街地再開発事業」が東京都から権利変換計画の認可を受けた。
この再開発は、JR総武線小岩駅北口から徒歩2分に位置する、約2ヘクタールの地域で進められている。北口駅前にロータリーを整備し、駅からペデストリアンデッキで直結する地上30階、地下1階の住宅約730戸、商業施設、保育所などが入る複合ビルを開発する。27年竣工予定。
再開発が始まったのは今から約10年前。江戸川区、地域住民が街づくりに関する勉強会をスタートさせた。そのきっかけは、小岩駅北口の交通導線にあった。駅に向かうのは一方通行の「小岩駅北口通り」しかなく、交通基盤が脆弱だった。
一方、駅南口には、すでにロータリーが整備されている上、8本あるバス路線も全て南口に集約されているという状況。人の流れも南口の方が多い。北口駅前の整備は地域にとって大きな課題となっていた。
また、北口駅前には築約40年のイトーヨーカドー小岩店が建つ他、その裏手には個人経営のスナックが入居するビルなどがあるが、道が狭く、建物も老朽化。地域の人達には、再開発によって改めて商業面でも活性化させたいという思いがあった。
15年には再開発の準備組合が立ち上がった。翌16年には事業協力者として三井不動産レジデンシャルと新日鉄興和不動産(現・日鉄興和不動産)が選定され、動きが加速する。
「まず、地元の皆様のご意向をお1人お1人、聞いていくことから始めた。その上でどの規模の商業、住宅が必要なのかを試算していった」と話すのは、三井不動産レジデンシャルプロジェクト推進部プロジェクト推進室の野田大輔氏。
最も苦心したのは、地権者の合意形成。「新しい街づくりをしたい」という声もあれば、「再開発なんか必要ない」という批判の声も出るなど、地元でも温度差があった。奇策はなく「何度も、膝詰めで話をさせていただいたということに尽きる」(野田氏)。そうして少しずつ、再開発への理解を広げていった。
再開発では、地権者だけでなく町会や商店街、青年部とも連携。駅前に地元の要望でお祭りなどが行える広場も整備する。
実は今、小岩は北口の他、南口で2地区と計3カ所で再開発が進む、東京都内でも極めて珍しい場所になっている。北口の地権者の中には、北口の潜在力を引き出して、南口にひけを取らない駅前開発にして欲しいという思いを持つ人も多かった。
三井不動産など不動産デベロッパーにとって、この小岩周辺などJR総武線沿線の城東地区はこれまで「手がつけられていない場所」(野田氏)だった。
それが、都内の他の地域の再開発に一服感が出る中で改めてフラットな目で見直すと、小岩を始め総武線沿線は利便性が非常に高いことが改めて認識されるようになってきた。例えば小岩駅は東京駅まで約20分、品川駅まで約30分、新宿駅まで約40分の場所に位置する。亀戸や平井、船堀でも再開発が動く。
お隣の新小岩でも駅近くで住友不動産や野村不動産がマンション開発を手掛けるなど「再開発に限らず、今後さらに良質な住宅の供給は増えていくのではないか」(野田氏)。
近年、共働きの家庭が増える中で、多くの人が勤務先としている都心への距離は、住宅選びにおいて重要視され続けている。コロナ禍にあって、さらに「都心回帰」、「利便性回帰」の動きが強まる。
ただ、小岩周辺の住宅価格は過去5年で約4割上昇している。足元では坪単価350万円ほどの市場になりつつあり、例えば70平方メートルのマンションを買えば、約7400万円になる計算。「5年前とは全く違うマーケットになっている」(同)
コロナ禍の中で、今後東京のマンション市況はどうなっていくのか。不動産経済研究所企画調査部主任研究員の松田忠司氏は「都心マンションは高値でも売れており、足元で価格が下がる要因はない」と指摘する。
近年、建築技能労働者の不足や資材費の高騰に加え、土地の価格が上昇しており、マンション開発のコストは高止まりしている。さらに用地取得が難しくなっており、デベロッパーとしても、どんどんマンションを売っていくという地合いにはない。”弾数”が限られるということになれば、やはり価格は上がる。
さらに低金利が長期化し、過去の経済危機と比較して金融機関が傷んでいないこともマンション市況の高止まりにつながっている。
小岩など総武線沿線に関しては「今、大手が駅前再開発を手掛けているが、これまでそうした物件の供給がなかったエリア。利便性が高い割には城南、城西に比べて価格が抑えられていることに魅力を感じる層が集まってくるのではないか」(松田氏)。
小岩周辺は、「億ション」が増加した東京都心に比べて、まだサラリーマン家庭にとってギリギリ手が届く範囲で供給が可能な地域となっており、ある意味で「最後のフロンティア」と言えるかもしれない。
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