サッポロビール新社長が語る「主力の『黒ラベル』と『ヱビス』で勝負!」
財界オンライン / 2021年9月1日 18時0分
「ありとあらゆるカテゴリーに経営資源を投下するのは非効率」──。コロナ禍で飲食店向けの需要がしぼむ中、看板ビール「黒ラベル」「ヱビス」の缶商品がプラスで推移するなど、奮闘を続けるサッポロビール新社長の野瀬裕之氏は語る。販売数量だけを追わず、ビールが持つ独自性や自社の強みを前面に打ち出していく考え。マーケティング畑出身の野瀬氏が見据えるサッポロの生き抜き方とは?
ビールは経営の一丁目一番地
「(1876年の「開拓使麦酒醸造所」として創業以来)140年以上の歴史、いわばストーリーがある。この財産を活用してビール需要の掘り起こしを進めていきたい」──。こう語るのは3月30日、サッポロビール社長に就任した野瀬裕之氏だ。
コロナ禍で飲食店向けの業務用は大きな打撃を受け続けている。4度目の緊急事態宣言が発出され、「底を打っていない」と野瀬氏は見る。大手ビールメーカー4社の2021年上半期(1―6月)のビール類販売動向でも前年同期から6%の減少となった。特に業務用は3割減。昨年が市場の〝底〟になると見込んでいた各社にとっては、想定外の結果と言える。
各社が前年割れを続ける中、サッポロビールも前年同期比5%の減少に見舞われた。ところが、個別の商品に焦点を当てると違った光景が見えてくる。同社の主力ビールブランドの1つである「黒ラベル」の缶商品の販売数量は113%を記録しているからだ。「ドライブがかかっている」と2桁増を記録したことに野瀬氏も手応えを語る。
16年連続で市場が縮小している上に、他社の主力ビールが苦戦する中でも黒ラベルの缶商品は15年から6年連続で前年を上回っていた。10年から始めたメッセージ性の強いテレビCMを展開するなど、ブランドの若返りを図り、20~30代の若年層から共感を得てきたからだ。
そこにコロナ禍での追い風もある。「黒ラベルは飲食店で飲まれることが多かったが、飲食店の休業などを受けて家庭で飲むビールとして選ばれている」と野瀬氏。黒ラベルが持つ体験価値を求め、消費者が量販店で購入していると見られる。
加えて、昨年10月の酒税法改正によるビールの値下げや在宅勤務の普及で節約志向の強い主婦に代わり、「ビールを飲む本人が自ら店頭で黒ラベルを購入するようになった」(同)ことも販売が伸びた背景にある。
26年までに酒税改正で2度、ビールが減税されることは「ビールが復活するチャンス」と見る。
そもそも黒ラベルはビールの風味を劣化させる酵素を持たない大麦から生まれた同社独自の「旨さ長持ち麦芽」を使用。味や香りを新鮮に保ちつつ、同時に泡持ちもアップさせている。
同様の理由からサッポロのもう1つの主力ビール「ヱビス」の缶も約104%で推移。昨年は4年ぶりに前年を上回った。「ビールは経営の一丁目一番地だ」──。野瀬氏は同社の祖業かつ歴史のあるビールに主軸を置いて成長させる考えだ。
ビール類の中でビールの構成比率が約7割と他社より高く、販売数量でも業界4位に位置するサッポロにとっては「ありとあらゆるカテゴリーに経営資源を投下する余裕はない」(同)。そこで同社はメリハリを利かせた商品展開を計画している。
ビールは「多様性を前面に出す」と野瀬氏。昨年12月には1912年に九州で創業した帝国麦酒が翌年竣工した九州初のビール工場で製造した「サクラビール」を、また今年5月には1877年に同社の前身である開拓使麦酒醸造所が発売した、現存する日本で最も歴史のある「サッポロラガービール」(通称「赤星」)の缶など、ストーリーのある限定商品を発売している。
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秋から微アルコール商品を投入
サッポロの特色と言えば、不動産事業だ。グループの営業利益への寄与が大きい。代表格が「恵比寿ガーデンプレイス」。ビール名が街の名になった恵比寿の地でビール醸造の再開に乗り出す構想もある。「JR山手線の内側で作ったビールを味わうという特別な体験ができる」と野瀬氏は構想実現に意欲を示す。
一方、酒税改正で今後、値段が上がっていく発泡酒・新ジャンルでは「集中型」(同)の戦略をとる。同社は「麦とホップ」「ゴールドスター」の2つに経営資源を振り向け、「味の価値を上げていく」と野瀬氏は話す。
そして、新たな需要の創造という役割を担うのが微アルコールビールテイスト。同社は9月からアルコール度数0・7%の「ザ・ドラフティ」を発売する。「ビール好きの方が飲まない、飲めないというときにノンアルコールでは満足できずに我慢しているシーンがある。そんなときの選択肢の1つとして提案する商品となる」(同)
ビールは140年以上の歴史を絡めて味の多様性を打ち出していく一方、誕生から10~20年程度と歴史が浅く、自由度が高い発泡酒・新ジャンル、そして酒税が課されず収益性が高いと見られるノンアル・微アルといった分野では様々なチャレンジをしていくことで、アルコール飲料の可能性を生み出し、新たなニーズを創造していく。
野瀬氏はサッポロの強みについて「日本人の手による国産ビールの実現に代表されるイノベーションを起こし続けること」と表現する。同社は世界で唯一、大麦とホップの両方を「育種」し、「協働契約栽培」しているビール会社。業界でもいち早く新商品を投入してきた。
実際、野瀬氏が開発に携わった04年発売の「ドラフトワン」は業界初の新ジャンル商品だった。「世の中を驚かし、生活を変えていくことをコンセプトに掲げて開発した」と振り返る。
近年、若年層のビール離れが進んでいる上に、今回のコロナ禍で生活様式がガラリと変わった。その中で自社の経営資源や強みをもう一度見直して需要の掘り起こしを進める野瀬氏。業界では〝いぶし銀〟と呼ばれるサッポロの腕が試される。
アサヒに続きサッポロも参入、「低アル市場」が新たな潮流に
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